第二部「破滅を照らす者:魂を映す者」その5
目次
第12章「鏡面下の死地」
第13章「完璧主義の十字架」
第14章「情報という武器」
あとがき
第12章「鏡面下の死地」
「あの先に敵の拠点がある…ってことは…」
「め…目の前にある森は……偽物ってことですか!?」
「はい…恐らくですが、カモフラージュ用の魔法ではないかと思われます…」
あっ…そもそもそれ以外に無いか…
「問題は…私達はここから敵拠点を視認する事ができず、相手からは私達を視認する事ができる可能性があるという事ですね…」
「さて…どうする?まぁ…アイデアは有るんだがな…」
【星次はそういうと、流輝の方をチラッと見た。】
「え〜っと…な、何で俺の方を…?」
「ま…まさかとは思いますが…星次さん…?」
「多分…俺の考えはあんたの予想通りだろうな。」
え?どういう事?
「その方法は確かに先程挙げた問題を解決出来ますが…それでは流輝さんが危険な目に遭う可能性が…!」
「そうだよなぁ……アイツだけだとなぁ…」
だから何でこっちをチラッて見るんですか!
「ちょ…あの…俺が何ですか?確実性はあるけど危険性があるって?教えてくださいよ!!」
「お前の『異能力』だよ。確か周りのヤツらからバレなくなるやつあっただろ?」
「あ〜!『幻影』の事ですか?音と時間制限にさえ気をつければほとんど見つからない…」
見つからない…
「あ…」
「はい…そういう事ですがリスクが…」
「流輝君に1人で行ってきてもらうってことっすか?」
「あぁ。だが…俺達の中で1番荒れ事とは無縁の貧弱なヤツを1人で何があるかも分からねぇ場所に放り込んだらどうなるか…」
はい〜?
「あの…当たってるんですけど言い方酷くないですか!?ちょっと偵察に行って帰ってくるくらいなら…俺にだってできますよ!」
「流輝さん…?確かにそうかも知れませんが…」
「そうか…よく言った。漢に二言は無ぇ…だよな?」
「星次さん……!?」
「流石にこれくらいできますって!任せて下さい!!」
「あ…あの…」
「よし、行ってこい!」
「星次さん!?」
「はい!」
よし!やってやる!
俺にも出来るってことを見せつけてやる!!
「待って下さい!少し冷静に…」
「皆さん!行ってきます!
『幻影』、3minute!」
【流輝がそう唱えると、彼女達は彼を認識する事が出来なくなった。その事を確認すると、彼は真っ直ぐ偽物の森へと進んだ。】
「流輝さ〜ん!?」
「…やっぱりアイツちょろいな。」
「ジョゼさんが流輝君みたいな反応してるっすね。」
【流輝は彼らの話し声を気に止めることなく、1人で勇敢に進んでいく。】
確かに…星次さんの言ってることは正しいですよ?
でも…あの態度っていうか…なんかこう…
『いやぁ…こいつしか適任は居ないけど……こいつに出来るわけねぇよなぁ…雑魚だし。』
みたいな感じで言われたら流石に俺もムキになりますよ!!
それにいつまで経っても役立たずは嫌ですし?
これくらいの簡単な事なら出来ますし?
【そう考えながら歩いていると、偽物の森の境界線にできていると思われる空間の揺らぎがある場所まで辿り着いていた。】
覚悟を決める時間は要らない…!
だって3分間しか『幻影』の効果時間設定してなかったから!
ムキになってカッコつけようとしてめっちゃ短くしちゃったから!!
行くぞ!
【彼が揺らぐ空間へと足を1歩踏み入れると、空間の揺らぎが一瞬強くなったがただそれだけで、壁のような物は一切なく、すうっとその奥へと足を踏み入れ事ができた。】
「うわぁぁぁあ!足が!足が無くなった!!くっついてるけど見えなくなった!!ってか声出しちゃった!!」
いや…
「そういえば『幻影』使ってる時は俺の声は周りの人に聞こえないんだった…」
もう片足突っ込んじゃったし…さっさとこの奥に…
「し…失礼します!」
【彼が覚悟を決めて揺らぐ空間の奥へと進むと、突然景色が変わり、先程まで見えなくなっていた足も見えるようになった。】
「へっ…?どこですかここ!!めっちゃ綺麗だけどさっきの森は!?ってかあんなアルプス山脈みたいなの無かったって!!あとジョゼフィーヌさんが出してくれてた蔓から綺麗な青い薔薇が咲いてる!!」
…ってことはここってやっぱり敵拠点じゃないですか!
あれ…もしかして…
【彼は今来たところを振り返り、顔だけをそこに突き出した。すると、先程まで自分がいた場所や、ジョゼフィーヌ達の姿が見えた。】
やっぱり!
ここが境界線だったんだ!
「でもこれどうなってるんだろう…なんにも分かんないな…でもここの内側からは皆のこと見えないっぽいし…」
【彼が1人でそう考えていると、2つのテントの中から教団員が1人ずつ出てきた。すると2人はキャンプファイヤーの前に座って会話を始めた。】
「良く寝たぜ…ところで、アイツらは?どこ居るんだ?」
「あぁ?お前寝てたのかよ…アイツらはさっき起爆したブービートラップのある場所まで偵察に行ったよ。ここまで爆発音が聞こえたってのに…お前すげぇな。」
「マジかよ…気づかなかったな…」
「にしてもアイツら遅ぇな…確か1時に爆発音が聞こえて…そんですぐ見に行ってたが…」
「今は…2時丁度か。1時間も経ってるじゃねぇか!」
「まぁ別に良いか…どうせ爆弾置き直してるかそこら辺でも探検してるんじゃねぇか?」
「まぁそうだな…」
ば…爆発音はここまで聞かれてるけど…
この人達が雑で良かったぁ〜あ!
なんか結構のんびりしてるし…今の内にここの情報集めよ!
第13章「完璧主義の十字架」
彼が異能力を発動した時刻は午後1時59分30秒…
彼に残されたタイムリミットは午後2時2分30秒まで
だ。
「流輝さん…」
「まぁ大丈夫だろ、あいつはやる時はやれるやつだ。確かに…ちょいと頼りねぇかも知れねぇが…」
「いえ!流輝さんの能力を疑っている訳では無いのです。ただ…私は…」
私は…
「どう…表現するべきかは分かりませんが…悔しいのです。私は…私達の部隊は…平和な世界と善良な人々を守り、悪を裁くために常に生きてきました…」
「だから危ない事をしたり犠牲になったりする役は自分であるべきなのに、その役を自分が守るべき人間がやっているのが悔しい…か?」
「ふふっ…!私に『隠された真実』を…いえ、それだけでは推理できませんでしたね。」
「あぁ…んなもん使うまでもねぇよ。確かに俺達は出会ってから短ぇが…ここに来るまでずっと助け合った仲だ。お前らの考えなんて大体予想つくんだよ…特に真面目な奴らはな。」
「星次さんはもはやカウンセラーやメンタリストのように相手の心理を読みますね!」
「まぁ…アイツのことも、これから先の事も含めてだが…アンタがいちいち気負いすぎるこたぁねぇよ。俺達は確かにあんた程の実力はねぇし経験もねぇ。だがな…」
【彼はそこで言葉を切ると、少し悲しげな微笑みを一瞬浮かべて言葉を続けた。】
「俺達だってガキじゃねぇんだ。自分が何をするべきかも分かるし、そいつにしか出来ねぇことだってある。それに…俺達は全員が覚悟して自分からこのゲームに立ってる。もしもの事が起きても自己責任だ。」
「そうっすよ。ジョゼさんの気持ちも分かるんすけど、ずっとそんな事考えてたら心が持たないっすよ。」
【彼らの話を聞いていた春喜が突然口を開いた。】
「ジョゼさんの考え方は凄いっすよ。でもそれだと生きてる限りずっと自分を犠牲にして、誰かの犠牲も自分の犠牲にする事になるんじゃないかなって思うんすよね。」
「あんた…たまに深いこと言うよな。」
「世の中ってどんなに頑張っても理不尽で避けられない事が訪れる事もあるんすよ。誰かを助けようとした時にギリギリ間に合わなくて、自分がその人を助けられたかも知れないなら、後悔し続けるのは誰にだってあると思うんす。」
あぁ…そうだ。
私はその後悔を痛いほど知っている。
あの時こうしていれば、私のことを信用し、背中を預けてくれた大切な仲間達は傷一つ無く無事に帰れたのではないかと何度も考えている。
幸いな事に…未だに死者は出ていないが…
それでも私の指揮によって仲間が傷ついたという事実が覆ることは無い。
「でも、最初から自分がその人を助ける事ができない状況だったのに、その人が傷ついたのを自分のせいにして後悔するのはあんまり良くないっすよね。例えば治らない病気とか、事故とか、僕達でいうと急に変な家に閉じ込められるみたいな絶対に予想できなくて対策できない事みたいな感じっすね。」
「…っ!」
『ジョゼフィーヌ様は優しすぎるんですよ。あんなの誰にでも予想できない…不幸な出来事だったんですよ。だからそうやって自分を責めないで下さい!ジョゼフィーヌ様には何一つ落ち度はありませんし、私のこの怪我を貴方様が自分の罪のように背負い続ける必要は無いんです!』
『そうですよ!貴方様のおかげで私達はこの程度で済んだんです!』
『お姉様、皆さんもあの様に仰られていますし、どうか元気を出して下さい!誰も背負う必要の無い重荷を背負わないで下さい…それが無理ならせめて…1人で抱えるのはどうかお止め下さい。私が…私達がすぐ側に居ますから…』
「ジョゼさんは優しすぎるんすよ。他人事を自分事に感じて相手の事を深く思いやる事も、誰かのために過去を一生後悔するのも簡単じゃない凄いことっすよ。でもそんな大変なことを続けてたら自分の方が参っちゃうんすよ。」
「はい…確かにそうも知れませんね…」
「だからってジョゼさんの考えが悪い訳じゃないんすけど、過ぎたことはその結果で妥協して、次にその悔しさとか経験とかを活かせば良いんすよ。ジョゼさんは誰かに優しすぎるせいで自分に完璧を求め過ぎて思い詰めちゃうんすよ。」
過ぎたことをその結果で妥協して諦めるのでは無く、次に繋げる…か…
「そう…ですね!過去を変えることが出来ないのならば、過ぎた出来事を呪うよりも…未来をより良くするためにそこで得たものを活かすべきですね!至ってシンプルで…とても大切な事です…」
「あと、自分に完璧を求めるのも少しは抑えろ。俺達はただの人間だ、1人じゃ解決しねぇことは腐るほどある。だからその時は割り切って…誰かに助けてもらうしかねぇ。今も…ただあいつが1番偵察に向いてて、あいつに任せる方が最善で安全で、確実な方法がこれしか無かったってだけだ。」
「皆さん…ありがとうございます…」
「まぁ、こんな事でいちいち悩まれてメンタル折れられたら終わりだしな。にしても…俺達は全員がそうだが、1番あんたら2人の正体が全く分かんねぇな…あんたは記憶喪失だが、いきなり別人みてぇに語彙力豊富に深いことを話しやがる。そんであんたは…よく兵隊のことは知らねぇがそこら辺のやつとは明らかに…」
「み…皆さん、戻ってきましたよ!生きて帰れました…!!」
第14章「情報という武器」
「流輝さん!お怪我はありませんか?」
「はい!大丈夫ですよ!それと…偵察もバッチリです!」
「無事にお戻りになられて良かったです!」
「お手柄っすね。」
「あぁ、良くやった。後はお前の情報から作戦を考えれば…」
「私に良いアイデアがあります!」
「おぉ!その内容は?」
「流輝さんも、偵察で得た情報を言葉で説明するより、見てきたものを直接地図にした方が簡単で、私達も理解しやすいはずです。なので…」
【彼女はそういうと、『死神の薔薇』を取り出した。】
「先程の『骸に咲く花《Corpse Flower》』を利用した、教団員の記憶を抽出したナビゲートの応用をします!」
「へ?」
「流輝さんの血液を1滴だけ頂いてもよろしいでしょうか?」
「は…はい!とりあえず…どうしたらいいですか?『彗星』で手を…」
「いえ!そこで腕を前に伸ばして手を広げていただければ!」
「何か…お前は臆病なのか思い切りが良いのか分かんねぇな…」
【彼女は、彼が言われた通りに手を広げたのを確認すると、『死神の薔薇』を地面に突き刺した。すると、流輝の目の前の地面から蔓が生え、彼の手を目掛けて真っ直ぐに伸びて行った。】
「うわっ!?びっくりした!」
「これからその蔓を軽く巻き付けて、小さな茨を1つだけ流輝さんの小指に突き刺します。ほんの少しチクッとするかもしれませんが、血液を採取出来たら即座に止血致しますので…少しだけ我慢して下さいね!」
「な…なるほど…注射みたいな感じですね…?」
「ふふっ…!確かに似ているかもしれませんね!それではいきますよ…」
【彼女がそういうと、地面から飛び出した蔓は優しく、ゆっくりと流輝の腕に巻き付き、蛇のように彼の小指を目指してくねくねと伸びて進んで行く。そして、蔓が彼の小指の先に到着すると、ぐるぐると巻き付きついて小指を覆い隠した。】
「うぉ…何かくすぐったいし…小指にキャップはめたみたいになってる……ん?ジョゼフィーヌさん?蔓がだんだん外れていくんですけど…」
「はい!もう採血は完了しました!」
「えっ!いつの間に!?」
「『祝福』はある程度の事は使用者の思いどおりになるので、茨を…とても小さくて細い針の様にしました!」
「な…何でもありだ…」
「ちょっと気になったんすけど、ジョゼさんのそれって地面に突き刺さないと操れないんすか?」
「いえ!地面に接触していなくても操作できますが、この方がより精密に操作しやすいので柄や刃を地面に突き刺しているだけです!」
「そんで…こっからどうすんだ?」
「流輝さんが敵拠点で得た情報を血液から抽出し、その情報をこの蔓で出力…つまり…蔓で地図を作ります!」
「う〜ん…!?」
「は…はぁ…?」
「凄いっすね。」
「それでは…ここは皆さんに分かりやすいように『詠唱』をやってみますね!」
【彼女はそういうと突き刺した『死神の薔薇『死神の薔薇』を両手で握り直し、先程伸ばした蔓を見つめると口を開いた。】
「我が内に宿りし花の力よ…彼の者の血の記憶をすくい上げ、我らの望む道を記せ!」
【彼女が詠唱を終えると同時に、静止していた蔓が高速で動き出した。それはとても素早く正確に円や四角を描き、更には文字さえも表し、一瞬で植物の地図を完成させた。】
「おぉ!凄い!そうですそうです!こんな感じですよ!!でも…『へカーティア』って人がどこにいるかは分かりませんでした…」
「いや、こんだけ分かれば十分だ。戦いで1番の武器は情報…だろ?」
「はい、そうです!流輝さんのおかげで、私達はとても有利に立ち回れます!相手には私たちに関する情報は一切なく…こちらは『祝福』という力と『情報』のアドバンテージがあります。」
「これは…思ったより楽に済みそうじゃねぇか。マジでお手柄だ。」
「お…お役に立てて…嬉しいですッ!!」
「では、作戦を考えたのでお伝えしますね!まずは2人ずつのチームに分かれて…奇襲をしかけます。」
「チーム分け…かぁ…誰と誰が組むんですか?」
「まず、αチームに私と星次さんが、βチームには流輝さんと春喜さんで別れて行動します。αチームは左側から、βチームは正面からです!その理由と詳しい作戦内容は…」
【彼女はそういうと、作戦内容の説明と役割の指名をテキパキと指示した。】
「なるほどな…後は敵の位置が変わってないかってのと…俺のギャンブルが上手くいくかってとこだな…」
「そうなりますね…ですが!もしもの事があっても臨機応変に対応致しますのでご安心を!」
「じゃ…じゃあ俺は全力で『彗星』の『星影』を使えば!」
「はい!ですが、魔力は全て消費しないようにして下さいね!」
「分かりました!」
「流輝君と僕は少し遅れてから突撃であってるっすよね。」
「はい!具体的には私達が突撃してから…3秒程遅れてから奇襲を仕掛けていただけると助かります!」
「じゃあ少し時間をくれ…コイツを使う。」
【彼はそういうと『|天国と地獄《Eden&Hell》』を取り出した。】
「それじゃあ…戦の前に神頼みといこうか。別に信じちゃいねぇけどな。」
あとがき
今回は主人公達のギャグだったりシリアスな展開の会話になっている掛け合いがとても多い回になってしまいましたがどうだったでしょうか?
本来は戦闘シーンを入れたかったのですが、以外と会話が長くなってしまったので申し訳ないですね…
なので、次回は戦闘シーンが多めに入ると思います!
ジョゼフィーヌが考えた作戦の内容と他メンバーの動きも予想してみて下さいね!
コメント・感想もお待ちしております!
投稿が遅れてしまったので、明日は一気に投稿します!