第二部「破滅を照らす者:魂を映す鏡」その4
目次
第9章「美しい薔薇には棘がある」
第10章「蔓の導き」
第11章「水底の真実」
あとがき
第9章「美しい薔薇には棘がある」
「う……」
クソっ!頭が痛てぇ……
「ここは…?」
…森か。
確か俺は…いや、俺達はここで…
「目が覚めましたか?」
「ひっ!?」
この声は…
『流輝さんと星次さんが心配ですね…ここは手早く切り抜けてお二人と合流しましょう!』
『ついて行くっすね。』
『はい!私の傍を離れないで下さい…皆さんは私がお守り致します!』
あ…あの女の声だ!!
…あの女は…バケモンだ!
『おいおい!かわいいお嬢様が居るじゃねぇか!』
『あぁ、そうだな…それとデカブツも居るぜ。』
『頼むから武器を下ろして大人しくしてくれよ…別に取って食おうって訳じゃねぇんだ。』
『銃とナイフを私達に向けながらでは…その言葉に全く説得力がありませんね。』
『なんだ?俺達とやるか?2対4だぞ?そっちはのろそうなデカブツと長物抱えたか弱いお姫様のタッグ…俺達は近距離戦に有利な武器ばっかり持ってるんだぜ?そこんとこどうよ。』
『落ち着けって…相手は世間知らずのお嬢様と筋肉バカだぞ?』
『ハハッ!そうだな!!』
…ジェイクが笑ったあとからが地獄だった。
いま思えば1列に並んでたのも間違いだった…
あの女が何か言いながらライフルを回したと思ったらクソでけぇ鎌が出てきたんだ!
そんで…俺の左側に居た3人はあの女に一瞬で距離を詰められて…
『し…死神…ッ!?』
それにビビってたら目の前にデカブツが立ってて…
その時には右目から意識がシャットダウンしやがったんだ!!
「うわぁぁぁああ!」
「逃げようとしても無駄です。目が覚めたら先ずは自分の体の状態と周囲の状況把握からが基本ですよ?」
「は?何だよこれ…あ…足が!体が!!」
変なのが巻き付いてて動けねぇ!
「それは私の『魔法の植物』です。その蔓は私の命令に従いますし…皮膚を容易く貫通する茨を生やすことも出来ますよ?」
「あ…あいつらをどうした!」
「てめぇは馬鹿か?」
なんだコイツは!
こんなジャケット着た奴なんか居たか!?
「お前の後ろだよ、あんたと仲良くぐるぐる巻きさ。良かったな、一緒にいい夢見れて。」
今見てるのが夢ならどれほど良かっただろうな!!
「それと…良い事を教えてやる。それは、全員の首がくっついてるって事だな。お前含めて…まだしっかりとくっ付いてる。」
「そして貴方は…皆さんの中で最も早く目覚めた優秀な方ですよ。いえ…優秀かどうかはこれから決まるのですが…」
「お…俺達をどうするつもりだ!?」
【教団員の問いかけには答えず、彼女は無言で大鎌を持ってゆっくりと彼に近づくと、黒い刃を彼の首に掛けた。】
「ヒッ…!?」
「少し…お話しましょうか?」
あぁ…これだけは言える!
もう二度と…人を見かけで判断しねぇ…
それと…最初に目が覚めちまった俺が1番の被害者だ!!
第10章「蔓の導き」
「あ…あの…どうでした?」
「上手くいったぜ、こいつのお陰でな。」
「いえ!あの方達が自分から快く話してくれましたよ!」
「…あんたも冗談が言えたんだな。」
「うふふ…そうですね!正確には、自分から『話させて欲しい』と言わせるきっかけを作って差しあげただけでしたね!」
「ひっ…一体…な…何を!?まさかその大鎌で…」
「お話です!直接危害を加えていないので安心して下さいね!」
お話…ね…
そんなに穏やかなもんじゃなかっただろ…
「今はどうなってるんすか?」
「植物状態になって頂きました!」
「…マジの植物状態だけどな。」
「えっ?それってどういう…」
「私の『死神の薔薇』の能力、
『骸に咲く花《Corpse Flower》』で蔓と茨を教団員の皆様の手首に繋げ、光合成による栄養と麻酔成分を点滴のように与え続けるようにしてあります。つまり…」
「つまり…?」
「私達が教祖を倒し、降臨の儀を阻止するまでの間…皆さんにはずっと飲食物を摂取せずとも安全に眠ってもらえるということです!」
「…さらっとヤバいこと言ってません!?」
「因みに、教団員の皆さんに脅威が近づいた場合は、蔓と茨が自動で迎撃し状況に応じた対応をするようにしてあります!『祝福』や『魔法』は本当に便利ですね!」
「アフターケアもバッチリってな。まぁ…そんなところだ。」
「ジョゼフィーヌさんってたまにもの凄い事しますよね…いや、いつも凄いけど…」
「とりあえず報告だ。あいつらから得た情報は…トラップの無い安全なルート、拠点にいる敵の数と大体の配置、装備、その他にも色々あるが、今役に立つような情報と大事な情報は無かったな。」
「ですが、気になることを言っていました…」
「それって?」
「これは…いま話すべきかは迷っているのですがお伝えしておきます。」
「それは…あの爺さんから貰った情報か?」
「はい、それは『真名の支配』という魔法の情報です。これは歩きながらお話しますね!」
「あっ…そうですね!しっかり休めましたし!」
「では…私の能力に案内してもらいましょうか!」
「え?」
「どういう事っすか?」
「あ〜…さっきのやつか。」
「簡単に説明させて頂くと…私のこの『死神の薔薇』のスキル、『骸に咲く花《Corps Flower》』を利用し、先程尋問した方の血液を茨で採取し…その血液から拠点までの位置情報の『記憶』を引き出し、その場所まで自動的に蔓と花でナビゲートします!」
「便利過ぎません!?」
【彼女が大鎌の柄を地面に突き刺すと、そこから蔓が伸びていき、目的地へと進んで行く。】
確か…魔法ってのはほとんどが思考と精神で決まるってたな。
元からあいつの鎌にこんな能力は無かったが…
こんなナビゲートができてるってことはこれもあいつのオリジナルだろうな…
「じゃあ行くか。」
「そっすね。」
【皆は立ち上がると、森に入った時のように1列に並んで彼女の後を、彼らを導く不思議な植物の後を着いて行った。】
「で?その『真名の支配』ってのは?」
「マーリンさんから頂いた情報なのですが、この魔法は普通の魔法と比べても簡単かつ強力な魔法で、全ての魔導師はこの魔法を恐れているが為に本名は明かさず偽名を使うそうです。」
「本名を知られるとまずいって事か。」
「はい!この魔法を使うには、『相手の真名を完全に知ること』、『相手の顔を見ること』の2つの条件があり、両方の条件を満たさなければ発動することは出来ないそうです。」
「じゃあ、下の名前だけ知られてても大丈夫なんだな?」
「はい!」
「そんで…その魔法の効果は?」
まぁ大体予想できるが…
答え合わせはすぐやる方がいいに決まってる。
「…2つの条件を満たした相手を、相手の意志に関係無く自分の思うがままに支配できるというものです。この魔法を解除する方法は、使用者を殺害するか情報を忘れさせるしか無いそうです。」
「マジかよ…」
「名前と顔がバレたら負け確じゃないですか!?」
「ヤバいっすね。」
「そして、私が気になった発言なのですが…あの方達を尋問した際に、『俺達は教祖様に名前を捧げてる。だから質問に答えたくても答えられねぇこともあるんだ!』…と言っていました。」
「確かに言ってたな、それはつまり…教団員は全員が教祖に支配されてるかもしれねぇって事か。」
「あ…あの…今めちゃくちゃ怖いパターンが浮かんだんですけど…」
「何だ?」
「教祖の能力がよくゲームとか漫画にある…見ただけで相手の情報を取れる能力とか…そもそもとして相手を支配するっていうものだったら…?」
「いや…それは無いんじゃねぇか?あったとしてもそこまで便利なもんじゃねぇだろ。」
「えっ?」
「お前が考えてるような能力なら、あの爺さんは教団をぶっ潰そうとしねぇだろ。」
「またはそのような能力があったとしても条件があるタイプのものという可能性もありますね!マーリンさんが規格外という可能性もありますが…」
まぁ確実に規格外だろうな…
「じゃあ…だ…大丈夫そうですね…」
【彼らがそう話しながら歩いていると、少し開けた場所に辿り着いた。】
「あれ?何か有りそうなのに…もう少し奥の方にあったり?」
「まだあの蔓が伸びてるっすよ。」
「もう少し様子を見ましょう!」
第11章「水底の真実」
【皆がくねくねと伸びて蛇のように進んでいく蔓を見守っていた時、後ろから吹いた風が木々を揺らし、美しい緑色の葉を宙に舞わせた。その様子を見ていたジョゼフィーヌは、とある奇妙なことに気づいた。】
なぜ…周辺の木々は揺れているというのに…
あの蔓が伸びる先に生えている木々は揺れなかったのだろうか?
それだけではない…
草や花も風に吹かれていたはずなのに…
いや、正確には…揺れ方がおかしいと言うべきか。
風が吹けば、もちろんその風に合わせて植物は揺れ動くはずだ。
しかし、あの植物は風が吹く前から規則的に動いていたうえに…風が吹いた時でさえも一定の動きを繰り返している!
あの規則正しい動きは…今この場では不規則とも言える程に不自然だ。
まるで…動画のループ再生だ。
「皆さん…聞いて下さい。」
「何だ?」
「あの蔓の先にある植物は…何かが異常です。常に規則的に動いており…静止することがありません!」
「へ?」
「…確かにそうっすね。」
「……どういう事だ?」
「ん…?あれ…?」
「どうした?」
「ジョゼフィーヌさんの蔓が……急に止まっ…いや…止まったにしては…?」
「は?」
「ジョゼフィーヌさんの蔓の先が急に……消えたのかも…しれません…」
「何言ってんだお前…」
「いや!話を聞きながらずっと蔓を見てたんですよ!そしたら…あそこから急にパッと!」
「その瞬間見てないんで分かんないっすね。」
「…急に止まったわけじゃ無さそうだが…何かわかるか?」
「はい…私は、『目的地に到着するまでナビゲートを行い、目的地に到着したら青い薔薇を咲かせ、その場で留まること』と蔓に命令しているので…急に消えたり停止することは……ッ!?」
「どうした!?」
「皆さん!あの蔓のすぐ近くの空間をよく見て下さい!」
「空間…?」
「……ん…?……え?」
「何かおかしいっすね。」
「な…何か……動いてませんか!?」
「あぁ…!気のせいじゃねぇ!」
「はい…あの動きはまるで…波打っているかのようです!」
【蔓の先が見えなくなったあたりの空間は、よく見ると蔓を中心として波紋が広がっていた。それはまるで水面に水滴を垂らしたかのように、振動を与えたかのように、ゆっくりと、そしてカーテンのように滑らかに揺らめいていた。】
あの蔓は伸び続けているはずだ…突然、その先が消えたわけでも何でもない!
見えなくなったのだ…
例えるならば…濁った水面下へと手を伸ばしたかのように…手は消えた訳ではなく、そこにあるが見えないという状況と同じだ!
つまり…
「皆さん…あの先には…敵の拠点があります!」
あとがき
ここまで読んで頂きありがとうございます!
次回はとうとう警備部隊の拠点への潜入になります!
拠点のマップ制作、挿絵の制作(AIにおまかせ)を急ぎ、なるべく早く執筆を始める予定ですので、上手くいったら早めに出します!
コメント・感想お待ちしております!
それでは次回もお楽しみに!