第二部「破滅を照らす者:魂を映す鏡」その14
目次
第43章「姿のそる映にさ逆」
第44章「怨嗟と絶望」その1
第45章「怨嗟と絶望」その2
あとがき
第43章「姿のそる映にさ逆」
「へカーティアさん…先程の私の宣言通りに… 貴方にはここで、皆さんの為に死んで頂きます!」
【彼女の言葉を聞いたへカーティアは、鏡から取り出した短剣で足に巻きついた蔓と茨を切りつけ、『骸に咲く花《Corpse Flower》』による拘束から抜け出そうとしたが、彼が抜け出るよりも早く新たな蔓と茨が何度もその部分に巻き付き、吸血を再開する。】
「バケモンが…お前だけ明らかに『祝福』のスペックが桁違いじゃねぇか!クソッ…テメェ…血と魔力…を……やっぱりテメェは…」
【拘束に抗っていた彼の声は徐々に小さくなっていき、左手に手鏡を、右手に短剣を握ったまま、後ろへと倒れて仰向けになった。】
「気絶したんすかね。」
「さぁな…だが…」
【星次はそこで言葉を切ると、ハンドガンの銃口を倒れているへカーティアの頭に向けた。】
「殺るなら今だ…!」
「皆さん、待って下さい!」
「どうした?」
「彼は…私が死亡したと判断した瞬間…星次さんと流輝さんが銃を構えているのにも関わらず、近接武器を持って皆さんの元へと突撃を仕掛けようとしていました。つまり彼は…遠距離攻撃に対抗する手段を持っているはずです。」
「確かに…!戦うとしてもあの…鏡の破片?みたいなのを投げた方がいい気がするし…」
「なので…念の為に私が彼の首を斬ります。」
「…それもそうだな、だがこいつは顔が隠れてて見えねぇんだ…気絶したフリしてるだけかもしれねぇし気をつけろよ?」
「ご忠告ありがとうございます星次さん、ですがそこは問題ありませんよ!」
【彼女のその言葉に共鳴するかのように、『死神の薔薇』の柄から新たな蔓が伸び始めた。その蔓がへカーティアの頭の左右に枝分かれして彼の目の横まで伸びると、左右の蔓が彼の頭を包み込んだ。足に巻き付いていた蔓も伸び始めると、彼の両手に巻き付いた。】
なるほどな…蔓で床に磔にするのか。
いや、待てよ…?
「なぁ、あんたが近づくより…」
【そう話しながら、目線をへカーティアから上げて彼女の表情を見た彼は、そこから先を話す事が出来なかった。】
「星次さん?どうかしましたか?」
「いや…何でもねぇ…」
「そうですか…?では、私はこれから彼にとどめを刺しますので皆さんは…」
「は…はい…」
「分かったっす。」
【春喜と流輝は、彼女の言おうとしていたことを察すると後ろを向いた。しかし、星次だけはまだ前を向いていた。】
何で…あんな表情見せた後に…
なんにも無かったみてぇに振る舞えるんだよ…
【彼女のその一瞬の表情の変化を、普段とは違う雰囲気を感じ取ることは、一般人には不可能な事だった。しかし、人間の表情と感情の変化を見てきた彼は、彼女の心の変化を感じ取ってしまった。】
あんまりこんな使い方はしたかねぇんだが…
お前みてぇなタイプの奴は…内側がどんなに腐ろうと、ちょいと強引な手を使わない限り本心が見えねぇしな…
「『隠された真実』…!」
【彼は誰にも聞こえない程の小さな声で『隠された真実』を発動させると、目が緑色に淡く光った。】
不安、安心、冷静、焦燥、苦悩、悲しみ、哀れみ、無念、怒り、緊張、責任感、罪悪感、警戒、慈悲、庇護…
「なッ……」
何なんだよ…この感情の数と種類は…
何で真反対の感情が同時に存在してるんだ!?
どれが…何に対する感情だ…?
お前は今…何を思ってるんだ?
「…さん…?星次さん?」
「あぁ…何だ?」
「先程言った通り、これから残酷な光景が広がることになりますので後ろを向いていた方がよろしいかと…」
「いや、俺は大丈夫だ。それに…俺まで後ろを向いてると不測の事態に備えらんねぇだろ?」
「本当に…大丈夫なんですか?それにお疲れになられているような…」
「あぁ…大丈夫だ。」
俺は大丈夫だが…
お前は…
「……分かりました。では…」
【彼女は床から『死神の薔薇』を離し、両手で『死神の薔薇』を構えてゆっくりとへカーティアの元へと進んだ。】
「せめて…一瞬で終わらせましょう…」
【『死神の薔薇』に『骸に咲く花《Corpse Flower》』の蔓と茨が巻き付き、新たに青い薔薇が咲いた。すると、漆黒の刃が更に黒く鋭く、銀の葉と銀の蔓が光を放ち、15本に増えた薔薇が通常よりも大きく、美しく開花した。】
「さようなら…貴方の本物の忠誠心は…私が教祖へと伝えましょう…」
【持ち上げられた『死神の薔薇』が、青い薔薇の花びらを散らしながら振り下ろされた時だった。】
「そいつはどうも…」
「なッ!?」
「嘘だろ…!?」
「えっ!?」
【磔にされていたへカーティアはそう呟くと、両手の蔓を引きちぎり、両手の手鏡と短剣で強化された『|死神の薔薇《Reaper Rose》』を受け止めて跳ね返し、短剣で頭を包んでいた蔓を切り裂くと、手鏡の鏡面を彼女の目に向け、力強く叫んだ。】
「我は魔鏡!全てを違うこと無く映し出さんとする月の鏡!」
【その言葉を聞いた彼女は『|死神の薔薇《Reaper Rose》』を床に落とし、魂の抜けた人形の様に鏡面を見つめながら、その場に呆然と立ち尽くしていた。】
「今宵…月光を以て彼の者の表裏を暴き、映し出さん…!偽りを払い、真実を晒せ!!」
銃を撃つか?
いや…下手すりゃあいつに当たる!
しかもあいつの予想通りなら…弾は効かねぇんじゃねぇのか?
クソッ…一か八かだ!
「流輝ッ!あのクソ野郎にダガーを飛ばせ!」
「はい!行け、『彗星』!!」
【彼は、指示された通りに『彗星』をへカーティアに向けて飛ばし、そして願った。】
「間に合えぇぇえぇえ!!」
【しかし、その流れ星が願いを叶えることは無かった。】
「『反転せし虚像』!」
第44章「怨嗟と絶望」その1
【へカーティアが持つ手鏡の鏡面から、夜の闇よりも暗い黒い影が溢れ出し、動かなくなったジョゼフィーヌの全身を完全に覆い尽くす。それと同時に、『彗星』が彼の元へと到達しかけたが、右手に持っている短剣で軽く払われた。】
「ジョゼフィーヌさんッ!」
「あれは何なんだよ…ッ!」
【影に覆われた彼女は無抵抗のままその場に立っており、しばらくすると彼女は『死神の薔薇』の隣に倒れてしまった。】
「ハッ…ハハハハッ!!初めて使ったが…『詠唱』は上手くいった…みてぇだなぁ……後は…待つだけだ!」
【彼はそう言うと、足の拘束をといて立ち上がった。】
『詠唱は』?
魔法は完全に使えてねぇのか?
後は待つだけっつってたよな…って事は…
何かのタイムリミットがあるのか…!!
「お前…お前ぇえ!!ジョゼフィーヌさんにッ…何をしたァ!!」
「ハハハッ…っるせぇなぁ…俺はただ…『こいつの人格を反転させた』んだよ!考えても…みろよ。この善人のお手本みてぇな性格した奴が真反対になったときの事を…『善人の味方で、悪人の敵』みたいな奴だぜ?そりゃあ…ゲボッ…」
【彼はそこで言葉を切ると血を床に吐きながら、嘲笑うかのように話を続けた。】
「『悪人の味方で、善人の敵になる』…はずだよなぁ?もっとも…俺達は悪人じゃあねぇが…こいつは俺達のことを悪人だと思ってて…そんでお前らのことは『守るべき、弱き善人』ってところか?あぁ、なんでお前らがただの『善人』じゃ無くって『弱き善人』か教えてやろうか?」
【彼は嘲笑うかのような声で話を続ける。それを聞いていた星次が、春喜と流輝に声を掛けた。】
「いいかお前ら…深く耳を貸すなよ…あれは俺達を揺さぶろうとしてんだ…!」
「そうっすよ。全部聞き流した方がいいっすよ。」
俺達の中での一番の問題はこいつだ…
下手すりゃブチ切れて突撃しかねねぇ…!!
【星次が彼の顔を見たとき、不安は確信へと変わった。彼の目は完全に見開かれ、顔は怒りに歪み、息を荒くさせて歯を食いしばっていた。】
「どうせ…殺しはいつもこいつが担当だったんだろ?お前らが守る側になる事なんか1度も無かったんじゃねぇか?戦いもメンタルもクソ雑魚だったんだろ?だからこいつは守る事しか『出来なかった』んだよなぁ?守られることも無く、本気で戦うこともできず…」
「止めろ………」
【へカーティアの責めるような声と、怒りに満ちた流輝の声が空間を支配する。】
「挙げ句の果てには…」
「止めろ……」
「見殺しにされてお終いだ!!」
「もう止めろよ!」
【へカーティアの蔑みと、流輝の悲痛な声がぶつかり合う。】
「お前らのどこに『強さ』がある?こいつとは正反対の烏合の衆が…こいつに一体何をしてやったって言うんだ?」
「止めて……くれって…」
「お前らが1度でも足枷にならなかった事があったのか?答えてみろよ!!この善人ぶった…強者に寄生するだけのクソ野郎共がぁ!!!」
「うぁあぁあぁああぁああああッッ!!」
【へカーティアの責めるような、蔑むような言葉には、なぜか深い怒りと憎悪の感情がこもっていた。そして、その言葉を聞いた流輝は我を失い、今までに無いほどの雄叫びを上げ、全速力でへカーティアの元へと走った。】
第45章「怨嗟と絶望」その2
「待て!馬鹿野郎!!」
【星次の声は、彼にはまるで届いていなかった。彼は走り出すと同時に、『彗星』を右手に取り出し、左手で銀のリボルバーを持つと、へカーティアに斬りかかった。】
「ジョゼフィーヌさんを…ジョゼフィーヌさんを返せぇぇえぇえ!!」
「返す?取り返してみろよ!まぁ…てめぇみてぇなカスに出来るわけねぇけどなぁ!」
【流輝の振り下ろす『彗星』は、へカーティアにことごとく打ち返される。】
「遅せぇよ!」
【へカーティアは彼の隙を見逃さず、身をよじりながら彼の体を鏡の短剣で素早く切り刻んだ。】
「うぁあッ…!」
「痛てぇのか…?たったの1cmもねぇ傷が痛てぇか!!」
「黙れ!」
【彼は怒りに任せて何度も『彗星』を振り下ろすが、へカーティアはまたもそれを全て受け止め、わざと浅く彼を切り刻む。】
「あああぁぁぁあ!!」
クソッ…どうすりゃいい!!
あいつを撃とうにも…こんな状況じゃ素人の俺が撃てば誤射は確実だ!
かと言って能力は…
「ほら!やり返してみろよ!その手に持ってるのはただの飾りか?引き金も引けねぇのか?あぁ?」
「殺してやる…お前だけは…お前だけはぁ!!」
「止めろ!撃つな!!」
【流輝は『彗星』をへカーティアに投げつけると、両手で銀のリボルバーを構えて引き金を引いた。】
「お前は…あいつの警告さえも聞いてやれねぇのかぁ?このアホがよぉ!!」
【彼はそう言いながら、手鏡の鏡面を流輝に向けた。】
「お前も…痛みを味わえ!」
【彼が持っていた手鏡の鏡面の中に『彗星』と銀の弾丸がのみ込まれると、この2つが鏡面から発射され、流輝の左肩に銃弾が、右の脇腹に『彗星』が深々と刺さった。】
「かはッ…ゲブッ……へ…カーティ…ア……!」
【流輝は身体中から血を流し、口から血を吐きながら倒れた。】
「クソッあいつ…ッ!全部…賭けるしかねぇか!」
どうする…何に賭ける!
足の速さか?
いや…いくら早かろうが気絶した奴を2人も運べねぇし、こいつらを運べてもこいつは足が遅ぇ!
治療は…なんの解決にもならねぇ!
そもそもあいつが何で倒れてんのかも分かんないんじゃ治せるかも分かんねぇ!
力か…?
あいつはまだ俺の『祝福』を完全に知らねぇはずだ…
何とか近づいて殴れりゃあ…1発で終わらせられるか…?
クソッ…もう後がねぇ…
あれを使ってみるか!
「『|天国と地獄《Eden&Hell》』!」
【彼がその名を呼ぶと、ジャケットの袖から緑のカードが現れた。】
「『大勝負』…オール・イン!」
「何だ?魔力を全部ぶち込んでギャンブルでもするつもりか?良いぜ…待ってやるよ…」
「お前も時間が欲しいんだろ?座ってゆっくり休んでろよ…!」
「チッ…お見通しかよ…」
【星次は『|天国と地獄《Eden&Hell》』を右手で掲げ、ギャンブルの内容を宣言した。】
「プレイ…『HIGH & LOW』!俺が勝ったら…アイツを確実に殺す力を俺によこせ…!」
【彼が『|天国と地獄《Eden&Hell》』に命令すると、ゲームが開始された。すると、彼の左手に『Queen』が描かれたカードが召喚され、右手で掴んでいたカードが少し光り、伏せられた状態になった。】
『Queen』か…
「Lowだ!」
【彼がそう宣言すると、右手のカードがまた光り、数字が浮かび上がった。】
『King』…嘘…だろ…?
【彼がゲームに敗北すると、両手に持っていたカードが青色の光の玉となり、彼の心臓部へと入っていった。すると彼は、身体中から力が抜け、その場に立っているのでさえも精一杯になり、更には口と鼻から血を流して倒れた。】
「ハッ…どんな『魔道具』だったかは予想が付くが…お前は『魔法』の基本的なルールを破っちまったな…『魔法に絶対という命令を出した』のがいけなかった。まぁ、これを覚悟してそのルールを破ったかは知ったこっちゃないがな…お前のその覚悟だけは褒めてやるよ。後は…お前だけだな…デカブツ…!」
あとがき
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!
家の間取りを描くのに時間がかかり、結局、話を先に進めるのを優先しました。
最近は少し投稿が遅れているので、お詫びの意味も込めて今日中に続きを出してみようと思っています!
感想・コメントもお待ちしております。
それでは次回をお楽しみに!