第二部「破滅を照らす者:魂を映す鏡」その11
目次
第31章「カーテンコールの裏側で No.1」
第32章「カーテンコールの裏側で No.2」
第33章「カーテンコールの裏側で No.3」
第34章「疑問と答え」
第35章「月下の怪物」
あとがき
※今回の話もとても長くなってしまいましたが、第一部「夢現の狭間」をもう一度読み返しながら読むと、よりお楽しみいただけるかもしれません。
第31章「カーテンコールの裏側で No.1」
「マーリンさんから受け継いだ記憶…その内容を理解するには、メモの内容に沿ってお話をした方がよろしいかも知れませんね…」
【彼女はそう言うと、ズボンのポケットからマーリンのメモを取り出し、机の上に広げた。】
※メモの内容はあとがきの下にありますので、確認したい方はそちらを是非どうぞ。
「まず、マーリンさんがあの『禁域』に調査に赴く事になったのは…」
『私が君たちに聞かせた教祖の演説…その演説の終わりに初めて『禁域』についての軽い説明と、その『禁域』の中を調査しに行くという役割が私に与えられたんだ。そして、6月20日の午前12時…奴が城に使った魔法と同じもので完全に隠した孤島に、『ロキの化身』、教祖、ランダムに選ばれた教徒3人、そして私が集まり、その孤島に用意された至って普通の家に『禁域』を展開した。』
「…という事があり。マーリンさんが教祖である『レイ』に呼び出されたのは、『教祖を含めたロキの化身の中で最も魔法に関する知識と能力があり、生還率と有益な情報を得られる確率が高いから』という理由で、マーリンさんがこの儀式の役割を引き受けたのは『世界を終焉に導く儀式を阻止する手がかりが見つけられるかもしれない』、と考えたのが理由だったそうです。」
「これが始まりかぁ……ってあれ?至って普通の家って…明らかに狂った間取りしてましたよね?」
「マーリンさんにもはっきりとは分かっていないようですが、『禁域』は別次元や別空間、又は異世界の様なものではないかと考えているようです。そして、間取りが狂ったのは…例えるならば、この世界に全く別のデータが混ざってしまったことによってバグが起きた様なものでは無いかとの事です!」
「なるほ…ど…?何か別々の空間同士が混ざって空間が狂った的な感じだったら…あのお風呂場がおかしかったのも、ジョゼフィーヌさんの通信機とか電波時計が使えなかったのも説明がつきますね!」
「だが…あそこだけはイカレ具合がおかしかったんじゃねぇか?」
「その事についても聞いておりますので、後でお話致しますね!」
「あぁ、頼む。それで…続きは1番目の記録からか?」
「そうですね!続きから話すと…マーリンさんは教祖と化身が見守る中、『禁域』が展開されたその孤島の家に3人の教徒と入って調査を開始したそうです。」
『レイにランダムに選ばれた教徒…ウェス、マリー、グレイル、そして私がその家の扉を開いて全員が中へと足を踏み入れると、扉がひとりでに閉まり、とても古い扉へと変化したんだ。そして…それとほぼ同時に全員が正確に言い表すことの出来ない…とにかく悍ましく、邪悪な視線を感じたんだ。悪寒が身体中を駆け巡り、呼吸が一瞬乱れる程の威圧感…とにかくたたごとでは無かった。』
「その後は、まれに視線を感じることはあったそうですが、調査は進んでいったようです。しかし…マーリンさん以外の3人には、メモにある通りに精神的な異常が徐々に現れ始めたそうです。」
「なぁ…あんたがあの部屋を出た瞬間に動揺しまくってたのは…その視線を感じてたからか?」
「はい、そうです。マーリンさんにこのことを報告すると、恐らく同じものだとの事でした!」
「えっ!?でも俺達は何にも…」
「マーリンさんによると、あの視線は…」
『あの視線は、私の経験から来るものだが…死霊や悪魔の様な系統の魔物の物とはレベルが全く違う。強いて言うなら…それよりも更に上の高位の存在の様なものに近かったな。例えるならば…『神』の様なものだが…私が出会ってきた『神』よりも異質なものだ。』
「…との事でした。あの時に私だけがその視線を感じたのは、私が傭兵として常に死に関わっていることや、魂の性質上の問題では無いかと教えて頂きました。死にまつわる事に関わりが多いと、魔法に関することにも敏感になるそうで、魂の性質に関しては…少し長いので省略すると、霊感が強いのと同じ様なもので、霊感というのも魔法を感知するのに役立つそうです!」
「なるほどな…確かに俺達はそんなに死と隣り合わせじゃねぇし…」
「俺は…霊感はそんなに…無い気がするし…」
「だから僕達は気づかなくてジョゼさんは気づけたんすね。」
「そうかもしれませんね!そして、2番目の記録の話なのですが…」
第32章「カーテンコールの裏側で No.2」
『時間が経つ度に、段々と彼等の精神的な異常が悪化していってな。彼等は仕切りに自分の体を引っ掻いたり、独り言を何度も呟いたり、手を振り回したり…幻聴や幻覚が見えているような反応を示していた。実際にそうだったようだがな…何かに己の全てを覗かれている、魂と心が蝕まれていく、何かが脳内に語りかけてくる…と言っていた。』
「ですが、マーリンさんと教徒のマリーさんはなぜか精神汚染の症状がとても軽く、ほとんど被害は無かったそうです。」
「そういや…俺達もそんな事は無かったな。」
「これも何か理由が分かってたり…?」
「はい、マーリンさんによると…」
『精神汚染が酷かった2人は、魔力量が多く、神や霊に対する執着心が尋常では無かったが…マリーは比較的に穏やかな性格で、魔力量も少なく、神や霊に関することは半信半疑といったところだった。もしかすると…彼等と彼女の精神汚染の差は、魔力量や神と霊への認識の違いによるものかもしれないな…』
「…と話していました!マーリンさんに関しては、『実際に神々やあらゆる霊と魔物に出会ったことがある為、慣れてしまった』、『精神汚染への耐性がもとから高い』、『神々と出会った際に与えられた加護が影響しているかもしれない』…という規格外の方々に特有の雰囲気のお話を…」
「納得したがあんたも規格外の人間だろ…!」
「納得しましたけどジョゼフィーヌさんも規格外ですよ!?」
「ふふっ…そうでしょうか?とにかく私達がその影響を受けなかったのは…」
『君達は魔力が活性化していなかった為、そもそもとして魔力が無に等しく、何かの視線を受けることもなければ…魔法という存在を認識していなかった状態だったはずだ。存在を認識していないということはその時の君達にとっては、視線や精神汚染も存在していないという事になる。後は『禁域』に滞在していた時間がとても短かったことが大きな理由だろう。』
「…との事です!つまり、私達はマリーさんと似たような状態だった為、あまり深い影響を受けなかったそうです。『魔法』とはイメージが根幹にあるので、このような感情的なことや思考も大いに関係がある様です。」
「なんか…シュレディンガーの猫みたいな話になってるけど…何か納得しました!」
「あの爺さんの話とそれで言うと…魔法の存在が確定しているか分からないから、魔法が有るとも無いとも言えるが…俺達は魔法なんざ信じちゃいなかったから、消去法で『無いことになった』って感じだな?」
「…はい!そうですよ!」
「お前…よく分からずに発言してたな?」
「と…とりあえず続きの話をお願いします!」
「ふふっ…はい!それでは…3番目の記録とそこに至るまでのお話を…」
第33章「カーテンコールの裏側で No.3」
『調査を開始してから12時間と55分が経過した時だ。リビングのソファーに座らせていたあの二人の精神が完全に崩壊してしまったんだ。マリーは精神汚染が最も酷いウェスのメンタルケアをしていたんだが、突然、グレイルがソファーから立ち上がり…私がテーブルに置いていた『銀の鍵』を取ってバスルームへと駆け込んだんだ。銀には邪悪なものを退けるというのは知っているだろう?私は少しでも彼等の精神汚染を和らげることが出来るかもしれないと思い、彼等のすぐ近くに『銀の鍵』を置いていたんだが…この判断が悲劇の始まりだったのかもしれない。』
「えっ?悲劇の始まり…?でも…『銀の鍵』を置いておいた方が役に立ったんじゃ…」
「役には立ってただろうな…たが、そこに置いとくのが悪かったかもしれねぇ…」
「えっ?」
「実際に役に立っちまったから…グレイルって奴はそれを独り占めしたかったんだろ。自分だけでも助かりたくてな…そんで、銀が近くから無くなっちまったウェスって奴は…」
「まさか…そんな…!」
「悲しい事に…星次さんの予想と同じ事が起きてしまいました…」
『私はグレイルを連れ戻し、『銀の鍵』を取り戻す為に彼を追いかけたんだ。バスルームに入った彼は内側から鍵をかけ、バスルームの中へと引きこもった。私は彼の説得を諦め、魔法で鍵を開けようとした時…リビングから大きな音と彼女の悲鳴が聞こえた。私が急いでリビングに戻った時には…ソファーやテーブルは倒れていて、床に押し倒されたマリーに…馬乗りになって首を絞めているウェスの後ろ姿が見えた。体格が変化し、ローブは破れ、首筋にうっすらと鱗が生え始めているのが見えたんだ…彼女を助けようとした時にはもう遅過ぎた…彼女の口から血が溢れ、首から血が流れ出し…目から生気が消えていき…抵抗していた彼女の体が段々と脱力していく姿が私の瞳に焼き付いただけだった。』
「…マーリンさんは全く悪くない筈ですが…彼はとても悲しそうに…彼女の死と彼等の変貌を悔やみ、自責の念を抱えているようでした。そして、マーリンさんが2階の部屋へと逃げ込む前に…リビングの壁にかかっていた時計を見た時には、時計の針は秒針さえも停止し、全ての針が完全に1時を指していたそうです。これは…調査から13時間が経過したという事ですね。」
「じゃあ…あの壁掛け時計が1時から動かなかったのは…その時からずっと針が止まり続けていたから!」
「そうかもな…じゃあ、もしかするとあのソファーの下の鱗と血は…」
「はい、それも後ほどお話します。リビングを飛び出したマーリンさんは…」
『私ならあのレベルの魔物を殺す事もできたが…あの時は『禁域』から脱出することを優先したんだ。そして、君達が目覚めた部屋に逃げ込み、結界の魔法陣を自分の血で描き、脱出用の『門』と物を足り出す為の小さな『門を同時に展開したんだ。そして、脱出用の『門』の展開が終わる前に小さな『門』から高純度の銀を取り出し、君達が使ったあのリボルバーを作り、メモに魔法でメッセージを残しておいたんだ。そして私は…』
「教祖の計画を阻止する為に、セーフルームへと逃げ込んだそうです。マーリンさんが脱出する前にはもう時間が無く、『銀の鍵』を作り出す事はできず、代わりにリボルバーを用意し…メモはマーリンさん本人が死亡したように見せかける為にわざと血をつけたり破った後に、魔法でランダムな場所へ隠したそうです。そして、このリボルバーを用意したのは…もし誰かが『禁域』に迷い込んだ際に少しでも役に立つことを祈ってのことだったそうです。ちなみに、部屋が真っ白だったのは結界の影響によるものだそうです!」
「そうだったんだ!」
「これであの血の魔法陣と血の矢印の意味もわかったな。」
「そして…」
『セーフルームへ逃げ込んだ私は、君達の様な…勇敢で能力のある者が来てくれるのを祈りながら…この世界の誰かが犠牲にならない事を祈りながら、1人で教祖が何をしようとしているのかを調べていたんだ。いつか訪れる終焉を阻止する為に…』
第34章「疑問と答え」
「俺達が…マーリンさんと出会う前に…こんな事が…!」
「マーリンさんの『禁域』に関する記憶はここまでですが、私たちの『禁域』についての疑問は…マーリンさんが調査したことから答えが分かるそうです。」
「えっと…1番俺達が気になってるのは…何で目覚めたら『禁域』に居たのかだと思うんですけど…」
「それは…マーリンさんにも分からないそうです!」
「分かんねぇのかよ…」
「まぁしょうがないっすね。」
「はっきりとは分からないそうですが…私達に『祝福』を与えた神が関係しているのでは無いかと考えているそうです!」
「そうだったんですね…じゃあ、とりあえず!マーリンさんが分かったことを教えて欲しいです!」
「マーリンさんが『禁域』について分かったことは…『禁域内に耐性が無い者が13時間滞在すると、精神汚染により発狂し、肉体が変貌する』、『禁域内では魔法の効果が強まり、魔法を扱いやすくなる』、『禁域内に入り込んだ者は、一部を除くほぼ全ての言語を理解出来るようになり、読み書きが他国の人間にも通じるようになる』、『禁域内では生物の死体が消滅するが、恐らく、別の生物同士の肉片や血が付着していれば消消滅しない』…というのが今のところわかっている事だそうです。」
「なるほどな…じゃあ、風呂場とリビングの血痕については何だったんだ?後はあの開かなかった扉だな。」
「あっ!そういえば…!」
「マーリンさんによると、バスルームと開かなかった扉の向こう側…そこに『深き者ども』になりかけているウェスさんとグレイルさんが入り、そこに閉じこもりながら完全に怪物になる過程で、負の感情と『魔法の効果が強まり、魔法を扱いやすくなる』という『禁域』の特性が掛け合わさった結果。魔法の暴走が起きた結果では無いかと考えているそうです。ちなみに、バスルームの闇も邪悪なものであったため…銀のリボルバーを発砲した際に音が聞こえたのでは無いかとも話していました!」
「なるほどな…」
「リビングの血痕については、ウェスさんが『深き者ども』に変化したことによって生えた鱗が落ち、マリーさんの血がその鱗を覆ったことで…『禁域』の特性によってその鱗と血痕が床に残ったのではないかと考えているそうです!倒れたソファーやテーブルが元に戻ったことについては分からないとも仰っていました!」
「なるほどぉ…完全にって訳じゃないですけど、あの時の疑問とか謎が解けましたね!」
「あぁ…結局、役に立ちそうな情報は無かったがな…」
「でもスッキリしたっすね。」
「これであの爺さんの話は一旦終わりか?」
「はい!」
「そういや…あんたはあの…『へカーティア』って奴の死体を調べてたんだろ?なにか情報はあったか?」
「特に情報を得ることは出来ませんでしたね…『骸に咲く花《Corpse Flower》』で血液を採取し、記憶を覗きみようとしましたが…なぜか何も見ることは出来ませんでした。」
「チッ…多分、魔法かなんかで隠されてんだろうな…」
「死体はこの作戦が終了した後にマーリンさんに引き渡した方が良いと判断し、『|骸に咲く花《Corpse Flower》』で包んで保存してあります!」
「あぁ、ご苦労さん。」
「そういえばもう10分も経ってるっすね。」
「あっ!ほんとだ!」
【彼の言うとおり、時計の針は6時40分を示していた。】
「今日はもうやるべき事を済ませましたし…早起きに備えてもう寝てしまいましょう!」
「そっか…儀式が昼か夜の12時に始まるか分かんないから…」
「そうだな。それがいいかもしれねぇ…」
「この家の2階には寝室があるので、皆さんはそこで寝て下さいね!」
「皆さんは…?ジョゼフィーヌさんはどこで…?」
「私は少し見回りをしておきます!」
「えっ?だったら皆でそうした方が…」
「いえ、私は全く疲れていませんし眠気もありませんので私が見回りをします!それに…私ひとりの方が動きやすいので!」
「でも…!」
「いや、こいつを信じてやろうぜ。実際…俺達はクタクタだし、ついて行ったところで邪魔になるだけだろ。だからここは甘えさせてもらおうぜ、お互いの為にな。」
「でも……はい、分かりました…ヤバくなったら…っていうかなんかあったら絶対に帰ってきて下さいね!門限は9時までですよ!」
「過保護な保護者みたいっすね。まぁ戻ってきてくれるなら何でもいいっすよ。」
「皆さん…理解して頂きありがとうございます…!」
「じゃあ、この拳銃とリボルバーはあんたに渡しておいた方が良いか?」
「いえ!そちらは皆さんの身を守る為にお使い下さい!」
「じゃあ、このアーミーナイフだけは絶対に持っていってください!役に立つんで!多分!!」
「ふふっ…そうですね!では、こちらは私が使わせて頂きますね!それでは行ってきます!」
「あぁ、気をつけろよ。」
「気をつけるっすよ。」
「絶対に帰ってきて下さいね!」
「はい、それでは!皆さん、おやすみなさい!」
【彼女は彼らに向かってそう言いながら扉を開き、外へと出ていった。】
第35章「月下の怪物」
これで…良かったのだろうか…
【彼女はそう考えながら、季節に合わない時間に訪れた月光の下を、灯りを持たずに1人で歩いていた。】
『お・ま・え・は…『100%純粋な人間じゃねぇ』って事さ!お前は自分を人間だと思い込んでる怪物と変わんねぇよ!アハハハハハ!いやぁ…滑稽だなァ!』
『私が人外…?私がそんなふざけた事を信じるとでも?』
『いや?大真面目さ。魂の状態、淡く光り続けてる目、異常な身体能力などなどのデータに基づいた完璧な検査結果です…人間になろうとするのは諦めましょう!』
へカーティア…彼のあの言葉は私を動揺させる為のものだったのかもしれない。しかし…
『そもそも…お前が人間だったとしてもまともじゃねぇよ。それに何だ?その魂の残滓ざんしの数は!首切り役人でもそこまで血濡れてねぇぞ…?何千何百は下らねぇ数の人間殺してる奴がまともな人間?ますます笑えてくるな!お前はただの…いや!イカれた殺人鬼か死神だな!その大鎌…よぉく似合ってるぜ!!』
彼のこの言葉だけは…大量に人間を殺してきたことは真実だ。
だが私は、無意味に殺戮を行い…他者の命を軽々しく扱ったことは無い!
私は…気の狂った殺人鬼では無いと胸を張って言える。
しかし…彼が真実を言い当てたという事は…
『私が純粋な人間では無い』という言葉も真実である可能性もあるという事だ。
『自分の体のことは自分がよ〜く分かんだろ?まぁ…これに関してはテメェも分かってねえんだろうがな。』
私にも…この体が普通では無いことは薄々分かっている。
恐らく…私の身体能力や思考能力が強化されたり、体力や魔力が回復するのは…
『血を見たり、触れたり、摂取すること』がトリガーになっている筈だ。
『禁域』のバスルーム…あの時、彼の腕に応急処置を施そうとした時…『深き者ども』の血を見て、浴びたとき…
思い返せばあの時から既に私の体は…いや。
生まれつきの能力だったはずだ。
幼い頃から私は…今ほどでは無いが、血を見ると思考能力が上昇する事があった。
それは『禁域』に迷い込む前から…ずっと続いていた。
この能力が…ただ私の性格によるものから来る冷静さの一時的な向上などではなく…『禁域』に迷い込んでから、生まれつき私の中で秘められていたこの正体不明の能力が完全に開放されたのだとしたら…?
この説は十分に有り得る…
『君の魂は…普通の人間には有り得ないほどに強靭で特殊な魂だ。魔法によく馴染み、魔法や邪悪なものを感じ取り、邪悪なものを退ける…他にも様々な性質が有りそうだが…残念なことに今は時間が無くてな…済まないがここまでしか分からないな。』
『私の魂の性質が…あの邪悪な視線を察知し、その悪影響を退けた…という事でしょうか?』
『あぁ、そう考えてくれて構わない。それにしても…実に興味深いな…』
『私の魂は…それ程に珍しいのですか?』
『あぁ、はるか昔に…1度だけ君の魂と似た性質の魂を持った女性と出会ったことがあってね。それ以来は…1度も同じ性質を持った魂を見たことは無かったんだ。今日まではな…』
『その女性は…どのような方でしたか?』
『話してやりたいのだが…彼女とは契約をしていてね。君に詳しい話をするには彼女の許可が必要なんだ。ただ1つ言えることは…彼女はただの人間では無かったという事だけだ。』
彼の言葉の意味によっては…彼女も純粋な人間では無かったとも取れる。
彼等の不安要素を増やさない為に、彼との私の魂に関する話を伏せておいたが…これは彼等にとって不誠実になるのでは無いだろうか…
いや、彼らと初めて出会った時から素性を偽っている時点で手遅れだろう。
だが今は、こうすることが最善の選択のはずだ…
これも…彼らを守る為なのだから。
【彼女は『骸に咲く花《Corpse Flower》』で一時的に建てた『へカーティア』の墓の前で立ち止まると、『死神の薔薇』を取り出して地面に柄を突き刺した。すると、蔓と青薔薇でできた棺が、地中から土を跳ね除けながら現れた。】
意味は無いかもしれないが…もう一度だけ、彼の血液や遺体から情報を引き出す事が出来れば…私自身について何か分かれば…せめて、この力をもっと適切に扱う術を知ることが出来れば…ッ!
「なぜ…棺が!!」
【彼女が、蓋を切り裂かれた棺に目を見開いたとき。乾いた銃声が静寂な夜を貫いた。】
あとがき
今回もとっても長くなってしまい申し訳ないです!
ですが、今回の話で第一部での『禁域』の謎や主人公の『ジョゼフィーヌ』の能力についての疑問が少しは解けたのでは無いでしょうか?
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!
感想・コメントもお待ちしております!
それでは次回をお楽しみに!
※ちなみにここから下はマーリンのメモの内容になっております。
【メモの表面 No.1~No.3】
『記録No.1 6月20日 禁域観察開始時刻 午前12時
記録者 マーリン
このメモに禁域調査手記とは別に、私を含める調査員4人の状況と私の簡単な推察を記録する。
家の中に入ってから1時間が経ったが、調査は順調に進んでいる。
しかし、調査員の精神状態はあまり良くなさそうだ。
この家に入った瞬間、私達は同時に何者かの視線を感じたのだが、それからというもの私以外の皆の様子がおかしい。
調査に異常をきたす程の症状は無い為、調査を継続するが彼等の言動に注意する必要が有りそうだ。
私に何か異常が現れても正しい情報が残るように、このメモは後2回だけ書く事にする。
No.3より後のメモが見つかった場合は、私が発狂して書いたものとして扱い、そのメモの内容は無視して欲しい。』
『記録No.1より12時間半が経過
禁域を屋内から観察しているだけだというのに3人のメンタルに段々と異常が現れ始めた。
ウェスはもう限界に近いだろう、グレイルもすっかり憔悴しているがなんとか正気を保っている。
マリーは比較的に症状が軽いようだ、彼女は今ウェスと一緒にリビングに居るがグレイルは先程から…
確かに私もこの家の中に入った瞬間から、おぞましい何かの視線のようなものを感じたが、精神に異常をきたす程のものでは無かった…
恐らく禁域には精神汚染の様な悪影響を及ぼす能力が有るのだろう。
この悪影響も個人差があるようだがその差は一体…
先に私以外の3人だけでもここから出してやりたいが…』
『記録No.2より30分が経過
前々から異変を感じていたが、まさか2人があんな怪物になるとは…やはり禁域は混沌と邪悪の世界なのだろう…私はもう教団に帰れない。
友よ、置いていくことを許してくれ。
門は棚のある壁に展開する。』
【メモの裏面 マーリンからのメッセージ】
『このメッセージを読んでいる者へ
このメッセージを読んでいるということは、君は私の書いたメモを全て集め、「銀の鍵」を手に入れたという事だろう。
その鍵を使えばどんな扉をも開き。
そして、君が望む場所へと帰ることが出来る。
だが待ってくれ。
どうか私に力を貸して欲しい。
この場所に訪れ、この奇妙な現象を見た後なら。
「魔法」というものの存在を信じてくれるはずだ。
今、世界は魔法と「悪夢の邪神」によって滅びようとしている。
私一人では到底止めることは出来ない。
だから今は1人でも協力者が欲しい。
もし協力してくれるのならば、私は君に対価を払う。
その鍵を使えば、私が創った「門」を開いて私の隠れ家へ移動することが出来る。
どうか頼む。
門を通って私に力を貸してくれ…7月7日の金曜日…この日に世界の終焉が近づいている。
真名は教えられないが私の教団内の呼び名を伝えておく。
私の呼び名は「マーリン」だ。
願わくば世界に邪神が解き放たれぬことを。』