第二部「破滅を照らす者:魂を映す鏡」その10
目次
第26章「危ないお土産」その1
第27章「危ないお土産」その2
第28章「兄と姉」
第29章「青薔薇が咲いたのは」
第30章「賢者の記憶」
あとがき
第26章「危ないお土産」その1
「うわッ…!もう夕方に!?」
テントの中は意外と明るくて気づかなかった!
【星次と流輝は、2人を呼びに来た春喜と一緒にテントを出て木の家へと向かっていた。】
「なぁ、あんたは今が何時か分かるか?」
「4時半位だったと思うっすよ。ジョゼさんに教えてもらったんで。」
「今は夏だろ…?流石におかしくねぇか?」
「ジョゼさんもビックリしてたっすよ。星次君と同じ感じで。」
「やっぱりか…」
「とりあえず…あの家でジョゼフィーヌさんが待ってるんですよね?」
「そっすね。」
「じゃあ急ぎましょう!」
だって怖いもん!
もう…とにかく明るい家の中で引きこもりたい!!
【そして3人が家の前まで来ると、ジョゼフィーヌが扉の前で彼らの事を待っている姿が見えた。3人の姿に気づいたジョゼフィーヌは、笑顔で彼等を出迎えた。】
「皆さん!お疲れ様でした!」
「あぁ、そっちもな。ところで…この家の中は大丈夫だったか?」
「はい!特に危険性は無く、休息には十分な場所です!ですが建物の外観と屋内の広さが明らかに…」
「広すぎるんだろ?」
「はい…!あの…なぜその事を?」
「実は…俺と星次さんがテントの中を調べた時も同じだったんです!」
「なるほど…では特に問題はありませんね!それでは皆さんもお疲れのはずですし、今日はもう休みましょう!」
「やった〜!もう…正直いうと精神的にも肉体的にもクタクタで…」
初めて山の中を長時間歩いて…
爆弾も目の前で爆発して…
初めて魔法使って…
初めて人を殴って気絶させて…
初めて……人を…
「まぁ無理もねぇさ…さっさと中で休もう。」
【彼等が家の中へと入っていく時、ジョゼフィーヌだけが少し遅れて家の中へと入っていった。】
「わぁ…」
【家の中は彼女の説明通り、外観よりも明らかに広く、内装はとても綺麗で、リビングとキッチンは繋がっていた。】
「これならゆっくり休めそうだな…つっても情報交換・整理にやることがたくさんだがな…」
「そうですね…ところで、お2人が持っているのは…?」
「俺と星次さんでテントの中を調べてる時に、武器庫っぽいところを見つけて…」
「そこから軽く持ち運べそうな武器と…役に立ちそうなのを持ってきた。」
【彼はそういうと、テーブルの上に箱を置いた。流輝もそれを見て、同じようにテーブルへ武器と日記を置いた。】
「流輝さんが持ってきたのは…アーミーナイフとWW1B1…通称ベターメント、アメリカ軍で採用されている軍用自動拳銃ですね!そしてこちらは…日記ですね?そして、星次さんが持ってきたのは…」
「わーッ!気を付けてくださいね!?それ爆弾入ってますからね!?」
「爆弾…なるほど。」
【彼女は彼の警告に深い警戒心や恐怖心を抱くことも無く、何事も無かったかのように箱を開いて爆弾を取り出した。】
何でそんなにガッツリ触れるんですかぁー!?
え?言ったよねぇ!?
爆弾ですよって言ったよねぇ!?
【彼の心情を察したのか、ジョゼフィーヌは爆弾をテーブルの上に置いて話し始めた。】
「ふふっ…大丈夫ですよ!この爆弾は少し触れたり、揺らしたりしても爆発しませんよ!その証拠に…」
【彼女はそこで言葉を切ると、少し声を低くして話した。】
「皆さんが生きてここまでこの爆弾を運べていますので…」
第27章「危ないお土産」その2
「ヒッ…」
「どういう事っすか?」
「この爆弾のタイプとは別に、振動感知式爆弾というものがあります。その爆弾は名前の通り…少しでも振動…つまり衝撃を感知すると起爆します。」
「つまり…こ…こここ…これがそのタイプだったら…」
「…くたばってたな。」
「今回は運良く振動感知式では無かっただけなので…次からは私を呼んで下さいね?」
「は…はい!」
「それは…すまねぇ…」
静かに怒ってる!
笑顔だけど何だか圧を感じる!
別のタイプの怖さの怒り方してらっしゃるぅ…!
「ですが本当に…皆さんが無事で良かったです…」
でも…これは俺達のことを思って怒ってくれてるんだろうな…
「それで…この爆弾は結局何だ?」
「こちらはブービートラップ…正確には、フラググレネードという手榴弾に手を加えたタイプのものかと思われます。」
「どうやって爆発するんすか?」
「まず手榴弾は一般的に、安全ピンを抜いてからレバーを握って投げると約5秒後に爆発します。」
「じゃあ…ピンを抜いたらすぐに爆発ってことは無いんですね?」
「なので…ガムテープをきつくレバーに巻いておくと、レバーを握った状態と同じになります。そして、あとは安全ピンに長い糸などを括りつけて設置…そして、誰かが糸に触れてピンが抜けると爆発という形になります!」
「森の中で僕たちが体験したことが起きるんすね。」
「はい!ご家庭にグレネード、ガムテープ、糸があればお手軽に作れる凶悪なトラップです!」
「いや料理番組じゃないんですからね!?」
「少なくとも1つめの素材が日本じゃ簡単に揃わねぇよ!」
「そういえばお腹すいてきたっすね。」
「あっ…そういえばお昼ご飯も食べて無かったですし…」
「では日記が気になりますが…私が皆さんにディナーを作らせて頂きますね!」
「えっ!?本当ですか!?」
ジョゼフィーヌさんの…手料理!
「食材なんてあったのか?」
「はい!キッチンの冷蔵庫の中に食材がありました!」
「楽しみっすね。」
「ふふっ…!では、皆さんは先にお風呂に入ってはいかがでしょうか?疲れが取れると思いますよ!」
「そうだな…そうさせてもらうか。」
「じゃあ俺はジョゼフィーヌさんのこと手伝いますよ!」
「いえ!心身ともにお疲れになられていますし…」
「いやーその〜…お風呂の順番待ってる間は暇ですし…」
まぁそれは嘘で…
流石にこんな時くらいは役に立ちたいっていうか…
ジョゼフィーヌさん1人に作らせるのは本当に申し訳ないって言うか…
「なるほど…では、お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい!」
「じゃあ俺は色々と考えをまとめとく…先にあんたから風呂に入ったらどうだ?」
「じゃあ先に入ってくるっすね。」
「その次は俺だ。」
「では、私は最後にしておきますね!」
「じゃあ俺が3番目ですね!」
第28章「兄と姉」
「ジョゼフィーヌさん…今の時間って…」
「5時10分です!」
「作り始めたのが…?」
「4時40分です!」
「たったの30分でこんな…めちゃくちゃ美味そうなものが!!」
「調味料や食材、時間も足りていないので本当に簡易的なチキンソテーですが…美味しくできていると思います!1切れ食べてみますか?調理器具を探している際にフォークも見つかりましたので!」
「それじゃあ…頂きます!」
【彼はジョゼフィーヌからフォークを受け取り、チキンソテーを口へと運んだ。】
「美味いッ!!はっ…美味しいです!」
皮はパリパリ…それでも身は柔らかくてジューシー!
コショウと塩が良い感じ…!
「ふふっ!お口にあったのなら良かったです!」
「ジョゼフィーヌさんって本当に何でもできますよね…料理もよく作るんですか?」
「そうですね…毎日という訳ではありませんが、部隊の皆さんや家族に料理を振舞ったりしますね!特に休日や特別な日…妹の誕生日などによく作ります!」
【彼女がそう明るく話す姿は、彼の目にはとても幸せそうに見えた。】
「そういえば…!ジョゼフィーヌさんにも妹さんが居ましたね!」
「はい!ジョセフィーヌという…とても可愛いくて、優しい自慢の妹です!ところで…私にもということは流輝さんにも弟や妹さんがいらっしゃるのですか?」
あ…そっか!
あの家…たしか『禁域』を出る時は星次さんと春喜さんには話したけど、ジョゼフィーヌさんは倒れてたもんなぁ…
「はい!実は、琴美っていう妹と共夜っていう弟が居るんです。どっちも小学生なんですけど…妹は……治療法が見つかって無い、原因不明の特殊な病気にかかってて……病院で寝たっきりで…」
「それは……!とても…お辛いですよね…」
「でも…マーリンさんが言ってましたよね!普通は治らない病気も治せるって!」
「なるほど…では流輝さんは妹さんの為にこの作戦に参加したのですね?」
「はい!それに…友達も家族も…ほかの良い人もお世話になった人も居る世界を終わらせるなんて…絶対に嫌です!あと…まだまだやりたい事もありますし…」
ゲームもしたいし、漫画も読みたいし、アニメも見たいし、友達と遊びたいし、美味しいものも食べたいし…
それに魔法が現実にあるなんて知っちゃったらもう…ワクワクが止まらないし!
「素敵な覚悟ですね…本当に、素晴らしいと思います。」
「えっ?いや…そんなッ…」
「突然、非現実的な事態に巻き込まれ…平和な日々とは真反対の危機に身を晒す…それだけでも難しい事のはずです。それでも…自分の為にも、周りのためにも戦おうと思えるのは素晴らしい事です。」
「ありがとうございます…でも…ジョゼフィーヌさんだって凄いですよ。」
『罪の無い人々の元に悲劇が訪れる可能性が少しでも存在するなら…私はその可能性を確実に消します。例えこの身を死の危険に晒さらそうと…善人を守り、助ける事が私の存在意義だからです。』
「あんな言葉を言えるのはきっと…ジョゼフィーヌさんだけですよ!」
「いえ…!私はただ…人助けが好きなだけなので!」
「はははっ…なんか…ジョゼフィーヌさんらしいですね!ところで…何でジョゼフィーヌさんは傭兵に…?あっ…話にくかったらもちろん話さなくても…!」
「そうですね…お話しても良いのですが…あまりつまらないかもしれませんよ?」
「それでも…聞いてみたいです。俺…その……皆さんは良い人だって…皆で色んなことを乗り越える度に分かってからは…皆さんのことをもっと知りたいなって思って!」
「ふふ…感情豊かで、皆さんの心に寄り添える優しい流輝さんらしいですね!」
「え…えっへ…いや…あは…」
褒められてないから恥ずかしい!
なんて言えばいいんだろう!
俺みたいなクソ陰キャの役立たずのカスのビビりのもやし君を褒める人とかそんなに多く居た訳ないじゃん!
面と向かって1人の人間としてこんなに褒めてくれる人とか…うわぁ!
恥ずかしい!
この人は美しすぎる!
…ってか春喜さんも星次さんもジョゼフィーヌさんも皆良い人すぎる!
光で燃え尽きる!
「では…なるべく手短に話してみますね!」
「どんなに長くても良いですよ!」
「ふふっ…では…」
第29章「青薔薇が咲いたのは」
『ほら見てジョゼ、貴方にピッタリの花よ!青い薔薇…貴方の綺麗な髪と目に似ているでしょう?』
「私の母は素晴らしい花屋を営んでおり、母が取り扱う花はどれも美しく、年中、花の注文が絶えませんでした。」
『ほらジョゼ、見てご覧!面白い武器だろう?ただのナイフじゃないんだ。下についてるボタンを押すと…刃が飛んでいくんだぞ!悪〜いおじちゃん達を叱ったらタダでくれたのさ!』
「父がリーダーとして所属しているのは、代々続く凄腕のエリート集団のみで組織された傭兵部隊でした。その部隊は主にテロリストや凶悪な犯罪者による事件の制圧、重要人物の護衛、紛争の終結等に貢献していました。依頼は全て善の為に行い、100%完璧に遂行する…世界各地で活躍した素晴らしい部隊でした。」
「もしかして…ジョゼフィーヌさんが所属してる傭兵部隊って…ジョゼフィーヌさんのお父さんの…?」
「はい、はるか昔から続く由緒正しい傭兵部隊です!そして私は…」
『お母様はどうしてお花屋さんをしているのですか?』
『ふふっ…ねぇジョゼ!花ってね、綺麗なだけじゃないのよ!花は…世界中の人を感動させられて、笑顔にできて…誰かの特別な思い出にもなるのよ!お祝い、お葬式、誰かや自分へのプレゼント…花は常に誰かの思いと一緒に咲いているの。だからお母さんは…誰かを幸せにできる花が好きで、誰かの笑顔が咲く瞬間が好きだから花を売るの。それにね…花言葉って面白いのよ!貴方も大きくなったらきっと分かるわ!』
「私は、幸せそうに笑う明るくて優しい母と、綺麗に咲き誇る花が…」
『お父様はどうして傭兵さんになったのですか?』
『う〜ん…俺のお父さん…ジョゼにとってはおじいちゃんだが…まぁ、おじいちゃんにこの部隊の隊長を継いで欲しいって言われてな。』
『では、お父様は他にやりたい事があったのですか?』
『…いや!とんでもない!今の仕事が1番好きさ!』
『何でですか?』
『お父さんはな…いつもおじいちゃんの話を聞いて育ったんだ。ほら…よくあるヒーローみたいなお話さ。でも、ただのヒーローじゃない!強いか弱いかで人を決めずに…善悪で人を助けて、弱い人も強い人も困ってたら助けて、世界中の平和を守って…悪い事をしてしまった人でも、まだやり直せる可能性がある人には徹底的に寄り添う…でも…』
『でも?』
『仕事は完璧にこなし、任務は絶対に失敗しないし、悪人には容赦しない。おじいちゃんはよく…善には美花を悪には手向花をって言ってたな…それくらいに、良い人にはとことん優しくて、悪い人にはとことん厳しい。それでも…心の隅ではほんの少し甘い人だった。だからそんなおじいちゃんに憧れたんだよ。』
『わぁ…カッコイイです!』
『そうだろう!それにお父さんはな…誰かの幸せが、平和が…笑顔が守れるこの仕事が好きだ。そして、この世界をもっと良くしたいんだよ。誰もが怯えることなく、当たり前の生活を得て幸せになれるように、手を取り合えるように、善が悪に踏みにじられない公平な世界に…皆が笑えて…お母さんとジョゼ達が笑えるような美しい世界にね。あと…武器と傭兵ってカッコイイだろう?ハハハ!』
「無邪気な笑顔でそう語り…気高い正義の思いを胸に、悪と戦い善を助ける父と…カッコイイ武器と傭兵が好きでした。なので私は…両親の影響もあり、私自身も善と悪について思うこともあったので傭兵に…流輝さん?」
「だからジョゼフィーヌさんは…ッグス…よ…傭兵に…なったんでずねぇ…!」
「流輝さん、なぜ涙を…!?」
「いや…その…あまりにも…あまりにもいい話ずぎでぇ…!」
星次さんのお話を聞いて涙腺が緩んでる時にこの話は…
明らかに涙腺をオーバーキルしに来てるってぇえ!
やばい…前が見えない!
「ふふっ…あはは…!本当に流輝さんは優しくて面白い方ですね!私の…素晴らしい家族の…普通の話をお楽しみ頂けたようで良かったです!」
「はい…もう本当に……素晴らしい話でしたよ…えぇ…!」
【その時、風呂から上がった星次がタオルで頭を拭きながら彼らの元へと歩いてきた。】
「あぁ…さっぱりしたな…次はお前が風呂に…」
「流輝さん…あの…ハンカチをお使い下さい!物凄い量の涙が!!」
「何がどうなってんだ…?」
「いえ!お構いなぐッ!お風呂で涙も流じでぐるのでぇ!」
【彼はそう言いながら全力でバスルームへと走った。】
「なぁ…あんたは分からねぇかもしれねぇが…男を振った後に優しくするのはいくら何でも…」
「ち…違います!流輝さんに告白された訳でもお断りした訳でもありませんよ!?」
「ぞうでずよっ!あっ…涙が…」
「プッ!…クク…いや…!分かってるからとっととそのひでぇ面と鼻水を洗い流して来いよ!」
「か…からがいましだねッ!?あっ…やば…」
【彼はそう呟きながらバスルームの中へと入った。】
「いやぁ…クククッ…あんたもあいつも面白ぇよ。」
「ちょっと僕も黙って聞いてたんすけど感動したし面白かったっすね。」
「ふ…ふふっ…!本当に…本当に可笑しいですね!それでは、ディナーの準備をしましょう!流輝さんがお風呂から上がったら…一緒に食べましょうか!」
第30章「賢者の記憶」
「美味しかったっすね。」
「あぁ…まさか料理までできるとはな…」
「本当に美味しかったです!」
「皆さんのお口にあったようで何よりです!」
【皆がディナーを食べ終えた時、既に時刻は6時半を過ぎていた。】
「では…現状と、私達が得た情報の整理をしましょう。」
「そうだな。」
「私たちは今…敵拠点の制圧と、ロキの化身の1人である『へカーティア』の排除に成功。そして、全員が無傷なうえに…武器の確保をすることも出来ました!特にブービートラップを回収できたのはとても良いことです!現状では、『魔力』を用いること無く扱える最大火力の武器が手に入ったと言っても過言ではありません!」
「だが…ちょいと問題がある。」
「え…問題…?今は順調じゃないですか?」
「いや…問題だらけだ。儀式ってのが7月7日…明日の午前か午後の12時って話だ。簡単に言うと…これが夜の12時なら問題は無い。時間がたっぷりあるからな。だが…昼の方の12時なら…早くでりゃあ良いが時間がちょいとマズイ。」
「なので明日は…かなりの強行軍になるかと思われます。」
「まぁ…その話は今やったところで意味が無いか…情報の整理に移ろう。つってもだ、俺達が手に入れた情報は…あの日記だけだ。内容は確認したか?」
「いえ…まだですね。今、内容を確認してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、その後にあんたの考えを聞かせてくれ。」
「僕は読んでも分からないと思うんでジョゼさんだけで読んで良いっすよ。」
「はい、了解しました!」
【彼女は1度席を立ち、日記を持ってきて机の上で開いた。彼女は、黙々と素早く1ページずつ日記を読み進め、たったの3分ほどで全てを読み終えた。】
こいつ…相変わらず書類の確認もクソ早ぇな…
「なるほど…」
「あんたの考えは?」
「この日記を書いた人物は、記憶障害や悪夢による精神崩壊に苛まれてましたが…15日目にはまるで別人かの様に人格が変化しています。」
「え?別人が書いてるんじゃないんですか?」
「いえ、恐らくその可能性は低いと思われます。理由としては、最も精神が安定している13日目と15日目…このページの文字が酷似しているという点が1番です。」
「筆跡鑑定ってやつか?」
「はい、そうです!そして、これは私の推測でしかありませんが…この日記を書いた人物の記憶障害は、記憶の齟齬によって引き起こされたものではないかと思われます。」
「記憶の食い違い…?」
「この日記には…『違う、俺じゃない』、『何かが違う』、『今の俺は俺じゃない』という様に、自己や状況の否定を繰り返す様な言葉があります。しかし、最後の『今の俺が』という言葉は、『今の自分が正しい自分である』、又は、『今の自分が間違いである』とも捉えることができます。」
「えっと…つまり…今の自分に違和感を感じてる…みたいな感じですか?」
「はい、その考え方でも大丈夫です。なので…ひとつの可能性として挙げられるのは、この日記を書いた人物は元々…死刑囚であり、その後に教団と何らかの接触があり…『魔法』等で記憶を消去され、教団員としての記憶を押し付けられたのでは無いかと考えています。」
「なるほどな…」
死刑囚か…どうせ死ぬならリサイクルしようってな考えならありえないことは無いな…
「とりあえずそこら辺は…何となく理解した。なぁ、あんたはこの日記に出てくる女については分かったか?」
「情報が不十分なのでそれについては分かりませんが…教祖に会った後に、14日目と15日目で人格が変化しているので…これに関しては教祖か日記を書いた本人にしか分からないでしょう。」
「それもそうだな…あと…最後に気になることがある。1ページの下の方に書いてあること…6月20日に行われる儀式の実験…『楽園とこの世を繋げられるかの調査』の意味だ。」
「6月20日…その日付はちょうどマーリンさんが『禁域』を調査した日です。なので…ここに書いてある『楽園』というのは『禁域』のことでは無いでしょうか?」
「…ありえるな。」
「ちょうどマーリンさんと『禁域』の話に触れることが出来ましたし…今ここでマーリンさんから受け継いだ記憶の内容を皆さんにお話してもよろしいでしょうか?」
「マーリンさんの…記憶…!」
「あぁ、もしかするとそこからこの謎が解けるかもしれねぇ…話してみてくれ。」
「はい、了解しました!」
あの爺さんの記憶か…何か役に立つ情報がありゃ良いが…
あとがき
今回はとても長くなってしまいましたが、ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!
前回に引き続き、キャラクターとミステリーの掘り下げになりましたがお楽しみ頂けたでしょうか?
次回は、マーリンが『禁域』に訪れた際の話に触れていこうと思いますので次回もぜひお楽しみに!
感想・コメントもお待ちしております!