3-6 追い立てられる原時空人類
地球上では今や希少な地となった原時空人類の居住地、そのひとつ双葉町。その地は、20キロメートルほど離れた近隣の洗足・荏原の居住地とともに、東瀛で数えるほどしか残っていない居住地の中では、有力な地でもあった。
この地で、ジミーの兄イサオは数十人の団体の頭をしていた。葛飾双葉町の自警団と自称し、もともと果樹園だった数野園の元の敷地を利用して、自警団の様々な施設・設備まで用意していた。地元民たちからも恐れられるようになっている実態から言って、ヤクザのような存在になりはてていた。それでも、彼等は、時々襲い来る正規軍の魔族たちをたびたび撃退していた。彼らの仲間には、吟遊詩人崩れや捕獲部隊・監視部隊崩れのエルフたちまでがおり、彼らが魔族に対して有効な反撃策を教授していた。
その情報はいかんなく発揮されていた。それは、間もなく行われた魔國基地襲撃の際にも、明らかになった。
「全員注目してくれ。今夜、我々は東京湾上の敵海上基地を襲撃する。この作戦は、仲間となったエルフたちの助言に基づいて構築している。まず今回の目標は、基地の壊滅と魔道具、魔装具の破壊だ。これから、作戦行動の要部を公開する。よく聞いてくれ」
イサオの付き人をしている権康煕が叫ぶと、同じ付き人の林孔明が作戦を説明し始めた。
「襲撃犯は二つに分かれる。そして、肝は、奇襲攻撃にある。ひとつ目の戦闘群は、空中に浮遊警戒中の魔動戦艦を挑発して基地から離れさせ、もし可能であれば撃沈することが主な戦闘目標だ。二つ目のグループは、会場の基地へ侵入し、基地の4つの支持支柱のうち3つの支柱、特にこの屈曲部分を破壊して倒壊させることが主な戦闘目標だ。これには、同志のエルフたちも参戦する。かたき討ちを兼ねているということだ」
「いいか、注意したいのは、両方とも失敗したら他方も全滅してしまう恐れがあることだ。もし基地の破壊工作が完了しないうちに戦艦が基地へ戻ってくれば、基地襲撃グループは壊滅する。他方、もし基地襲撃グループが全滅すれば、戦艦に大量の援軍が味方しに来る。そうなったときは、対戦艦戦闘群は壊滅必至だ。いいか、全員、必ず勝利しろよ」
この説明とともに、全員は、仲間となっていたエルフたちの手引きによってあらかじめ決められた手順を頭に入れ、またエルフたちの装備と同様の装備を手にして、出撃していった。
「前方1200メートルに目標の敵戦闘艦を確認した。これより、全車散開と同時に、目標に向けて自立飛翔体攻撃する。全車、準備」
「攻撃前、フタヒト。ヒト。今!」
掛け声とともに、単車たちはそれぞれ攻撃を始めた。権康煕や袁崇燿が率いる対戦艦戦闘群は、無数の単車の集団による攻撃だった。彼らは、一つの単車が多数の自立飛翔弾道弾を発射し、同時にすべてが散開して逃げ出した。この攻撃は、エルフたちの指摘通り、細かいながらも十分挑発することができたらしく、気短な戦闘艦はすぐに追撃を開始した。
「お前たちは、十分な反撃力を持っているとでも思ったか? 原時空人類どもよ。この地球の大地すべては我ら魔族のもの。下等な野蛮人どもよく聞け。我らはお前たちの遺伝子を受け継ぎ、新たな存在となった。下等なお前たちは滅ばねばならない。故に、皆殺しになれ」
こう言いつつ、戦闘艦は彼等を追い立てた。
「全車突入しろ」
この掛け声とともに、海上の高速艇によって基地へ乗り込んだのが、林孔明率いる基地攻略戦闘群だった。彼等は基地の基礎杭が支える台座に達すると、支柱の屈曲部へと三班に分かれ、それぞれが支柱に強力な爆薬装着作業を始めていた。
「敵の来襲です」
「何、まさか魔國の裏切り者か?」
「いいえ、現地の野蛮人、原時空人類の集団です」
「ほお、戦闘艦をおびき出し、その上での襲撃か。まあ、それならほおっておけ。奴らに大したことはできまい」
「彼らは、基地の中に入ってきません。何をするつもりなのでしょうか?」
「基地は入れるものか。たとえ彼等がこの基地を攻撃したとしても、大したことはないよ。たとえ傾いたとしても、内部での人口重力によって、内部空間は維持されるさ」
基地の内部では、イサオたちの攻撃の意図を精確に把握していた。その安心感からか、基地内の彼らは完全に様子見を決め込んでいた。
「第一撃!」
林孔明の声とともに、南側の支柱が爆破され折れ始めた。この爆発があったにもかかわらず、基地の中からは誰も出てこなかった。続いて、別の二番目三番目の市中で爆発が起きた。このようにタイミングをずらせて支柱を折った事で、基地はイサオたちの作戦通り転覆した。
転覆しながらも、敵の基地からは誰も出てこなかった。せいぜい、基地からは数人が小さな出口から外をうかがっているだけだった。これらの様子を見ながら、攻略戦闘群全員は残った支柱部分から簡単に離脱していった。
イサオやジミーや娘たちは、これらの様子を遠くから観察していた。作戦はいちおう大成功だった。
「ドバール、出て来い」
「われら仲間の仇、ドバール!」
「ドバールを血祭りにあげろ!」
海の中から突然だった。見慣れぬエルフたちの集団が大声を上げ、組織だった動きを展開しながら、崩壊したばかりの魔國魔装兵団基地へ向かっていく姿があった。
「あいつら、誰だ?」
見慣れぬエルフたちをしばらく観察しながら、イサオだった。それに呼応するようにジミーや玲華たちが声を上げた。
「あ、あの女、エルフ、どこかで見たことがある」
「そう、あれは魔國の工作部隊だ」
仲間のエルフがイサオに応えた。イサオはそのエルフを見つめながら、首を傾げた。
「奴らが何をしに来たんだ?」
「奴らが破壊工作を?」
原時空人類たちはこう言い合いながら、なおも観察を続けた。見慣れぬエルフたちの集団は、崩壊したばかりの魔國魔装兵団基地を襲った。彼らは、林孔明たちの戦闘群とは異なり、転覆して露出した施設の入り口を簡単に開け、そこから出て来た駐屯兵士たちを殺し始めた。そして、しばらくたつと、基地内に突入して駐屯兵士や上級士官をすべて引きずり出し、その場で殺戮し始めた。
「あ、あいつら、同じ魔國の兵士たちを......」
「なぶり殺し、皆殺しをしている......」
「魔國の奴ら、なぜかはわからないが、仲間同士で殺し合いをしている。しかも、俺たちの仲間のエルフたちも知らない殺戮魔法を使ったおぞましい、憎悪を込めた殺戮だ...ということは、報復も恐ろしいものになるだろう。ここに居ては我々が危ない。全員急いで撤収しろ」
イサオやジミーたち、そして彼らの仲間たち、仲間のエルフたちまでも、急いでその現場から離脱して双葉町へと帰って行った。
その後も、謎のエルフたちはドバールの名前を大声で叫び求めながら、さらに殺戮をしつづけていった。こうして、殺戮の相手が無くなったのを確認すると、彼らもまたさっと北へ離脱していった。
______________________________________
少したってから、出撃していた戦闘艦が基地へ帰ってきた。その艦橋の内部では大騒ぎとなっていた。
「帰投の連絡をしていますが、基地から返事がありません」
「なに? なぜだ?」
そう叫んだドバール。彼の目に入った監視カメラの映像。そして、戦闘艦から光学的に基地をとらえた映像。それらに映った基地の内外の惨状に、ドバールはもちろん艦橋にいたドバールの側近たちも、搭乗員たちも絶句していた。
「誰がこんなことを......」
「北の方向に、逃げていく奴らがいます。あれは魔國に属する者たちの制服を着ています。正規軍ではないようです......あれは、魔國の工作員が身に着ける制服です」
長距離スキャン要員がそう報告し、逃げて行くエルフたちの映像を映し出した。ドバールはその映像を見つめた。彼らのことを、当のドバールはよく知っていた。彼らは、ドバールが魔國の国内で追い立てたユバルとその元部下たちエルフの集団、つまり元の原時空人類捕獲部隊と監視部隊の工作員部隊員や元の吟遊詩人たちだった。
「奴らはユバルと配下工作員部隊の元隊員たちだ......」
「殿下、基地にいた魔族全員が皆殺しになっています。すべてが魔道具や魔法によってむごたらしく殺されています」
「そうか、それはここの人類ではなく、明らかに奴らユバルたちエルフの仕業だ。逃がしはしないぞ。すぐに追え」
激怒したドバールはそのまま戦闘艦によって、彼が激怒したエルフたちを追った。
エルフたちが逃げた方向は北方。それは、イサオたちが逃げた双葉町の方向だった。帰投早々に戦闘艦はエルフたちを追って北上してきた。
戦闘艦は、ユバルやその元配下のエルフたちが双葉町を超えたところで、彼らを射程内に捉えた。その途端に、ユバル達を狙った砲撃が容赦なくユバル達に注いだ。ユバル達も、原時空人類たちの知らない武器で、激烈な対空砲撃を戦闘艦に浴びせ返した。双方は双葉町を超えて魔法の打ち合い、魔装具に因る戦いを展開した。双葉町の上空で炸裂し合う砲撃戦の様子を見た原時空人類たちは、イサオたちを含めて家々の地下室で息をひそめ、ただただ恐れおののくばかりだった。
「ボス、俺たちの周囲が火の海になり始めている」
「奴ら、砲撃の下にいる俺たちのことなんか、意に介していない」
「ボス、逃げましょう」
イサオの部下たちは、口々に恐怖を口にした。イサオも答えたのだが、それは絶望に満ちていた。
「逃げる? どこへ? 近くの居住地とはいっても、あの巨大な谷の向こうにある洗足荏原だ。ほかの居住地は、はるか北方の仙術台まで行かなければならない。しかも、今砲撃し合っている彼らは、俺たちに加わったエルフたちも知らない大魔法を撃ちあっているそうじゃないか。俺たちが逃げ出そうとここに居続けようと、俺たち原時空人類のことなど意に介さずに無関係に撃ちあい続けるに違いない。逃げ出したいが、今逃げだせばおそらく俺たちは全滅だ。今はここの地下で身を潜めておくことだ」
「しかし、既に周囲は火の海になっていますよ。逃げて行った刃合うのエルフの奴らは、対空砲撃をしながらこちらに近づいているということですぜ」
「どこにも逃げる場所はない。ここで耐えるしかない......」
このとき、数野園の敷地に空中戦闘艦からの流れ弾が炸裂し、地下室の一部が露出した。途端にイサオの部下たちばかりでなく、ジミーや理亜、玲華までがパニックに陥り、我先に地上へと飛び出て行った。そこに、続けざまに流れ弾の群が着弾し始めた。そのひとつがイサオたちの至近距離で爆発した時、イサオは彼女たちとともに倒れ込んだ。
「理亜ちゃん、玲華ちゃん 大丈夫か?」
イサオが声をかけたとき、彼女ら二人、そしてジミーは瓦礫にまみれていた。イサオはジミーを見て怒りを覚えた。
「ジミー、お前、理亜ちゃんと玲華ちゃんを守るはずじゃなかったのか?」
「え、え、え?」
ジミーは、この破滅的な状況でもいまだに脳裏が眠っていた。本当の危機が訪れているはずなのだが、それでも脳裏は動いていなかった。そのとき、また新たな至近弾の炸裂が起きた。
「キャー」
「うう」
理亜と玲華、また近くにいた男女たちまでが悲鳴を上げた。その声がようやくジミーを覚醒させ、その覚醒はジミーを不気味に黙らせた。
「おい、みんな、此処の男女たちを助け出せ。ジミー、どうしたんだよ、逃げろ、此処は危ない」
イサオはジミーに大声を掛けた。しかし、地下の壁はこれ以上崩れることはなかった。その代りに、ジミーは黙ったままでその顔は少しばかり怒りを含み、外では急に天候が大きく変わり始めていた。
地上のユバル達と空中戦闘艦との間での砲撃戦がピークを迎えた時、そのさらに上空では、突然気圧が急激に下がり始めた。それと同時に、戦闘空間をはるかに超越した東アジア上空全体を覆うように大規模な積乱雲が発生した。さらに、それらは発生と同時に強烈な電撃を発し始めた。
始めこそ積乱雲の中で発生し始めた電撃だった。が、すぐに積乱雲の下にいた戦闘艦に連続的電撃を喰らわせた。魔動戦艦は、内部の魔導回路や外皮金属がたちまち焼け焦げた。また、地上のユバル達エルフの集団にも電撃を次々に食らいはじめた。彼らは、巨大な雷撃に恐れをなしたようで、戦闘艦は急速に回頭しながら離脱し、エルフたちもまた魔法による砲撃を中止して、さらに北方へと逃げ出した。
彼らは巨大な雷撃を、互いに相手側が仕掛けた攻撃であると思い込んでいた。つまりユバルはドバールの魔法と考え、ドバールはユバルの魔法と考えた。
「おい、空の奴らも、空に魔法を撃っていたエルフの奴らも、雷にやられたぞ。皆、逃げていく......」
「空の戦闘艦は雷によって大破した......」
「大魔法のエルフたちも這う這うの体で逃げ去ったぞ」
「不思議なこともあるなあ、どういうことだ?」
イサオや付き人の権康煕、林孔明、袁崇燿らが、すっかり暴風でクリアになった空と、ところどころ破壊された地上とを見渡しながら、疑問と感嘆を口にした。ジミーは彼自身の怒りを悟られることもなく、がれきから理亜と玲華、青木恵子を救いだす作業を続けていた。
ジミーだけはわかっていた。先ほどまでの激烈な電撃は、彼が生起させた巨大な積乱雲によるものだった。理亜たちの悲鳴で覚醒したジミーの技は、彼自身の改編数学によって自然現象に比べて異常な規模の怪現象、すなわち東瀛の全体を覆うスケールで巨大積乱雲を発生させていた。
______________________________________
激烈な砲撃戦と雷撃の後、葛飾双葉町とその周辺ではまだ原時空人類たちは生き延びていた。その葛飾双葉町の各地の上空には、魔國の戦闘艦が頻繁に哨戒を繰り返すようになった。東京湾上の魔國基地は、さらに巨大になって再建され、いくつもの戦闘艦や空挺部隊などが常駐するほどになっていた。彼らは、地上をなめまわすようにしてユバル達を探していたのだった。
初めはイサオたちは、前と同じように抵抗をつづけた。だが、彼らの仲間になったエルフたちは、口々に巨大積乱雲と激烈な雷撃の不気味さを話題にして身を震わせていた。
「あの猛烈な雷撃、巨大な積乱雲。あれは、魔法ではない」
「あれは、魔國の戦闘艦から放たれた魔法ではないのか。そうでなければ、あの逃げて行ったエルフたちの魔法では......?」
「いや、確かに魔法ではない。なぜなら......」
「なぜなら?」
「この辺りのヘクサマテリアルは、我々エルフ族にも感じ取れないほど非常に薄い。この薄さであの巨大な魔法は発動できない」
「では、自然現象だと?」
「そうだ」
「待ってくれ。親愛なる仲間のエルフたちよ。そんなはずはない。今まで地球上の積乱雲でこのような巨大な規模を有したものはない。それはもう台風の規模さえ超えている。さらに不思議なことに、この巨大さにもかかわらず、あの積乱雲は急に発生して急に消え去っている。これは人為的な現象であるとしか言いようがない」
このやり取りで、彼らは黙ってしまった。だが、付き人の権康煕はふと思い出した。
「あの積乱雲は、イサオさんの弟さんが娘たちを助けているときに発生していました。それと関係があるのでは?」
「まさか、ジミーの力か。いや、俺が知っている今までの彼のわざは、せいぜい50メートルの範囲内だった。でも、もしかすると.......それなら、いつか試してみよう。お前たち、ちょっと集まってくれ。いいか、もし、この土地をあとにする際に、ジミーの正体を調べてみたい。つまりは魔族たちの襲撃の時、彼と理亜たちを残したまま離脱してみようとおもう。そうすれば、もし魔族たちによって娘たちが危なくなった時に彼の正体が分かる」
「それで、何も起こらなかったらどうしますか」
「それでもよいではないか。彼は本当は強い。それなら、どこかへ行ってもらってももんだない。今からの人類はどの地域にも散在するべきだからな」
こうして、イサオたちは何かを画策し始めたのだった。
さて、葛飾の人間社会は、何度も来襲する魔族たち魔装兵団に耐えられなくなった。葛飾の地にかろうじて残っていた政府機関の呼びかけで、イサオたちも逃げだすことになった、その話を聞いたイサオたちは、政府機関の役人たちから勧められた北の果てのノルドに設けられた秘密の地下避難所に向かうことになった。そして、その日、彼らは集合場所となった百里空港へと向かっていった。
「スキャナーに反応です。この電影は魔動戦艦群、そして空挺部隊の機動艦も来ています。過去の経験に照らして、これらは我々を捕獲するために殺到してきています」
「今集まっている者たちだけで、出発しよう」
百里基地の煬帝国東瀛方面軍は、こうして慌てた様子で基地をあとにせざるを得なかった。だが、上空ではすでに魔動戦艦群が包囲し、地表の地球側艦船へ向けて砲撃を開始した。
「お前たちは、反撃力を持っているとでも思ったか? 原時空人類どもよ。この地球の大地すべては我ら魔族のもの。下等な野蛮人どもよく聞け。我らはお前たちの遺伝子を受け継ぎ、新たな存在となった。下等なお前たちは滅ばねばならない。故に、皆殺しになれ」
こう言いつつ、戦闘艦は彼等を追い立てた。
「あ、あれは私達の輸送艦よ。もう出発したのかしら。あーあ、私達は乗り遅れたのね。あーあ、………でも、様子がおかしい。上昇しようとしない。あっ、上空に敵艦。地球側の輸送艦が攻撃され始めている...」
ちょうどこのとき、理亜や麗華、ジミーが百里基地を目前にしていた。
「助けて」
その声は、輸送艦の中から聞こえた。輸送艦に乗り込んでいた青木恵子が、その言葉を思わず口にしていたのだ。そして、その言葉がジミーの脳裏に響いた。
「誰?」
ジミーはそう言ったが、彼の周りで叫んだ娘はいなかった。畳み掛けるように、恵子の感じている恐怖が、ジミーの脳裏を揺さぶった。とたんに、上空の魔動戦艦群に向けて、地上から謎の雷撃が襲った。その一刺しが、原時空人類側艦船の向かおうとする方向にいた魔動戦艦十数隻を、一瞬にして蒸発させた。
「あの雷撃は地球側からの? 誰が? どこから?」
利絵たちはそう言いつつ、遠くから先頭の様子を見ていた。離陸した輸送艦は無事に逃げのび、戦闘がすっかり治まった。そして、やっと彼らは目指す百里基地に達した。
「ここ、百里基地だよね」
ジミーたちが茨城空港基地に着いた時、そこは無人の廃墟だった。しかも、魔國の襲撃の跡とみてよい穴だらけの地面が広がっていた。
「ここにはもう誰も残っていない、やっぱり先ほどの輸送艦は、私達を見捨てて行ったのね」
玲華や理亜は、置き去りにされたショックを受け、そう言って膝から崩れ落ちていた。それでも二人は、冷静に四方を観察した。
「そうだ。あれは確かに軍の輸送艦だった。軍は逃げ出したんだ。逃げ出せたんだろうね」
「逃げ出せた? 集まり切っていないのに、未着の者たちを見捨てて逃げ出したということでしょ?」
「そう、這う這うの体で逃げ出していたよね」
「私たちを見殺しにして、でしょ」
「そうとも言えるけど、本当のところ、あの時点でも逃げ出すことさえ無理だったでしょ」
「そうか、でも、誰かの一撃で、魔國側を不意打ちした。それで彼らはなんとか逃げ出すことができたというところね」
「つまり襲われたときに、空港に集まっていた人類を乗せてにげだせたということだね?」
「おそらく、この辺りは薙ぎ払われたね。でも、人類側は一刺しして突破したということね。北の方行にいくつかの戦闘艦の残骸が見える。あれは地球のものではない。つまり、原時空人類側の一刺しで、残骸ができたということ......でも、どんな新兵器だったのかしら。」
これを聞いていたジミーは、聞こえたように感じられた青木恵子の悲鳴を思い出していた。
(確かにあの声は、あの輸送艦に乗っていたらしい青木恵子の悲鳴だった。僕は記憶を失うほどに激昂して強烈な雷撃を発生させたんだろうな。でも、理亜や玲華にまた大声で何かを言われるに違いないから、黙っていよう)
こののち、3人は、集合地と伝えられたノルドに向かい始めた。それは、ベーリング海峡を越え、アラスカ周りでグリーンランドを目指す過酷な旅だった。