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3-4 原時空の攻略開始とジミーの冷たい触手

「特定空間のみをまるで刳り抜くように転移空間の制御から外すなんて。そんな細かい空間制御ができる魔法を駆使できるとは? いや、魔法でこのようなことができるのか? そもそも、あれは魔法なのか。そして、こんなことができるのは、誰なのか」


 ドバールは、荏原上空に浮遊する魔動戦闘艦経由で戦況を振り返りつつ、驚愕していた。自らが魔動戦闘艦を介して展開した時間軸転移魔法の空間の内側が、見事に細部にわたってくりぬかれていたのだった。しかも、魔法の発生源である自らのところまで、正体不明の力場が次元を超えて追跡してきていたことにも、驚愕していた。確かに、今までも、ユバル達との魔法同士の戦いでは、力と力の出し合い、もしくは魔力を発するおおもとをたどる魔力追跡などがあった。しかし、感じた力場は得体のしれない化け物だった。

 普段の魔法使いであれば、必ず何らかの精神的反応がヘクサマテリアルを伝わってくるはずなのだが、今回の追跡力場には、それが感じられなかった。荏原付近で作戦行動中の戦闘艦を介して感じた触手のような感覚は、明らかに魔力とは異質のものだった。彼が感じたものは、外から干渉してくる魔力ではなく、彼の脳裏に働きかけると同時に肌表面に静電場の様な身の毛のよだつ力場だった。

「ヘクサマテリアルを経ずに、私のところまでたどってきたのか? どこから? まさか、原時空からか? だが、この魔法のような繊細さは何だろうか。力任せの力場ではない。いつか、ユバル達が報告していた原時空の破戒僧は単なる力任せの乱暴者にすぎなかったはずだ。そう言えば、この前に捕まえていたジミーは破戒僧候補だと聞いてはいたが、そいつは単に女を見れば卒倒する意気地なしだったぞ」


 魔國内にいるはずの魔法使いからでなければ、このような力場がドバールにまで及ぶはずはなかった。とすれば、結論から言って原時空からの次元を超えた干渉としか考えられなかった。ただ、この時彼はあまり原時空について、これ以上注意深く分析することや用心深く行動することに、考えは及ばなかった。

「これは、よくない気配だ。これからの作戦行動は、迅速に展開してすぐ撤退したほうがいい」

 彼は、作戦行動を止める気はなかった。魔國内部の政敵ヤバルやユバルを追い落としつつあるとしても、彼らが実施してきた原時空人類捕獲を止めるわけにはいかなかった。彼は、作戦行動を司る魔族たちに、迅速な行動と警戒とを指示した。

______________________________________


 ドバールが作戦行動を終え、帝都ペレスに帰還した数日後、御前会議が開かれた。

 極魔宮殿では、すっかり意思を失った極魔皇帝ラーメック666世こと、ラーメック・ネフィライムが玉座に座って、御前会議に臨もうとしていた。彼の右手に立つ宰相には、すでに若い孫ながら非常に優秀であると取り立てたドバールの息子ドバールカインが立っていた。反対側の左手には、これもまたドバールカインと同年齢であってラーメックの子、対外戦略相モゼストが控えていた。若い彼女もまた、原時空以外の各時空へ大規模に遠征軍を派遣する対外展開遠征軍の総司令官として、ドバールカインと同じ程度に優秀な才覚を発揮していた。

 一段下った陪席には、ラーメックの正室ツィラ・ドワーフ、長男ドバール(dwergr)・ネフィライム、次女ノーリー・ネフィライムが座っていた。ここでは、ドバールが欠席している次男ヤバルと長女ユバルの裏切りを持ち出そうとしていた。だが、ドバールカインにとっては見えない新たな敵が、今では大きな気がかりとなっていた。


「これより魔國皇帝御前会議を開催する」

 ラーメックの代わりにドバールカインが玉座の前に立ち、議事の始まりを告げた。

「皇族各位はお揃いか?」

「息子よ、第二皇子ヤバルと第一皇女ユバルが欠席しておるな」

 ドバールは、格上に座する宰相をわざわざ『息子』と呼んだ。宰相ドバールカインはそのことにも表情を変えず、父親に視線を返し、普段通りの呼び方で応えた。

「そうですね。第一皇子殿下。しかし、今は急ぎ検討せねばならぬことがあるため、このまま議事を勧めたいと考えます。陛下、よろしいでしょうか」

「よい、そのまま進めよ」

 皇帝ラーメックはうなづき、再び目をつぶった。その様子を見ながら、ドバールは機先を制するかのように声を上げた。

「ここに居る陛下をはじめとした皆、此処では欠席しているヤバルとユバルの裏切りについて、討議したい。今すぐにでも、彼らとその勢力下にある帝国の組織などを、取り締まるべきであろう」

「裏切りがあったのですか? それはいけませんね」

 ドバールに共鳴するようにツィラが声を上げ、第二皇女ノーリーもまた、応じた。だが、ドバールカインは父親を制するように、静かに指摘をした。

「お待ちください。今は、そのことを討議するつもりはありません」

「そうです。今は原時空から次元を超えて干渉して来た正体不明の力場について、話し合うべきです」

 宰相の反対側に立っていたモゼストが、宰相に同意して声を上げた。ドバールは、このことが気に入らなかった。 

「モゼスト殿は、ユバル達と同郷でしたな。とすれば、味方するのも当然だろうな」

「ドバール様、それは聞き捨てなりませんね」

 モゼストは少し色を成してドバールを睨みつけた。ドバールは嘲笑するようにつづけた。

「ほお、だが、すでに私は、彼らを帝国正規軍魔装兵団によって取り締まりを続行するつもりです」

「ドバール様、あくまでもそうなさるというのであれば、帝国異次元遠征軍の時空騎兵が阻止しますぞ。しかもあんたたち正規軍にはない、強大な魔力によってね」

「なんだと」

 ラーメックが珍しく目を開いて二人を制した。

「ドバールも、モゼストもやめなさい」

「そうです、父上。またモゼスト殿も控えてくれ。それに父上、この宰相たるドバールカインもモゼストの意見に賛成です」

 ドバールカインもモゼストに同意した。そのため、ドバールの反発にもかかわらず、ラーメックの一声と息子ドバールカインの(たしなめによって、ユバルとヤバル取り締まりは取り下げられ、ドバールカインの懸案事項に話が移った。

「陛下、そして父上もよくお聞きください。原時空からこの魔國のある異次元時空(ノード)にまで干渉してきた力場は、何らかの目的を持っていたはずです」

「そうだな」

 全員が一斉に同意した。事実であれば、それは重大なことだった。ドバールカインは事実であることを強調しながら続けた。

「確かに起きていたのです。しかも、それはある特定の目標をいとも簡単に捕まえていました」

 ドバールカインは、こう言いながら父親の顔を覗き込んだ。

「ある特定の目標を簡単に捕まえられたのは、ちょうど異次元時空を超えて魔法が展開されていたからです」

「息子よ、何が言いたいのだ」

「父上、いや正規軍司令官ドバール殿下、作戦行動中に急に撤退命令をお出しになった時のことを覚えていらっしゃいますか。そうです。その時、殿下の脳と皮膚に直接接触してきた何かがあったはずです」

 ドバールは、この時になってやっと気づいた。いや、はっとしたのだが、ずいぶん遅い気づきだった。

「そ、そうだったな。だが、大したことはなかったよ」

「父上、大したことがないかどうかは、この会議にて討議すべき事柄ではありせんか」

「確かに、そう言えるかもしれんが、接触してきた力場はすぐに消えたのだ。フォローはできんかった」

「そうですか。しかし、何があったかは調べる必要があると思います」

「息子よ、まったくその通りだな。では、それを探すということだな?」

「はい」

「そうか、会議が原時空における敵を重視するというのであれば、ちょうどよい。派遣する捕獲部隊に、私も同行してこの謎の相手を探ることにしよう」

「父上が、ですか? まあ、いいでしょう。お任せしますよ」

 こうしてドバールは、自ら原時空へ親衛隊を率いて、捕獲部隊を構成する正規軍に同行することとなった。

______________________________________


 この時の正規軍の構成は、魔装兵団であり、魔族主体の歩兵だった。だが、調査することも付帯指示として与えられると、新たに、各種魔道具を扱うエルフと、先行した調べ部隊の原時空人類の暴走族あがり、ハングレたちが加わった。また、彼らは原時空に大量のヘクサマテリアルを持ち込んでいった。それが原時空でもドバールたちが多少とも魔力を使えるための舞台道具だった。

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