3-3 襲い来た魔族の正体
ドバールの魔力をたどってつかんだドバールの脳裏からは、異次元時空と魔國に関する膨大な情報が、ジミーの脳裏に流れ込んだ。襲い来た怪物たちが魔族と呼ばれる者たちであること、それらをドバール第一皇子が率いていること、そのドバールの正体、ドバールの招いている今の魔國の実態、様々なことを知った。
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ドバールは第一皇子でありながら、破戒者となっていた。
彼は、複数の相手を愛するという戒律を破って、特定の相手だけを選んだ。それも自らの妹である妹ノーリーだった。そして、彼らの間には、一人の子供があたえられ、ドバールカインと名付けられた。
ドバールカインは、同年に生まれた皇女モゼストと共に育てられた。だが、ある年齢になって、彼は父ドバールと母ノーリーとともに父ラーメック666世の意識を乗っ取り、動かすことに成功していた。
ドバールカインは、その後、ユバルとヤバルたちが監視部隊と捕獲部隊によって原時空に対する作戦を行っていた間に、彼らの管理下にあったはずの、ネンドールエルベン領の自由主義者たち、ランクウェンディ領の躺平者たち、ウーマンヤール領の房総族たち、ファラスリム領海にある孤島のハングレたちをすべて奪っていた。これら数百人のうち、兵士に向いている者たちは兵士として訓練し、彼らは、ユバル達が帰還した時に襲い来た帝国正規軍を構成した。さらには、残りの原時空人類捕獲者たちの男女を大量に利用して受精卵を大量に得たうえで、様々な変異を繰り返し、得た遺伝子によって、人間たちから大量の変異物を得た。しかも、ドバールカインは、父ドバールと母ノーリーの遺伝子を改編させては、子供を得させ、近親相姦を繰り返させていた。
その試みはたびたび失敗していた。しかし、それらの失敗はついには異常な魔族たちを生み出していた。生まれた後の彼らは、やがて意識を悪魔の領域に伸ばし、進んで時空の支配者マスティーマの眷属に加わって魔族となり、マスティーマの眷属たる魔族は激増した。
また、誕生した魔族の中には、人体に寄生しなければ生きながらえない魔族まで誕生した。彼らは、使い古された先ほどの捕獲者たちの身体に寄生して、まるで屍か死体のような彼らを動かす寄生魔獣となっていた。
ドバールカインの外側の姿は、ドワーフの子孫でありながら、はるかに急速に成長して父母とは異なり先祖返りしたようなエルフの姿に育っていた。ただ、彼等は圧倒的魔力と七の七十七倍を復讐を標榜した。
そんなドバールカインに対抗するように、モゼストも謎の動きを始めているということだった。ドバールカインとモゼストとの間には、見えない何かが生まれた。それが強力なのか、競争なのか、それとも対抗なのか、あるいは互いに互いの存在を認めないという決定的対立なのか、今はわからなかった。ただ、この二つの間の対立が、後に、魔國を魔物の国に変えてしまうに違いなかった。
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これらの情報が、一気にジミーの脳裏に流れ込むと、ジミーには今後の原時空にある地球とその未来をさとった。またジミーたちには、倒さなければならない者たちがおり、何とかして魔國にいかなければならないことも認識した。
だが、ジミーは準備が出来てはいなかった。相変わらず彼は怖がりでだらしない愚か者であり、鈍臭くて頼りない無能なデブであり、卑屈な女性恐怖症だった。かれが地球の未来、魔國の実態を知ったとしても、彼だけで、彼自身でこれらの問題に対処できる可能性はなかった。
彼に必要なものは、何らかのリーダーシップとほんの少しの勇気だった。それには何が必要だっただろうか。
ジミーは、魔族たちが急に撤退した後も、無人の荏原学園で玲華たちと訓練にいそしんだ。体を鍛え、能力を向上することで、少しでも自信を持つためだった。理亜と玲華もまた彼に協力した。ただし、この二人の姉妹が、ジミーの近くで薄着となって一心不乱に体を動かす姿は、なかなかジミーには厳しい克服しがたいものだった。
理亜と玲華は、少なくともジミーの女性恐怖症を何とかしたかった。難しい問題なのだが、彼女らなりに考えて、ジミーを捕まえて早速試すことにした。
彼女たちは、一度ジミーが母親によって縛り付けられて強制的に女性恐怖症の克服を図ったことがあるのを思い出した。彼女たちは、母親が優しくアプローチしなかったから克服できなかったのだと、解釈していた。
「私たちは二人いるわ。だから二人掛で強制すれば、治るに違いない」
なぜ、その様な結論が得られるのか、今ではわからないのだが、二人は早速実施に映った。
ふたりは、ジミーが深く眠っている間に彼を椅子に縛り付け、両側から二人が迫ることにした。
「なぜ、僕は椅子に縛り付けられているの?」
ジミーがそう感じた時、この時、彼の周囲には理亜も玲華も、ほかの女性たちもいなかった。だが、縛り付けられたという条件だけで、彼の頭の中には過去の情景がはっきりと浮かび上がった。ジミーの脳裏には、母ルビカが教室を借り切って彼を矯正しようとした過去を思い出した。
(あの時、僕は災いだった。そして、今この時、僕は災いだ)
こう思ったとたん、ジミーの脳裏には、その時見たグラビアのヌード、また早川先生の裸身などが浮かんだ。それだけでジミーはパニックになり、過去のトラウマを思い出した。
「ああ、僕は災いだ。僕は女性を情欲をもって考えてしまった。見つめてしまった。僕は災いだ」
そう叫んだ時、ちょうど両サイドから、薄着の理亜と玲華の姿が現れた。
「あ、ジミー君、目が覚めたのね?」
「逃げようと思わないでね」
二人の声に、ジミーははっと我に返った。
「なぜ、僕は椅子に縛り付けられているの?」
「それは動かないようにしてるだけよ」
「僕は誰にもひどいことをしないつもりだけど」
「うーん、違うわ。これから私たちがひどいことをするのよ。。。だから、ジミー君が逃げないようにしたのよ」
「えっ?」
ジミーは、彼の前に立っている二人に目を上げた。ただ、彼の目の前にいたのは、ジミーにとって目の読なほど薄着になっていた理亜と玲華だった。
「ジミー君、私を見て!」
「だめよ。目を背けないで!」
「ジミー君、私たちを見て!」
「なんで、そんな恰好なんだよ?」
ジミーはほとんど気を失う寸前だった。ジミーの卒倒しそうな反応に、理亜と玲華は慌てた。
「私たち、ジミー君の......女性恐怖症を治してあげたいの」
「そう、だから、ジミー君の間近にこうして二人で立ってみたのよ!」
ジミーの縛られている前に、姿勢よくたった娘二人は、薄着ゆえに豊かな胸とくびれた姿がよく表れていた。その姿から目を外しながら、ジミーは目の前の二人が何を考えているかを、悟り始めていた。
「でも、僕は女性を見ただけで怖がるわけじゃないよ」
「でも、ジミー君は、薄着になると目を伏せる......」
娘たちは覚悟を決めていたのだが、少しばかりその覚悟が揺らぎ始めていた。それを感じたのか、ジミーは自信の無さというよりも自己否定を始めてしまった。
「それは、ダメだ。僕がいけないんだ。僕の心の中に何か衝動が生まれてしまう。だから、僕は避けるんだ。見てしまったら、自分を呪うんだ。罰しなければいけないんだ」
「なぜ?」
「僕は虫けらだから。不潔な不浄な虫けらだから。僕はここに居てはいけないんだ。女性たちの前にいてはいけない。特に、僕の大切なあんたたちの前にいてはいけないんだ!」
ジミーの叫びが響いた。それが彼の目の前の娘たちを戸惑わせ、困惑させた。
「なぜいけないの、そんなこと言わないで」
理亜の返事は悲痛だった。玲華の言葉は涙に乱れていた。
「でも、今、私たちは三人だけなのよ。私たちを受け入れて!」
「もちろん、僕はあんたたちを受け入れるさ。受け入れるも何も、僕にとって神聖な二人なのに。だから、こんな不浄な僕から離れた方がいい」
「それは受け入れることになっていないわ」
「私たちのすべてを受け入れて!」
「私たちが三人でいつもいられるように、私たちの姿全てを受け入れて!」
「理亜ちゃんと玲華ちゃん、何をしろというんだ?」
ジミーがこういうと、二人は静かに立って部屋の外へ出た。それから、彼女たちは様々な姿で彼の前に立ったのだった。
まずは、通常の部屋着、次に体育着、水着、というように、彼の目の前に、理亜と玲華が様々な姿で現れた。その度ごとに、ジミーは先ほどのように呪われたのではないのだということを、理亜と玲華に言い聞かせられたのだった。これによって、ジミーの内心は、少しばかり理亜と玲華に対する恐怖心が消えていった。ただ、それは二人に対する恐怖心が消えて行ったのであり、相変わらず女性一般に恐怖心を持っているままだった。
とりあえず、彼は従妹の理亜と玲華とを相手にしている限りは、彼女たちに対する恐怖心は消えたように見えた。