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3-2 魔物達の原時空侵略

 ネット上の画像ニュースも、ラジオもテレビも、皆、全世界各地の上空に現われた数隻の奇怪な空中戦艦と、その周辺を飛来飛び回っている獣のような集団を報道していた。

 ジミーや理亜、玲華たちもその情報を見てはいたが、彼らが住んでいる荏原はまだ平和なように見えた。普段、買い物をしている店も、通いなれた通学路も、近くを走る東急電鉄も、全てが平穏だった。だが、ある日の夕暮れになって、奇怪な空中戦艦は東京上空にも表れた。

 あらわれたタイミングは他の地域に比べて一番遅かった。それは東瀛が地球上でもっとも高齢化が進んでいて、若者たちがもう残り少なかったためだった。


「あのお化け戦艦は、レインボーブリッジの柱の上に乗っかって、何かを待っているんだわ」

 中継画面を見ながら、玲華が指摘した。すると、理亜がその見方を訂正した。

「いや、乗っかっているんではなくて、さらに南西へ移動している......」

「じゃあ、どういうこと?」

 玲華は顔色を変えて理亜に問いかけた。

「東京一帯はまだ手付かずだったよね?」

「そう、世界各地は、もうおもだったところは襲われている。でも、東瀛だけは襲われていなかったんだ。超高齢社会だからだろうね」

 理亜はそう答えると、理亜はさらに問いかけた。

「とすると、あの空中戦艦は、東京のどこかを狙っているということ?」

「おそらく、南西部。学生たちがまだ残っているこの辺りだろうね。渋谷から東急線沿線、下北沢とかを狙うと思われるね」

 理亜はそう答え、今度はジミーの顔を見て少しばかり慌てながら問いかけた。

「とすると、これらの状況をすべて勘案して計算すると......いつごろ?」


 肝心のジミーは質問を聞いていなかった。彼は、つい先日から若い三人の男女だけで一つ屋根の下に暮らしていることに、ずっと気を取られていた。

 三人だけになった当日の夜から、ジミーは様々な困難に遭遇していた。近づいてはいけないと自らを律していた相手である少女二人をジミーがみずから守り切らなければならないこと、少女二人が常時薄着で家中を闊歩すること(もともと彼女たちの家なのだから仕方のないことではある)、バスタイムに着替えの忘れ物を取りに彼女たちはバスタオルのみで(いや、平気ではないが服着用を面倒くさがって)バスルームから飛び出してくること、ジミーが風呂に入っている時間を予約していたはずなのに自分たちのバスタイムを優先させて飛び込んでくること、彼が大切にしていたコレクションを勝手に処分してしまうことなどなど、である。これらは、ラバン伯父やチャウラ商会のメンバーたちがすべて捕獲されていなくなってしまったために、ジミーがとても強く意識してしまう困難だった。

 こんな事情があって、危険性を避けるためにこの家から出ていくことが二人の少女と三人だけで一つ屋根の下に暮らす困難から逃げ出せることにつながるという彼の本能的希望と、空中戦艦や魔族たちに襲われる危険がいつ来るのかという彼の脳裏での冷静な情勢認識とが絡み、ジミーの脳裏で行われている「いつ家をあとにすべきか」という計算は、非常に遅くなっていた。

「空中戦艦は、おそらく、今夜あたりにくるね......」

 ジミーは理亜の視線と圧力とを感じてはいたが、今になってようやく計算結果を答えていた。ジミーが間をおいて答えたのが不満だったのか、理亜はジミーに文句を言っていた。

「もっと早くわかったはずでしょ? あんたはポンコツなの? じゃあ、早くここから脱出しないといけないじゃないのよ......」

「でも、近所ではだれも、いや東京では誰も避難しようなんて言っていないよ」

 玲華は、理亜のあせりをなだめるように諭した。しかし、理亜の焦りは変わらなかった。

「でも、すぐに退避し始めないと、この辺りが襲われて、私たちは危ない......」

______________________________________


 原時空人類には、まだ若者たちが残っていた。そのことを彼らが知っていたのか、ジミーたちが帰宅した数か月後には、ふたたび原時空人類捕獲部隊が押し寄せていた。ただし、以前の捕獲部隊がハンサムな人間のようなエルフたちであったのに対して、押し寄せてきたのは全て謎の魔物の兵士たちだった。それも、今までのエルフの工作員部隊とは異なり、大掛かりな魔装・武装を有していた。しかもその襲い方は不思議なもので、男が女を襲い、女が男を襲うスタイルとなっていた。

 地球各地の軍隊は、最新鋭の装備を駆使して激烈な戦闘をを繰り広げた。しかし、必死の防衛にもかかわらず、少数にすぎない魔物魔装兵団は、膨大なヘクサマテリアルを持ち込んだうえで、魔力によって圧倒的な魔法と火力とをもって、地上部隊を一気に壊滅させた。その後は、力づくで堂々と高等学校や大学、専門学校や様々な所から若者たちを拉致して、異次元へと帰っていた。


 原時空人類にとっては、各地に魔装して来襲した魔物達は、謎の存在だった。圧倒的な火力と見たことの無い魔法というべき力は、どんな現象が起きたのかさえ分からないままであり、人類側は兵士たちも住民たちも襲われ、狩られるだけだった。ジミーたち三人にとっても、中継画面で見る限り、その中に映っていた魔装兵団は、以前見知っていたエルフの捕獲部隊とは完全に異質な圧倒的戦力と魔力を持った怪物たちにおもえた。そして、その魔の手は、ジミーたちの住む荏原の街にも伸びるのは時間の問題だった。


 その夜、荏原周辺に現われた帝国正規軍は、少数ながらも魔装兵団だった。第一魔装(ゲイボルグ第二魔装(グングニル火炎剣(レーヴァテイン)、魔剣、巨人剣(ドワーフハーデン)魔鎧まがい魔盾まじゅんなどの武装に加えて、傀儡くぐつ巨人兵(ゴーレム)を出現させ、たった一隻ながら魔動浮遊戦艦を出現させていた。

 迎え撃つ地上側では、煬帝国東瀛方面軍の動きが迅速だった。暗闇にまぎれて浮動要塞群、空中戦艦群、格闘戦闘機群を殺到させ、地上でも陸軍部隊が集結し始めていた。おそらく、東瀛方面軍でも、このような事態に即応できるようになっていたのだろう。


 浮動要塞と空中戦艦群は衝撃円陣形を取り始めた。一隻の魔動戦闘艦に対して、煬側の十数隻の空中戦艦....。

 地上には降下してきた魔物達、すなわち捕獲部隊と護衛の魔國正規軍魔装兵団に対して、多重の包囲陣形をとった地上側の機甲兵団....。

 通常の敵軍であれば、一挙に包囲殲滅できる圧倒的な戦術だった。だが...。


 包囲陣形が整ったと思われたその時、いきなり浮動要塞と空中戦艦群が全て火に包まれ墜落した。地上では、少数の捕獲部隊と護衛の帝国正規軍魔装兵団に対して、包囲衝撃体形をとった機甲兵団の大軍が一斉に砲撃を加えると、それに応戦するように彼らは魔装を繰り出しつつ傀儡や巨人兵が一斉に敵軍勢に向けて突撃し始めた。いや、彼らは突撃し始めたのではなく、魔装によって壊滅した敵機甲兵団を追撃し、火炎剣や魔剣によって次々に切り殺し粉砕していったのだった。

 

 魔國正規軍の周囲は、都市全体が一気に火の海となった。街中では、墜落した要塞群や戦艦群から乗組員たちが脱出しながらも、魔物達にくし刺しにされていった。また、地上の機甲兵団も壊滅し、やはり逃げ惑う戦闘員たちが、切り殺されたり、くし刺しにされていった。街中の住民たちも犠牲になり始めると、街中は阿鼻叫喚と大混乱となった。

 しばらくすると、兵装の軽い少数の魔物達、おそらく捕獲部隊が、逃げ惑う原時空人類の若者たちを捕獲し始めていた。四方八方で悲鳴が起き、次々に原時空人類の若者たちは捕獲されていった。


 捕獲の手がチャウラ家の自宅にまで及び、捕獲兵そして魔装兵団兵が乱入してきた。この時まで、ジミーたちは、まだ逃げだす準備が終わっていなかった。

 捕獲兵は、まず理亜と玲華の二人に幻惑魔法をかけて魅惑の声をかけた。

「これから行くところは、素晴らしい世界だよ」

 魅了された二人は歓喜の声を上げて転送空間へと歩き始めた。その姿を見たジミーは、突然に覚醒して魔装兵団兵を睨みつけた。

 彼の脳裏はすぐさま、近辺の魔装兵団兵たちが数人で魔法を展開し始めることを算出していた。正確には、ドバールが既に展開していた時間軸転移魔法によって形成されつつあった転移空間に、理亜と玲華の二人を放り込む小さな魔法を展開していたのだが。

 この時をジミーは逃さなかった。彼は、転送空間内の理亜と玲華との身体に沿わせるように特異空間を展開させ、転送空間から彼女たちの身柄だけを抜き取った。さらには、魔力の発生源を時空を超えて特定し、その魔法を制御する思念の基である異次元空間のドバールの精神の中にまで、計測場を辿たどり着かせていた。


 チャウラ家の上空では、ドバールが魔動戦闘艦を経由して戦況を観察していた。その艦内では大騒ぎが起きていた。係員たちが、ドバールが魔動戦闘艦を経由して展開した時間軸転移魔法の空間が、一部切り取られつつあることにようやく気付いたのだった。戦闘艦上の係員だけでなく、異空間の魔國本国で制御しているドバールまで、今までにない現象に気づいて慌てふためき、慌てて連絡を四方に取り合う慌てぶりを見せていた。

 ドバールは、自身の魔法展開時空に強制的に介入した力に、気付いていた。ただ、どこからそれが来たのか、どのような仕組みなのかはわからなかった。ただ、彼は、何とか展開した魔力を強めて修正を図った。だが、簡単に弾かれた。それどこか、異空間に存在する魔力源のドバール自身にまで、その謎の干渉力が接触し、さらに強まって来た。このままでは、彼が展開した時間軸転移魔法自体が消し去られかねなかった。

「総員、警戒せよ。時間軸転移空間に謎の力が及んでいる」


 彼は力づくで何とかその時空の転移だけは、完遂できたところだった。だが、その際、ドバールはその干渉力をもった主と精神感応の状態にまで入り込んでしまった。

 ドバールは、非常に驚き、慌ててこの事態に対応しようとした。

「これはおかしいぞ......いや、危険だ....。総員撤退せよ。今すぐだ、作戦行動は今すぐ中止しろ」

 ドバールは、異次元に居るはずの自分にまではっきりと敵意が向けられたことを確認した。恐怖すら感じて慌てて撤退命令も出した。それに合わせて、彼ら帝国軍は、彼らにとっては可能な限り迅速にその時空から立ち去った。

______________________________________


 ジミーの目の前に、一瞬ドバールの奥の記憶が展開された。その後、彼の目の前では、さらわれようとした理亜と玲華の周囲だけが転送されて消えた。理亜と玲華の身柄だけは原時空に残すことができた。ただし......


 当の理亜と玲華には、彼女たちの身に着けていた髪飾りや衣服類が、全て消え去ったように見えた。不幸なことに、幻惑されていた彼女らには、目の前のジミーが手をかざしていたのを見て、ジミーが彼女たちが身に着けていたものを消し去ったように誤解した。当然ながら二人はジミーめがけてとびかかり、さんざんひん剝き、引っ搔いた。

「や、やめてくれ」

 ジミーはほとんどの服をむしられて怯えながら、半泣きでそう言った。しかし、彼が半泣きで訴えても、彼女たちは幻惑魔法にかかったままで、ジミーの服を最後のパンツまでむしり取っていた。

 ジミーは気を失いながらも、床に倒そうとする理亜と玲華に対して、必死に抵抗していた。ジミーは、大切な彼女たちに対して大した力をふるうことなどできるはずもなかった。他方、理亜と玲華はなかなか幻惑魔法から覚めず、しばらくすると、二人は完全にジミーを抑え込んでいた。

「あ、あの、これは非常にまずい」

「動くな」

 玲華は、仰向けになったジミーの頭と頸を、背中側から両腕で締め上げており、理亜は仰向けに倒されたジミーの上に馬乗りになって抑え込んでいた。ジミーは、気が遠くなりながらも、抑え込んでいる少女たちに話しかけ続けた。

「えぐ、二人とも、これはまずいことだ」

「ええい、動くなというに」

 二人は、ジミーを激しく揺さぶって皿に抑え込んだ。ジミーは黙り込んだ。脳裏はすでに計算が凍結されて動きは止まった。精確には彼には動物的な反射だけが残っており、若い男子のそれなりの反応をし始めていた。

 運悪く、このとき二人は目を覚ました。自らが行ってきたことは、はっきり記憶に残っていた。そして、今の状態と直前までジミーに対して行ってきたことに衝撃を受け、大きな悲鳴を上げた。その悲鳴で、ようやくジミーももう一度正気に戻った。

「ゴホゴホ」


、三人は反射的に離れ合った。だが、突き破られた屋根の隙間から月明かりが差し込む中で、三人は非常に疲れ切ったまま暗い部屋にしばらく横たわっているしかなかった。

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