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5.オスカーの盟友

 朝靄の中で、オスカーはゆっくりと顔を上げた。その顔にはデュランタという紫色の花びらが幾つか付き、まだ寝ている体を起こすように、山の入り口付近を見た。

「フレディにしては時間がかかったな」

 その言葉を聞いたフィンレーの仔とフレディの仔は、嬉しそうに耳を立てた。

「ぜぇ……ぜぇ、今、戻ったぜ」

「おかえり、おとうさん」

「お疲れ!」

「お前が無事に戻ってよかった」

 牡であるオスカーやベンジャミンも労うと、フレディは複雑な表情をした。

「まあ、故郷は人間どもに奪われちまったけどな」

 フィンレーの仔は、少し表情を曇らせた。

「そういえば長」

「何かな?」

「人間や狼の戦力は、どれくらいあるのでしょうか?」

 オスカーは少し考えてから、質問を返した。

「まずは、この群れの戦力から考えてみよう」

「はい!」

 その言葉を聞いた、他の仔馬たちも一斉に顔を上げた。

「ではフィンレー、仲間の数は?」

 フィンレーは辺りを見回した。

「大人の牡が3、牝が12、子供の牡が3」

「ユニコーンは?」

「エマ伯母さんとぼくだけです」

「ペガサスは?」

「いません。オスカーさんはユニコーンの中のユニコーン、ウイングユニコーンだから」

 オスカーは頷いた。

「つまり我らの戦力は大雑把に言って、ランク4が1頭、ランク3が1頭、ランク2が14頭、ランク1が3頭だ」

「ランクって、てきが1つうえだと、たまにしかかてなくて、2つはなれるとまずかてないんだよね?」

 フレディの仔馬が言うと、オスカーは頷いた。

「ランクが2つ離れると、そうだな……50人以上で襲い掛かって、半分が生き残っていれば運がいい方だろう。被害だけ受けて逃げられてしまうことも多い」

「なるほど。それで、ニンゲンやオオカミたちってどれくらいつよいの?」


 ベンジャミンの仔が質問すると、オスカーは麓にある人間の集落を眺めた。

「人間側の戦力はわからん。私としても今回の戦いで悪目立ちしたから、ほとぼりが冷めるまで身を隠したいと思っているほどの相手だ」

 仔馬は不安そうな顔をしたが、オスカーは話をつづけた。

「ただ狼や山犬の戦力なら、おおよそ調べはついている」

「どれくらいなの?」

「上空からの偵察や、然る情報筋からの話では、この山にいる狼や山犬は320前後だろう」

「さ、320!?」

「彼らは体が小さいから、大人で1、子供で0.5とカウントしても数が圧倒的だ。更に、中には騎兵クラス(ランク2)や王国親衛隊クラス(ランク3)の者も混じっている」

「え……!?」

「かちめがないじゃん」

「だが一枚岩ではない。狼や山犬は、大小様々な群れを作っており、大規模なものは100前後、小さいものは2・3程度の群れを作っている」

 仔馬たちの多くは呆然としていたが、頭の良いフレディの仔馬は言った。

「それ、おとうさんもいってた。おじさん1つやっつけたんだよね。60くらいのやつ」

「ああ、狼の中でも素行の悪い連中だったからこそ狙った。そうすれば、狼の中でも我らの味方をする者も出てくる」

 仔馬たちは不思議そうな顔をした。

「え? でもオオカミって、ぼくたちのテンテキ……」

 その言葉を聞いたオスカーは不敵な笑みを浮かべた。

「山犬の中には、牧羊犬という人間に仕えていた者もいるからな」


 それから数分ほどでオスカーの耳が動いた。

「どうした?」

 フレディが視線を向けると、オスカーは答えた。

「山犬の群れのひとつから使者が来たようだ」

「もしかして……」

 オスカーは笑った。

「この静かな足運びと威圧感は、彼しかいない」

「わかるの?」

「だれ?」

 仔馬たちは不安そうに言ったが、オスカーは笑いながら答えた。

「親友だ。私が牧場で暮らしていた頃からの付き合いになる」

 それから1分ほどで、山犬の使者が姿を見せた。

 体高は60センチ前後で、筋肉質な脚腰をしており体重は40キログラム近いかもしれない。彼は懐かしそうにオスカーを見た。

「天馬殿。久しいな!」

「マベリックさん。昔のようにオスカーと呼んでいただけませんか?」

「何を仰る。私はしょせんランク3。天馬殿は、竜や悪魔にさえ肩を並べるランク4。いくら親しくても、そのことを忘れることはできません」

 2人は笑い合うと、本題に入った。

「単刀直入に……天馬殿。我が群れと盟約を結んでは頂けませんか?」

 オスカーも満足に思いながら頷いた。

「願ってもない話です。けが人や病人が出たら相談して下さい。及ばずながら力になりましょう」

「では、友人たちを呼んで来ます」

 マベリックが仲間を呼びに戻ると、オスカーの妻エマは、不思議そうに尋ねた。

「あなた、マベリックさんの名の由来は一匹狼という意味ですよね?」

「ああ、マベリックさんは私の生まれた牧場で牧羊犬をしていたが、強盗団に襲われたあと、この狼山に入り、身ひとつで山犬40頭の長になった」

 仔馬は感心した様子で言った。

「ということは、とても強いの?」

 オスカーは頷いた。

「狼族の中でも、人狼になれる能力を勝ち取った方で、この山では3本の指に入る実力者だ」

「山犬王に最も近い者……とも呼ばれているぞ」

 フレディが言うと、仔馬は恐れと頼もしさの入り交じった顔をした。

「ヤマイヌのおうさま……」

 オスカーは笑った。

「彼がいなければ、この狼山に来ようとは思わなかっただろう」

「そんなすごい狼さえ遠慮がちな態度をとる。オスカーは偉大なんだぞ!」


 オスカー一行が笑い合っているとき、森の奥深くでは、狼の斥候が駆け足で洞窟へと入った。

「大変だボス!」

「どうした、騒々しい」

「マベリックのヤローが、オスカーとかいう馬と盟約を結びに行ったそうです!」

「オスカー……」

 その言葉を聞いた、がっしりとした体格の狼は表情を曇らせた。

「まさかそいつは、角の赤い天馬じゃねえだろうな!?」

「は、はい……恐らく、そのオスカーの可能性が」

「冗談じゃねえぞ!」

 体格のいい狼は勢いよく立ち上がった。

「狼山の一大事だ! 最低でも100は集めろ。女も、子供も、年寄りも、立てる手下は全て出陣だ!」

「へ、へい!」

 狼の斥候が走り去ると、体格の良い狼は牙を見せた。

「悪知恵ばかり働く犬っころどもが……ウイングユニコーンが何だってんだ。連携が整う前に叩き潰してやる」

備考:狼山の勢力 狼の合計387匹(オスカー襲来前のデータ)

ヒグマ殺しのダン派:122匹

人間狩りのゴネル派:62匹(1話で残らずオスカーがせん滅)

よそ者の星マベリック派:43匹


※以上が3大勢力で、4番手は16匹、5番手は11匹という具合に家族単位の群れがあり、ダン派に近づいたりマベリック派に近づいたりと、それぞれの勢力が変動することも多い。

 ゴネル派は素行が悪く、ダン派、マベリック派、その他派から嫌われていた。


 筆者が狼や山犬に転生していたらどこに派閥に所属しているか。マベリックと言いたいところだけど、誰にも馴染めずに木の実でもかじってそうだなぁ……

 でも、マベリックは心が広いから、仲間に入れてくれるかも、うん! そういうことにしておこう。

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