3.フィンレーの最期
オスカーは険しい顔をした。
姿を見せた冒険者の数は5人だが、そのうち4人は先ほど倒した討伐隊のリーダーに匹敵する威圧感を持ち、残る1人は更に頭一つ抜けた圧迫感を纏っている。
「ユニコーンを1頭仕留めた!」
「よし」
一度は倒れたフィンレーだったが、その目尻に血管を浮き上がらせると、ゆっくりと起き上がった。
「な……」
「バカな!?」
フィンレーは、白目を剥くほど気を高ぶらせると、その角を体から分離した。
「オスカー義兄さん……これを、我が仔に」
オスカーは険しい顔をしたまま敵を睨んでいた。
「頼む!」
「させるか!」
弓使いが弓を引き絞ると、オスカーは最速の炎弾を撃ち込んでけん制した。
「ひゃあ!」
「……確かに引き受けた」
オスカーはフィンレーの角を咥えると、翼を広げて空に駆け上がった。
「まてっ、逃がすか……宵闇の天馬!」
リーダー格と思われる魔法戦士が叫ぶと、男女の魔導士も杖を構えた。
「させるかぁ!」
同時に、角がなくなったフィンレーは牝馬と共に突進し、フィンレーは重戦士に体当たりし、牝馬は男魔導士を蹴飛ばした。
「この!」
弓使いが牝馬に狙いを定めると、急降下したオスカーが無数の炎弾を撃ち込んだ。
「ぎゃあ!」
「うわっ!」
女魔導士と弓使いが、木に背中を強く打ち付けると、魔法戦士は叫んだ。
「頼むぞ翼人たち。宵闇の天馬を倒してくれ!」
なんとオスカーの後方100メートルにまで翼人が迫っていた。数は3人。
「ランク3強1、3弱2か……今回の敵は、財力があると見える」
オスカーは、新天地の存在を隠すために南側へと逃走すると、翼人3人は弓矢や杖を構えた。
――頼む義兄さん、故郷を……
フィンレーの気配が消えたとき、オスカーは少しずつ高度を下げ、森の上空すれすれを飛びはじめた。
翼人たちは顔をしかめていた。不用意に飛べば木の枝にぶつかって一巻の終わりとなりかねない高度である。空を知る者なら、絶対にしない飛行だ。
オスカーは低空飛行をしながら、後方の様子を探った。
「……いい加減、オーラの残量が少ない」
オーラ切れを起こすと熟睡を終えるまで、魔法はおろか空を飛ぶことすらできなくなる。
疲労による眠気で、頭がもやもやし始めている今、もはや賭けに出るしかない。オスカーはそう思いながら樹海にそびえる一本杉を旋回しはじめた。
「……!」
間もなくオスカーは目を見開いた。
なんと翼人隊は、1人を反対方向に差し向け前後からオスカーを挟み撃ちにしていた。正面から繰り出された矢と、背後からの矢を受け、オスカーは肩や腰などに傷を負った。
翼に当たらなかったのは不幸中の幸い。オスカーはそう思いながら回り込んできた回り込んできた翼人に突進し、膝鉄砲を見舞った。
どうやら翼人には、オスカーの行動が不意打ちになったようだ。角の突進や炎魔法を想定していたのだろう。
後は、背面にいる2人。
「よくも!」
直後に殺気を感じたオスカーは後方に炎弾を3発放つと、翼人隊の目前で爆発四散させた。翼人たちも回避しきれず、羽の付け根、頭、腹部に受けて撃墜していく。
「チックショー!」
「あ、青毛ウマの分際でッ!」
オスカーは、翼人戦士2人が樹海に落ちるのを見届けると、新天地に向けて移動をはじめた。
補足
冒険者チームは4~9人で1パーティーを作りますが、翼人は3人1組で行動することが多いです。
因みに翼人は、3×3の9人で中隊を作ることもありますが、その場合は、渡り鳥のように美しいブイ字を作れるかどうかで部隊全体のレベルがわかってしまいます。筆者のようにはみ出す人間がいてはいけないわけですね(爆)