2.故郷の攻防戦
青毛のオスカーが翼を広げていた頃、オスカーたちの故郷フィン丘陵には、1頭のユニコーンと数頭の馬たちの姿があった。
「オスカーの言う通りにしようぜフィンレー!」
「そうだよ、牝も仔も無事に逃がしたんだ。俺たちも逃げる準備を……」
「逃げたければ、お前たちだけで逃げろ」
栗毛ユニコーンのフィンレーは、3頭の牡馬と1頭の牝馬と共に決死隊を作っていた。
「おいおい、勢力を蓄えてから、また取り返せばいいじゃん。命は1つしかないんだぜ」
フィンレーは険しい顔をした。
「義兄さんや姉さんのいうことは正しい。それはわかっている。ただ……」
「ただ、なんだよ?」
フィンレーはその瞳に、墓石のような岩を映している。
「ここには父……先代様と母上だけでなく、多くのご先祖様が眠っているんだ!」
その言葉を聞いた、オスカー派の2頭もお互いを眺めた。
「わ、わかった……そこまで言うのなら俺も戦うよ」
「おい、マジかよ!?」
フレディは驚いたが、もう1頭の牡馬は歯をむき出した。
「俺だって、オスカーの考えが正しいってわかってるよ。だけどさ、フィンレーの気持ちだってわかるじゃねーか!」
話を聞いていたフレディと、フィンレーたちの目に涙が浮かんだ。
「泣かせるじゃねえか……わかったよ。俺も戦う!」
「すまない」
フィンレーがそう言いながら前を見て30秒後。その表情は険しくなった。
「来たぞ」
間もなくフィンレー隊は、現れた冒険者パーティーと戦闘をはじめた。7対12と数でも質でも人間側に分のある戦いである。
オスカーはその間も飛び続け、遂に故郷まであと一歩というところまで来た。
「くっ……思った以上に冒険者の数が多い!」
感覚の鋭いオスカーには、上空からでも故郷の山の様子が手に取るようにわかった。
人間の冒険者たちは、北口から1チーム、東口から2チーム、西口から2チームの総勢33名が乗り込んできている。
一方で、迎え撃つフィンレー隊は、僅かに7頭。質でも量でも人間側に分がある。
「セテ王国近衛騎士、主力クラス(ランク3強)が何人も……。退路を無事に確保できるといいが……」
オスカーは東口へと向かった。
「おい、あの黒い馬じゃねえか!」
接近すると冒険者一行も気が付いたようである。
「頼むぞハンターにメイジ!」
「わかってら!」
弓使い4人、魔導士3人が一斉にオスカーに狙いを定めた。
「よし……いけ!」
リーダーと思しき戦士が槍を投げると同時に、彼らは一斉に矢や投射魔法を撃ち出した。
すると、オスカーもまた翼の後ろ側に隠していた炎弾を15連射して、無数の魔法と弓が空中でぶつかり合った。
「う、うお!?」
炎弾の半数は、敵パーティーの弾幕を突破し、冒険者へと向かっていく。
「頼むぞ、重戦士!」
「任せろ」
屈強な男たちは、魔導士や弓使いの前で大盾を構えたが、8発の炎弾は意志を持つように旋回し、背後にいた弓使いや魔導士へとぶつかった。
「そんがご!?」
「ぐぎゃ!?」
「バカな!?」
同時にオスカーもリーダー風の戦士を蹴り倒して着地し、隣にいた別の戦士を角で薙ぎ払い、応戦しようとした軽戦士も、風魔法で狙い撃ちにして倒した。
「……」
「……」
冒険者一行の表情は、恐怖で凍り付いていた。
わずか10秒ほどのやり取りで、魔導士と弓使いが7人、リーダー、戦士、軽戦士の3人が倒れ、残り6人にまで減っている。
「い、一斉にかかるぞ」
「おう!」
槍使いは刃先が切り落とされた槍を構えると、重戦士や軽戦士も3方向からオスカーに向かった。
しかし、オスカーは動くことすらなく炎魔法の連射によって軽戦士や槍使いを倒し、残った重戦士2人を睨んだ。
「ランク3弱が2人」
オスカーは再び炎弾を具現化すると、その先端を鋭い槍のような形状にした。
「そんなもの!」
重戦士たちは盾を突き出して突進してきたが、オスカーの放った炎槍は、深く大盾に突き刺さった。
彼らは盾が煙を上げて歪んでいくと、それを放り投げて斧を振り上げた。
「くらえ……!」
ところが、その眼前にはオスカーの蹄があり、蹴り倒される音が2度も森の中に響いた。
「思った以上に魔法力を使ったな……急がねばなるまい」
オスカーは翼を畳むと、力強く森の中を駆けた。
途中で、翼人が長弓を手に急降下を仕掛けてきたが、オスカーは視線を動かすことなく炎弾を放ち、あごに命中した翼人は、低木に倒れ込んだ。
「傭兵か。翼人の里で大人しくしていて欲しいものだ」
曲がり角を越えると、再びオスカーは呟いた。
「味方は3人か……」
駆け抜けると同時にオスカーは炎弾を放ち、フレディに襲い掛かろうとする格闘家の顔面に命中させた。
「ごばら!?」
格闘家は、後衛の魔導士を巻き込んで倒れ、弓使いは一瞬にしてオスカーに矢を放った。
その矢はオスカーの眉間を正確に狙ったものだったが、命中前に風の刃によって矢じりごと裂け、地面に突き刺さった。
「退路は確保した。すぐに撤収せよ」
オスカー派のフレディは頷くと、すぐにオスカーの作った退路を走り抜けた。
「いくら義兄さんの命令でも、それだけはできない!」
「ここは私たちに任せ、オスカーさんは避難してください」
フィンレーと隣にいる牝馬は、オスカーの命には従わないようだ。
「そうか」
オスカーはそう答えると、炎弾を20連射した。
応戦していた冒険者チームの数は、一瞬にして半数以下の4人にまで減り、恐れをなした2人が逃げ出した。
残り2人も、足を震わせながら立っていたが、オスカーが睨みつけると武器や盾を放り投げ逃走。オスカーも荒い呼吸をしながらフィンレーを睨んだ。
「わ、わかりました……すぐに」
「急ぐぞ」
牝馬、フィンレー、オスカーの順に避難を開始しようとしたとき、藪から飛び出した矢が、フィンレーの胴に突き刺さった。
「うあ!?」
「フィンレー!」
フィンレーが倒れると同時に、オスカーたちの前に、敵本隊ともいえる精鋭チームが姿を見せた。
オスカーランク
オスカーが独断と偏見で付けている、敵から見ればとても失礼な強さ指標。
ランク1=仔馬や人間の子供、一般的な小型動物の強さ
ランク2=騎兵、大型の馬、一般的な猛獣に匹敵
ランク3=熟練冒険者、象、下級悪魔、大型ゴーレム、バトルタイプの翼人&エルフなどに匹敵
ランク4=ドラゴン、守護精霊、上位魔獣、管理職悪魔、剣聖や賢者などに匹敵
ランク5=マスタードラゴン、魔王、大天使、精霊王などに匹敵
ランク6=強すぎて計測不能(直系10キロメートルの隕石など、地上世界を壊滅させる存在に匹敵)
ランク7=オスカーでは存在を認識できない
オスカーによると……
ランク1=1
ランク2=2*2=4
ランク3=3*3*3=27
ランク4=4*4*4*4……という具合にプレッシャーが増し、魔王クラスの魔物が1体いると、軍隊がいるように感じている。
ランク1でも大勢揃えば強くなるのかって? ちびっ仔ワンパク幼稚園になりそうだなぁ