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80 本日、定休日です


「ふわぁあ~~~……」


 おはようございます、朝です。本日は定休日です。


 いつもよりゆっくりめに目覚めると、僕はベッドの上で寝たまま、ん~と腕を伸ばした。まだ少し眠たいけれど、今日は楽しみにしていたハワードさんの牧場へ遊びに行く日。

 朝食の準備をしなくちゃ……、と思ったけど、ハルトとユウマもまだぐっすり。

 ……もう少しだけごろごろしよう……。


 ん~、しあわせ……。





*****


「にぃにぃ~! あちゃよ! おきてぇ~!」

「んぅ~……」


 僕の顔をぺたぺたと触る小さな掌の感触で僕は目を覚ました。うっすらと目を開けると、ハルトとユウマが僕の顔を覗いてる……。

 あれ~? おかしいな……。もしかして、僕が一番最後……?


「おにぃちゃん、おはよう!」

「にぃに、おはよ!」


「ん~、二人ともおはよ……。 朝から元気だねぇ……」


 ハルトとユウマは顔を洗って着替えも終え、もう支度はバッチリ。僕と言えば、まだベッドの中で寝癖の付いた髪がぴょんぴょん跳ねている状態。


「二人とも……、お兄ちゃんを引っ張って行って……」


 僕が両手を差し出すと、ハルトとユウマはしょうがないなぁ、という顔をしつつも僕を洗面所まで連れて行ってくれた。

 洗面所には、毎朝トーマスさんがハルトとユウマ用に汲んでくれる井戸の水が水瓶に入っている。

オリビアさんと僕はトーマスさんより早起きする日もあるので、各々自由にってカンジだ。

 今日は僕が最後だろうし、使わせてもらおう……。


「おにぃちゃん、たおる、どうぞ」

「にぃに、ねぐちぇ!」

「ん~、二人ともありがと……」


 ホントはとっくに目は覚めてるんだけど、二人がかいがいしく世話を焼いてくれるので、そのままにしてたのは内緒の話。


「よし! 目が覚めた~! 二人ともありがと!」


 そうお礼を言うと、ハルトとユウマは満面の笑み。


「今日は牧場行くの、楽しみだね!」

「「うん!」」



 着替えを終えると、なぜかまた二人に手を引かれて朝食へ。


「おじぃちゃん、おばぁちゃん、おはよう!」

「じぃじ、ばぁば、おはよ!」


 二人は元気いっぱいに挨拶し、トーマスさんもオリビアさんも二人に挨拶を返している。


「今日は朝から仲良しさんね?」

「ハルトとユウマが連れてきてくれたのか?」


 オリビアさんとトーマスさんにそう言われると、二人は僕の方を見上げて


「そうです! おにぃちゃん、おねぼうさん、です!」

「にぃに、おねぼぅしゃん!」


 またしょうがないなぁ、という風に肩をすくめて言った。

 その可愛らしいセリフに皆で笑ってしまう。


「さ、朝食にしましょ! 今日はお出掛けするんだから、ちゃんと食べないとね」

「お馬さんにも乗せてもらえるからな」

「ほんとう? ぼく、とっても、たのしみです!」

「ゆぅくんも! おぅましゃんたのちみ!」

「さ、食べましょうか」

「「はぁーい!」」






*****


「おばぁちゃん……。ほんとに、いっしょ、いかないの?」

「ばぁば~、いっちょたのちぃよ?」


 出掛ける直前、ハルトとユウマがオリビアさんも一緒に行こうと駄々をこねだした。僕もトーマスさんもその気持ちはすご~く分かるので、何とも言えない。


「ふふ。ハルトちゃん、ユウマちゃん、ありがとう。おばあちゃん、お膝が痛くなっちゃうから今日はお留守番してるわね。帰ってきたら牧場の事、教えてくれるかしら?」

「うん! いっぱい、おはなし、します!」

「ゆぅくんも! おはなちしゅるね!」

「おばあちゃん、楽しみに待ってるわね」

「「はぁ~い!」」


 ハルトとユウマがトーマスさんの方へ行ったのを確認し、僕はオリビアさんにそ~っと近付いた。


「オリビアさん、上手くいきそうですか……?」

「えぇ……。皆が寝てる間に、少しだけ進めておいたの……。ユイトくんの書いてくれたメモのおかげで分かりやすかったわ……!」

「じゃあ僕は、少しでも時間を延ばせる様に頑張りますね……!」

「ふふ、よろしくね……!」


 そして再び不自然にならない様に、そ~っと離れた。




「じゃあ行ってくるよ。今日はのんびりしてくれ」

「ふふ、ありがとう。子供たちの事、よろしくね」

「あぁ、任せてくれ」

「気を付けてね! 行ってらっしゃい!」

「「「行ってきまーす!」」」


 オリビアさんに見送られ、ハワードさんの牧場に向けて出発!

 ハルトは僕と手を繋ぎ、ユウマは途中途中でトーマスさんに抱っこされながらも、楽しそうに歩いている。


 挨拶をしながらいつもの店通りを通り過ぎようとすると、坂道に入る手前の道に、二頭立ての荷馬車が留まっていた。


「あぁ~! おうまさん、です!」

「おぅましゃん! おっきぃねぇ!」


 ハルトとユウマはまさかの馬の登場に大興奮。何度か見た事はあるはずだけど、やっぱり嬉しいみたい。でも、あんまり大きい声を出して、馬を驚かせ興奮させてはいけない。暴れたら危ないからね。


「ハルト、ユウマ。おっきい声出すと、お馬さんビックリしちゃうよ?」

「あっ! ぼく、ちっさく、おしゃべり、します……!」

「ゆぅくんも! しぃ~……、ね!」

「そうだな、二人ともえらいぞ」


 トーマスさんに褒められて、二人はにっこり笑顔になった。

 でもこんな所でなぜ荷馬車が? と不思議に思っていると、荷台の後ろから男の人がこちらに気付き、慌てた様子で僕たちの方に走ってきた。


「トーマスさん! お久し振りです、マイヤーです!」

「おぉ! 久し振りだな! 見ないうちにかなり逞しくなったんじゃないのか?」

「アハハ! 父さんにこき使われてますからね!」


 どうやらトーマスさんの知り合いの様で、麦わら帽子をかぶったとっても爽やかな……、歯がキラッと光りそうなカンジの人。

 でも、どういう知り合いかな? なんて考えていたら、そのお兄さんとバッチリ目が合った。


「おはようございます! 君たちに会うのは初めてだったね? ボクの名前はマイヤーです! よろしくね!」

「あ、おはようございます! 僕はユイトと言います。よろしくお願いします!」

「ぼくのおなまえは、ハルト、です! おねがい、します!」

「ゆぅくんでしゅ! おねがぃちまちゅ!」

「おとうとの、ユウマ、です!」

「アハハ! 父さんとばあちゃんの言った通りですね! すごく可愛いって! 今から君たちを牧場まで送って行くからね!」

「「やったぁ~~!」」


 まさか僕たちのお迎えだったなんて……! びっくりしていると、店に配送した帰りだから気にしなくていいよ、と笑われてしまった。


 ユウマは危ないからとトーマスさんの膝に抱えられ、ハルトと僕は足を伸ばしてのんびり荷馬車に揺られている。

 木の柵が立てられている場所は全てハワードさんの牧場らしく、やっぱり広すぎてどこまでがハワードさんの牧場か分からなかった。

 あ、あれは羊かな? ほんと、豆粒にしか見えないけどね。


「じぃじ~! あちょこ! うししゃんいるぅ~!」

「おっ! ホントだな。仔牛も一緒にいるな」

「あぁ、あの仔牛は難産で大変だったんですよ~!」

「ちっちゃいねぇ~! かわいぃねぇ~!」

「あ! あそこ、おうまさん、げんきいっぱい、です!」

「あの牡馬はやんちゃで、いっつも作業ズボンを引っ張ってくるんで気を付けてくださいね~!」


 ん? マイヤーさん、もしかして全部の牛や馬を覚えてるわけじゃないよね……?


「ほぅ~、そうなのか……。ハルトとユウマは気を付けないと、ひっくり返ってしまうな?」

「えぇ~! ゆぅくんだぃじょぶ~!」

「ぼくも! だいじょうぶ、です!」

「ホントか~?」

「「きゃあ~~!」」


 トーマスさんがユウマをくすぐっていたので、僕も油断していたハルトを後ろからくすぐった。

 二人はきゃあきゃあ騒いでるけど、こういう何でもない事が楽しいんだよな~。



 なだらかな坂道を登りきると、ハワードさんの牧場の入り口が見えてきた。

 森に行ったときにも通ったけど、荷馬車だとすぐ着いちゃうな~。のんびり揺られながら当たる風が気持ちよかったからまた乗りたい。


「はい! 到着でぇーす! 降りるときは足元に気を付けてください!」


 大きな声でキビキビと動く姿……。

 なんだかマイヤーさん、アトラクションのお兄さんみたい……。


 トーマスさんが先に降り、荷台で待つユウマを抱えて降ろしている。ハルトも降りようとすると、すかさずマイヤーさんがやって来た。


「足場が悪いから、ハルトくんはボクにつかまってね! はい! どうぞー!」

「きゃあ~~! いまの、たのしい、です!」

「気に入ってくれたかな? 嬉しいよ!」


 マイヤーさんはバンザイのポーズをするハルトを両手でしっかりと支え、高い高いをするみたいにゆっくりと上にあげてから地面に降ろしていた。

 マイヤーさんは背が高いから、ハルトはすごい高さまで上げられて興奮中。

 それを見たユウマもやりたいと言いだしたのに、いざやってみるとすごい高さに怖がってしまい、今はトーマスさんに抱っこされて大人しくしている。


「ん? ユイトくんもやってみるかい?」

「へっ!? いえ! 僕は大丈夫です!」

「そうかい? 面白そうだったのに! 残念だ!」


 すっごい笑顔で、全く残念そうじゃありませんけどね?


 門からしばらく歩くと、作業をしている人たちが何人か見えてきた。


「マイヤー。今日は色々と世話になるから、挨拶がしたいんだが……」

「そうですね! 何度も自己紹介するより一度にした方がラクですし! 呼んできますね!」


 そう言うと、マイヤーさんはスウッと大きく息を吸って、そのまま両手を口に添えた。


「みんなぁ────っ!! しゅうご─────うっ!!」


 ビリビリと響く声に、僕とハルトは慌てて耳を両手で塞ぎ、トーマスさんはユウマの耳を塞いでいた。

 ……いや、大声を出すと馬がびっくりするからっていう、僕の気遣いは……?

 振り向くと、さっきまで荷馬車を牽いていた二頭の馬は、興奮もせず大人しくしている。

 もしかして、これっていつもの事なのでは……?


 すると、厩舎から続々と人が集まってくる……。

 一、二、三……、……十一、五頭目、十二、六頭目……、何人いるのか分からないほど、作業着を着た人と馬と牛が集まってきた……。

 あ、仔馬もいる! 可愛い!



「さ! じいちゃんとばあちゃん以外は全員集まってますね! ここで挨拶しちゃいましょう!」



 ニカッと笑顔が眩しいマイヤーさん。


 もしかしてこの人……、天然、なのでは……?



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