79 恋をすると
「このふれんちとーすと!!! 私に教えてくれ!!!」
そう叫んだブレンダさんに僕たちは呆気に取られてしまい、店内はしばらく沈黙が続いていた。
「やはり……、ダメだろうか……」
あまりにも皆が黙っているので、ブレンダさんの肩がしゅんとしている……。
「あっ、いえいえ! 大丈夫ですよ! ブレンダさん、そんなにこのフレンチトーストを気に入ってくれたんですか?」
慌てて否定し理由を訊いてみると、ブレンダさんの顔がポッと赤く染まっていく。その様子に僕たち兄弟以外の大人は、あぁ……、とどこか納得した様子。
なに? 僕は分からないままなんだけど……。
「実は……、もうすぐ、こ、こぃ……、こ、恋人が! この村に! 来るんだ!」
ハァハァと胸を押さえ、まっ赤になるブレンダさんに、オリビアさんはいいわねぇ~、と昔を思い出していた様だった。
なるほど、それで! ブレンダさんの恋人かぁ~。きっと素敵な人なんだろうな。
「そ、それで……。久し振りに会うし……。なにか手料理を……、食べて、ほしくて……」
「ブレンダさんは、今までその方に、料理を振る舞った事はあるんですか?」
「……いや、ない……」
「あ、今回が初めてなんですね?」
「……今まで、一度も、料理をした事が……、ない……、んだ……」
その答えに、あぁ~、とまた納得した様子の大人たち……。
ブレンダさんは俯いたままだ。
「ブレンダさん、大丈夫ですよ? 誰だって初めての時はあるんですから!」
「ユイト……」
「フレンチトーストなら、焦がさない様に火加減さえ気を付ければ何とかなります! その方は甘いものがお好きなんですか?」
「え? あぁ、いつも会う度に、王都で流行りの菓子や髪飾りをくれるんだ……。その菓子を二人で一緒に食べるのが嬉しい……」
ブレンダさんはまた顔を赤く染めて俯いてしまう。
オリビアさんもそんなブレンダさんが可愛い様で、いいわねぇ~とテーブル席で微笑んでいる。ハルトとユウマはいつの間にか寝てしまったらしく、ハルトはトーマスさんに、ユウマはオリビアさんに抱っこされていた。
「確かアイツらが来るの七日後だったよな?」
「そうですね、そのように記憶しています」
「皆さんは、ブレンダさんのお相手の方を知ってるんですか?」
イドリスさんもコンラッドさんも、トーマスさんまでもが頷いた。
「そうだな。ある意味有名だしな?」
「ランクも上がって、人気も実力も申し分なしですからね」
「あの子の悪い評判は聞かないな」
ほぅ~、なかなかいい人みたいですね……!
「すごく優しくて、私にはもったいない人なんだ……! だから、その……」
「それで手料理ですね! 教えるのは僕に任せてください! お手伝いしますので!」
「うぅ……、ホントか? ありがとう……! 材料はこちらで用意するから心配無用だ!」
「ありがとうございます。明日は出掛けるので予定が埋まっちゃってますけど、明日以外ならいつでも大丈夫です!」
「そうか、私も色々準備しようと思っているから……。三日後と……、五日後なら空いているんだが……」
あ、教えるのは問題ないんだけど、教える場所が……。
「オリビアさん……、営業の後にお店で練習しても……」
「ふふ、もちろんいいわよ? こんなに可愛い相談断れないでしょ~? なんなら二日とも練習したらいいわよ? 私も付いてるわ」
「オリビアさん……! ユイト……! うぅ……、よろしくお願いします……!」
ブレンダさんは感極まって泣き出してしまった。
だけどすぐにゴシゴシと豪快に涙を拭って気合を入れ直した様で、いつものブレンダさんに戻っていたけど。
「よし! そうと決まったら一稼ぎしてこないとな! 今日はこの辺で失礼させてもらう。今日は美味かった。ありがとう!」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました! じゃあ次は三日後ですね? あ、必要な材料はこれだけなので……」
「ふむ……。わかった! ではまた三日後に!」
「はい、お気を付けて~!」
ブレンダさんは即断即決のタイプの様で、メモを渡したらすぐに行ってしまった。イドリスさんたちもそんな性格を分かっているんだろう。仕方ないな、と皆で笑っていた。
イドリスさんとコンラッドさんも帰った店内で、僕は掃除をしながらいつもキリっとした印象のブレンダさんも、恋をするとあんな可愛らしい表情をするんだなぁ~、とぼんやり考えていた。
僕もいつか、あんな風に好きな人が出来るのかな?
……なんか、想像もつかないや。
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