68 新メニュー決定と、可愛い弟?
「はーい! 皆さん、お待たせしました~!」
ハルトとユウマ用の特製ピザの後は、お待ちかねの大人向けのピザの登場。
オーブンを開けると、店内にまたチーズの香ばしい匂いが広がった。
モッツァレラとトマトをふんだんに使ったマルゲリータ。
ベーコンにアスパラガス、とうもろこしにオニオン、ピーマン、茹で卵にじゃが芋をのせて、上からお手製マヨネーズをかけたミックスマヨ。
ピザ生地だけ焼いて、その上にレタス、ルッコラ、トマトにモッツァレラ、食パンで作ったクルトンに、オリーブ油をかけたサラダ風ピザ。
そしてトーマスさんが食べると言った、炙り焼きチキンとパタータ、アスパラゴと揚げたにんにくのスライスに、お手製マヨネーズをトッピングしたボリュームのある炙り焼きチキンのピザ。
チーズもそうだけど、マヨネーズの焼ける匂いも食欲をそそるよね。
そしてピザに釘付けになっている四人の姿……。
「父さん……、うちのチーズがこんなに美味しそうになるんだね……!」
「そうなんだよ……! 母さんが言った通り、この店に頼んで良かったろう?」
「まぁ! このお野菜がたくさんのったの美味しそう!」
「ユイト、もう食べてもいいかい?」
「ふふ、どうぞ! 熱いので気を付けてくださいね!」
「「「「いただきます!」」」」
「「「「…………」」」」
……え? 感想は……?
と思ったら、皆さんもの凄く味わって食べている様で……。
「美味しすぎる……。これ、持って帰りたい……」
「ダニエルくん、冷めちゃうと風味が落ちちゃうよ?」
「ダニエル、皆の分も味わって帰ろう……!」
「うん……!」
「これならさっぱりして美味しいし、いくらでも食べられそうねぇ」
「オリビアさん、マヨネーズをかけるとまた味が変わると思いますよ」
「あらやだ、ちょっとかけてみるわね」
「ユイト、毎晩これが食べたい」
「もうアヒージョはいいんですか?」
「む……! 悩むな……!」
概ね好評のようで一安心。僕も一切れ取り、パクっと一口頬張ってみる。
ん~! とろ~っと溶けるチーズって、なんでこんなに美味しいんだろう?
マルゲリータはちょっとトマトが大きすぎたかも。女性や子供にはもう少し小さく切った方が食べやすいかな?
ミックスは具をのせ過ぎたなぁ。食べるときに具がポロっと落ちそうで食べにくいかも。
サラダ風はレティスをもう少し細かく千切って、オリーブよりシーザードレッシングの方が合うかなぁ。
チキンピザはボリュームがありすぎて、この一切れで結構お腹いっぱいになっちゃうな。ガーリクも少なめの方がいいかも。
「……どう思いますか? 皆さん、」
そう言いながら振り向くと、ハワードさんたちは皆ポカンとこちらを見ていた。
「あの、感想などは……」
「ユイトくん、ごめん! おれ全然考えてなかった……!」
「私も美味しいなと夢中で……。いやはや申し訳ない……」
ハワードさんとダニエルくんは肩を落としてしょんぼり。
「いえいえ! 気に入ってもらえたなら嬉しいです! オリビアさんとトーマスさんは何かありますか?」
「私も頭になくて……。ごめんなさい……! とっても美味しかったわ!」
「オレは毎晩これでもいい……」
全部美味しかったという事ですね! よかったです!
ハルトとユウマも、トーマスさんの特製ピザをはむはむと美味しそうに頬張っている。トーマスさんもそれを嬉しそうに眺めては、二人の口に付いたソースを拭ってあげている。
ん~……、モッツァレラを主体に考えたら、やっぱりマルゲリータが一番いいのかなぁ? 他の料理も食べてもらう前提だと、この大きさは食べきれないかも……。
生地の大きさをもう少し小さめにして、一人でも注文しやすいようにするか、シェアする前提で今のサイズにするか……。ハーフサイズで注文出来る様にすればいいかなぁ~?
「オリビアさん、モッツァレラを味わってもらうには、マルゲリータが一番オススメなんですけど、このピザって出ると思いますか?」
「えっ!? 出ない方がおかしいわよ~! たぶん一組が注文したら、匂いにつられて他のグループも注文すると思うわ」
「おれも! こんな匂いがしたら、気になって同じの注文するかも……!」
「ユイトくん、メニューをマルゲリータにするとしたら、この他のピザはもう食べられないという事かい?」
「いえ! 全てにモッツァレラを使うとしたら、すぐに足りなくなって全部のメニューが品切れになるかもしれません。ピザ以外にも使う予定ですし……。だから、モッツァレラを使ったピザと、使わないピザがあった方が、お客様に色々楽しんでもらえるかな、と思って」
「じゃあこのチキンのピザは残るか?」
「ん~、それは店主のオリビアさんが決める事なので……」
そう言って、僕がちらりとオリビアさんの方を向くと、オリビアさんはとっても真剣な表情をして悩んでいる様子。
「どれも美味しいから全部メニューに加えたいわ……。でもそうなると、忙しくなった時に困るのよねぇ……」
「オレはチキンがいい……!」
「マルゲリータ!」
「私はミックスピザが……!」
「う~~~ん……。ユイトくん……、どうしましょう……?」
オリビアさんは全部を加えたいけど、営業中の事も考えて悩んでるみたい。
「そうですねぇ……。いきなり全部加えなくても、他のメニューみたいに日替わりとか週替わりとかで色々バリエーションが増やせますよ?」
ソースも種類が変えられます、と言うと、オリビアさんたちは目を輝かせていた。
*****
「いらっしゃいませ! こちらのお席へどうぞ」
結局、ピザはマルゲリータが定番メニューになり、その他のピザは週替わりとなった。
トーマスさんもチキンピザが食べれると分かり、ホッとした様子。
モッツァレラを使った新メニューは来週からの予定になったので、来週からはダニエルくんが配達してくれる事になった。
営業を開始してすぐに冒険者の人たちが続々と入店し、現在カウンター席以外は埋まっている状況。
確かトーマスさんが東の森からそろそろ帰ってくると言ってたな……。読み通りだ。
「いやぁ、今回の討伐はラクだったなぁ」
「あんなにいたら怪我人が出てもおかしくないのにね」
そんな会話がチラホラと聞こえてくる。
「お待たせしました。オムレツのチーズ入りとミートパスタです」
「ありがとう! 帰ったらこれが食べたかったの~!」
「オレも~! 美味しいんだよな~」
「ありがとうございます。気に入ってもらえて嬉しいです!」
オムレツを注文してくれたのは、初日に来店してくれたミランダさん。
ミートパスタを頼んだのはフロイドさん。
前回一緒にいた、ビフカツを注文してくれた男性は今日は装備の手入れで別行動らしい。
「今日はハルトくんとユウマくんは、おうちの方?」
「はい。たぶん今日もトーマスさんと裏庭で遊んでると思います」
「なんか最初はビックリしたけど、あの子たち見ちゃったらトーマスさんが可愛がるの分かる気がするわ~」
「ほんと。オレもあんな可愛い弟がほしい……」
「わかる~」
そう言って、ミランダさんとフロイドさんは笑っている。
ハルトとユウマが褒められると、僕もかなり嬉しい……!
「ふふ、ありがとうございます! 自慢の弟なんであげませんけどね!」
僕が冗談ぽく言うと、ミランダさんもフロイドさんも、ジッと僕の顔を見つめだした。
「あ~……、ユイトくんが弟でもいいなぁ~……」
「わかる~……」
「えぇ~? 僕ですか?」
どうして急に? さっきとは違って、二人ともちょっと目が怖い気がする……。依頼で疲れてるのかな……?
「だめよ~? ユイトくんはうちの子なんだから~!」
そんな事を話していると、オリビアさんも話の輪に入ってきた。
「だってユイトくん、癒してくれそうなんですもん……!」
「わかる~! ハルトくんとユウマくんは可愛くてかまいたくなるんだけど、ユイトくんは疲れたときに癒してくれそう~!」
「あぁ~! それ正解だわぁ~! 私いつも癒されてるもの~!」
「「いいなぁ~~!」」
この二人とオリビアさんも話が合うのかも……?
僕はその場をオリビアさんに任せ、そ~っと輪を抜けた。
*****
営業終了後、売り上げを計算すると昨日よりも倍ほど多かった。
客数はそんなに増えたわけではないけど、お替りする人が多いからかな。
「今日は冒険者の方が多かったですね」
「そうね、明日もまた来るかもね。ソースも今日はギリギリだったから、ちょっと多めに作っておくわ」
「僕もパスタ生地、多めに仕込んでおきますね」
「あ、ユイトくん! かなり多めの方がいいかもしれないわ!」
「え? かなりですか?」
「だって二日後はイドリスたちが来るもの……! 当日だと足りなくなるわよ、絶対!」
あ~、そうだ! お店の食材足りなくなっちゃうな……。明日は買い出しも多めにしなきゃ!
「そうですね! イドリスさんなら全部食べそう……! かなり多めに仕込みます!」
「私もこれが終わったら、他の分も多めに作っておくわね」
「はい! 頑張りましょう!」
「負けられないものね!」
「おばぁちゃんと、おにぃちゃん、はりきってます……」
「イドリスたちが来るからな。大変なんだよ。またお店が空になるな……」
「おっきぃおぃちゃん、しゅごぃねぇ……」
「ぼくも、おっきく、なりたいです!」
「えぇ!? ハルト、いきなりどうした……?」
「ぼく、むきむき! なります!」
「お願いだからそれはやめてくれ……!」
「はるくん、むきむき? じゃぁゆぅくんも!」
「ユウマまで……!?」
「「えぃえぃ、おーっ!!」」
「……お願いだから……! やめてくれ……!!」
お店と住居を繋ぐ扉の前で、トーマスさんが落ち込んでいる様に見える。
でもハルトとユウマは張り切ってこぶしを上にあげてるな……。
どういう状況……?
「トーマスさん、あんな所でどうしたんでしょうか?」
「さぁ……? ハルトちゃんとユウマちゃんが楽しそうだから、問題ないんじゃないかしら?」
「……それもそうですね!」
仕込みで頭がいっぱいだった僕とオリビアさんはその後、ハルトとユウマのむきむき宣言に頭を抱える事になるのだった……。




