47 相談という名の大事なお知らせ
まだ夜も明けきらぬ頃、僕はふと目が覚めてしまう。
隣では、ハルトとユウマがすやすやと気持ちよさそうに就寝中。二人を起こさない様に、僕はゆっくりとベッドを降りる。
二度寝の気分でもないし、裏庭で少し風に当たる事にした。
「さむ」
庭に出ると、辺りはまだ薄暗く、肌に当たる風がまだ少しひんやりとしている。だけど、それがとても心地よく感じた。
昨日は色々ありすぎて、帰ったら夕食も食べずに僕はすぐに寝てしまった。
オリビアさんに朝食べますと断りを入れて、気付いたら今だ。
昨日の事は夢だったのではないかに感じてしまうけど、梟さんに貰った石が、全部現実だと教えてくれる。
「なんか、すごい体験しちゃったな……」
あんなに可愛い妖精さんがいるなんて。
ノアには悪いけど、もう一人弟が増えたみたいだ。また時間を作ってノアに会いに行こう。次はどんなお菓子を作ろうかな。
(……また、喜んでくれるといいな……)
*****
「あれ? 寝ちゃってた……?」
ふと気付くと、裏庭のベンチで居眠りしてしまったみたいだ。外なのに暖かいなと思ったら、いつの間にか僕の肩と膝にブランケットが掛けられている。
水の音がして横を見ると、トーマスさんが井戸水を汲み顔を洗う用意をしていた。
「おはようございます、トーマスさん」
「あ、起きたか。おはよう、ユイト。朝はまだ冷えるから、そんな所で寝ると風邪をひくぞ?」
そう言いながらトーマスさんは上着を脱ぎ、上半身を絞ったタオルで拭き始める。
トーマスさん、筋肉すごいんだよなぁ。やっぱり冒険者だから鍛えてるのかな? 僕も頑張ったら、あれくらい筋肉つくのかな……。
「いつの間にか寝ちゃってて……。気を付けます……。あ、ブランケットありがとうございます」
「顔を洗おうと思って外に出たらユイトが寝ていたからな、びっくりしたよ。もう中に戻るか?」
「ん~……。もうちょっとだけ、外の空気を吸ってから戻ります」
「そうか。ならブランケットはまだ掛けておきなさい」
「はい、ありがとうございます」
それから日が昇り始めるまで、僕とトーマスさんはベンチでお喋りしていた。
昨日は僕が寝てから大変だったみたい。
ハルトとユウマに、妖精たちの話を何度もさせられた事。
オリビアさんにもずるいと拗ねられた事。
それから、僕が貰った石の事。
僕があの梟さんに貰った石は、もしかしたら“エメラルド”じゃないかと、オリビアさんと話していたらしい。
この国では“幸せをもたらす”とされている石。
あの梟も何か意味があって渡したのかもしれないから、失くさない様に大事にしなさい、と頭を撫でられた。
*****
「にぃに~! のぁちゃんのおともらち、かわぃかった?」
「ようせいさん、いっぱい! すごいです!」
ハルトとユウマが起きてきて、トーマスさんの昨日の苦労がもの凄く分かった気がする。
顔を洗ってからも、朝食を作っている最中も、ごはんを食べている最中も、ずぅ~っとノアたちの話を聞きたがった。
オリビアさんに先にご飯を食べてからね、と注意されたらもっくもっくとほっぺに詰め込んでいたけど、あれは早く食べてお話聞かせて! ってねだられる感じの食べ方だ。
トーマスさんもオリビアさんも、それが分かっているのか苦笑いしている。
「それでね、森を出たら木の枝がシュルシュル~って元に戻って、普通の森になっちゃったんだよ」
「すごーい! もう、いりぐち、ないですか?」
「ちゅごぃねぇ! ゆぅくんもみたぃ!」
「そうだね、二人が今よりもうちょっと大きくなったら、一緒に会いに行こうね」
「「やったぁ~!」」
そして二人が喜んだところで、絶対に言い聞かせなくちゃいけない事がある。
「それと、このお話は絶対に他の人に喋っちゃだめだよ? ノアたちが悪い人に捕まっちゃうかもしれないからね? お兄ちゃんと約束してくれる?」
「はい……! ぼく……、おはなし……、しません……!」
「ゆぅくんも……! ないちょ……! しぃー……、よ!」
僕たちは三人でシィーっと人差し指を口に当て、内緒の約束をする。
そして会いに行くときは、三人でノアたちにお菓子を作ろうと約束を付け足した。
*****
ハルトとユウマの興奮も少し落ち着いたので、僕はお店の方に移動する。
オリビアさんがお店の事で相談があるらしい。ハルトとユウマの事は、トーマスさんが見ていてくれると言うのでお任せした。
二人はトーマスさんに抱っこされてご機嫌だ。
「オリビアさん、お待たせしました」
「大丈夫よ。ユイトくん、こっちに座ってちょうだい」
僕はお店のテーブル席に座り、オリビアさんの話を待った。
(何の話だろう、緊張するな……)
「一昨日、初めてお客様を呼んで実践したでしょう?」
「はい、凄かったですね」
イドリスさんたち冒険者の人が、あんなに食べるなんて思わなかった。
お店の食材が空っぽになってしまうなんて、ちょっとした事件だよ。
「ふふ、そうね。私もあんなの初めてよ! それでね? 最初からあんなのを経験したじゃない? もうユイトくんの接客もお料理も大丈夫だと思うのよ。だから……」
この流れは、もしかして…?
「お店の営業を、再開したいと思いまーす!」