40 僕の休息日
おはようございます、朝です。寝坊しました。
昨日は、イドリスさんたちがお店の食材が空っぽになるまで食べてくれたから、今朝の朝食は早めに起きて買いに行こうと思っていたのに……。やらかしてしまった……。
ふと横を見ると、いつも隣で寝ているはずのハルトとユウマが見当たらない。もう既に起きてトーマスさんの所かな……。そ~っと部屋を出ると、家のダイニングには姿が見えない。お店の方かな? そう思い、お店の方を覗いたけど誰もいない……。
え? なんで? 皆どこ行っちゃったの? そう不安に思っていると、裏庭の方でハルトとユウマのはしゃぐ声が聞こえてきた。
「あ、ユイトくん! おはよう!」
「おはよう、ユイト。こっちに来てごらん」
「おはようございます……。あの……、僕、寝坊しちゃって……。ごめんなさい……」
「いや、疲れてたんだろう。ぐっすりだったからそのままにしてたんだ」
「そうよ、気持ちよさそうに寝てたもの~! たまにはいいじゃない!」
寝顔を見られていたのか、ちょっと恥ずかしいな……。ふとトーマスさんの足元を見ると、水を張った桶に西瓜が浮かべてあった。
「これ、どうしたんですか?」
「朝市場で食材を見ていたら西瓜があったから、もうそんな季節かとつい買ってしまってね」
桶に浮かんだパステクに、ハルトは水をちゃぷちゃぷかけ、ユウマは指でつんつんと沈めては楽しそうにはしゃいでいた。
「じぃじ、これたべりゅ?」
「昼頃には冷えるから、皆で食べようか」
「「やったぁ~!」」
ほら、おいで、とトーマスさんが二人の濡れた手を拭いてあげてる。オリビアさんは家の中に入って、朝食の準備をしている様だ。カシャカシャと卵を混ぜる音が聞こえてくる。
トーマスさんとオリビアさんが言うには、今日は僕の休日らしい。
朝食の準備を手伝おうとしたら、今日はお休みよ~? と断られた。今日は働いちゃダメらしい。家でゆっくりしてもいいし、外に遊びに行ってもいいと言われたけど……。
料理? さっきダメって言われたし……。ハルトとユウマは、どうやら今日は僕にかまってくれないらしい……。いちょがちぃ!いちょがちぃ! と言って、汗を拭くふりをしてた。さっきパステクで遊んでたのに。
ん~、どうしようかな……。
「なら、今日はオレと一緒に散策にでも行くか?」
「散策? ですか?」
何もする事が思いつかないと言うと、トーマスさんがぶらぶら散歩に行こうと提案してくれた。
「ユイトはまだ、この辺りの店通りくらいしか知らないだろう? 村の外れに薬草が生えてる場所がある。王都みたいに遊ぶような場所はないが、なかなか綺麗だぞ?」
ん~、そう言われてみると、家の周辺か店通りくらいしか行った事ないな……。今日はトーマスさんとゆっくりしようかな。
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「あぁ、任せてくれ」
トーマスさんは嬉しそうに笑みを浮かべる。
朝食を食べたら、早速出発だ。
その場所は、今から行けばゆっくりしても昼には帰ってこれるくらいの距離にあるらしい。
いつもの店通りを通り過ぎ、なだらかな坂道を上った場所に、ハワードさんの牧場が広がっていた。
え? すっごく広すぎて、どこまでがハワードさんの牧場か分からない。豆粒くらいの大きさの何かが動いてると思ったら全部牛だった。馬もいる! 確か羊もいるって言ってた気がするな……。
「おや? トーマスさん! ユイトくんも! どうしたんだい?」
「ハワード、久し振りだな!」
「ハワードさん、おはようございます!」
牧場の近くに行くと、ハワードさんが従業員の人たちと一緒に牧草を運んでいるところだった。
「今日はユイトを、村の珍しい場所に案内しようと思ってな。いまからフェアリー・リングの森へ向かうところなんだ」
「あぁ、ユイトくんなら大丈夫そうだね! 気を付けて行っておいで!」
「……? はい、行ってきます」
フェアリー・リング? 何だろう?
僕の顔に出ていたのか、トーマスさんが面白いところだよ、と言ってそれ以上は教えてくれなかった。
しばらく歩くと、ここが森の入り口だと言わんばかりに木の枝でアーチが組まれている場所があった。
少し緊張しているのがバレたのか、トーマスさんは今日は行けそうだな、と僕の手を引いて森の中へ進んでいく。
森の中へ一歩踏み入れると、さっきまでの緊張なんか嘘みたいに一瞬で夢中になってしまった。
うわわ! 小っちゃいリスが木の上を走ってる!
あ! 木の洞のなかに梟が挟まっ……、寝てる!
森の中には僕たち以外にいないかもしれないけど、トーマスさんになぜか小声でスゴイスゴイと話しかけてしまう。
するとトーマスさんがシーっと人差し指を口に当てて静かに、と合図を送ってきた。僕はトーマスさんにピタッと引っ付いて黙って周りを見渡すと、少し先にある木の枝に一際大きい一羽の梟が留まっていた。
「いた。“森の案内人”だ」
トーマスさんが袋からまっ赤な実を取り出し、梟に見せるように手を上にあげた。
すると、その梟が音もなくトーマスさんの手に持っていた赤い実を攫み、木の枝に留まって美味しそうに食べている。
「梟って、お肉を食べるんだと思ってました……」
「あの梟は熟れたグミの実が好物なんだよ。甘くないと怒ってすぐ捨てるんだ」
梟は満足したのか、そのまま僕たちの前を飛び少し先の枝へ。僕たちが追い付くとまたその先の枝へと、どこかに案内するように飛んでいく。
そしてまたしばらく進むと、一か所だけ開けた場所に出た。
「ユイト、見てごらん。あれがフェアリー・リングだ」
トーマスさんの指差すその場所を見てみると、そこにはたくさんの茸が、まるで大きく円を描いたみたいに生えていた。