38 本日の営業、これにて終了です。
ハルトとユウマが作ったピザとバナナアイスを提供し、本日の営業は無事終了。カット済みの野菜を少し残して、お店の在庫は気持ち良い程に空っぽです!
「みんな、いっぱぃ、たべました!」
「しゅごぃね~!」
ハルトとユウマは、なぜか解体主任のギデオンさんと冒険者のバーナードさんの膝に座りながら、ほうっと感心したように皆さんを眺めている。
どれだけ仕込んだか知ってるからね。凄かったね、ホントに。
「いやぁ~、イドリスが夢中になるのも分かる気がするわ! 坊主んとこのメシは最高だな!」
「はぃ! おりょうり、さいこう、です!」
「また食いに来ねぇとな! そうすっとまた空っぽにしちまうかもな?」
「それは、こまります! でも、またきて、くださぃ!」
わしゃわしゃとギデオンさんに頭を撫でられ、きゃあきゃあと楽しそうに笑うハルトと、
「このピザはユウマくんが作ったのかい? どれも美味しかったよ」
「ほんちょ? ゆぅくんね、おぃちくなりゅよぅにがんばっちゃの!」
「だからこんなに美味しかったのか! また食べたくなったよ!」
「うれちぃ! ゆぅくん、またちゅくりゅね!」
ほのぼのとした雰囲気のバーナードさんと、その膝に乗り嬉しそうに笑うユウマ。
「ほんとにね、私にまで用意してくれてるなんて……! こんな気持ちになるなんて思わなかったわ……」
「あぁ。まさかこんな最高のプレゼントを貰えるなんてな……」
先程のピザとバナナアイスに感動し、まだ余韻から抜けきれないまま二人の世界に入っているトーマスさんとオリビアさん。
「この店の料理はどれも美味いな! 特にフルーツサンドは甘さと酸味が合わさって絶品だ!」
「ブレンダさん、至高はオムレツです! ふわふわの卵を切り分けた瞬間にチーズが溢れるあの瞬間……っ! 目でも楽しめて、頬張るとふわっと口に広がる濃厚な卵と絡み合うトマトソース! オムレツこそ至高です!!」
「それならあの子たちがお勧めしてくれたとうもろこしとアスパラガスのバター炒めもマッシュパタータも素晴らしいお味でしたよ? そしてなにより、ユウマさんが通るたびに美味しいでしょ? と声を掛けてくれますからね……!」
「私はどれも美味しかった~! バナナアイスもあの子たちが一生懸命作ったと思うと、余計に美味しく感じるよ~!」
「「「確かに……!」」」
窓際の席で、どれが美味しかったか仲良く談義する女性三人とクラークさん。
「いやぁ、こんなに食べるなんて思わなかったな!」
「皿洗いくらいはさせてもらいます」
「おれ、あんなにうまいの初めて食った~!」
「ほんとですか? ありがとうございます、嬉しいです!」
皆さんがおしゃべりに夢中なので、僕と年の近い新人冒険者のオーウェンさん、ワイアットさん、ケイレブさんが皿洗いを申し出てくれた。汚れを落として、皿を洗って、仕上げに拭き上げる、という三人の流れ作業だ。
最初は断ったけど、ワイアットさんがどうしても! と言うのでお願いした。気にしなくてもいいのに、真面目な人だなぁ。
お言葉に甘えて、その間に僕は違う作業でもしようかな。
そしてもう一人……、
「なぁ、ユイト、ホントにうちで働かないか?」
「え?」
カウンター席に座りながら、真剣な表情で僕を勧誘する冒険者ギルドのギルドマスター・イドリスさん。
「まだ諦めてないんですか、イドリスさん! またトーマスさんに怒られますよ?」
「お前らもあの料理の美味さを味わったなら…、分かるだろ? 毎日食いたいと思わないか?」
「おれは分かります!」
「こらケイレブ! ごめんな、ユイトくん」
「いえいえ! 食べたいと言ってもらえるのは、本当に嬉しいので!」
「だったら……!」
「でも僕たち、トーマスさんに見つけてもらえなかったら、今頃どうなっていたか分からないので……。だから僕、ちゃんとお二人に恩返しするって決めてるんです」
だからごめんなさい、と断るとイドリスさんは漸く諦めてくれた様で、ならこの店の常連になるしかないかと頭をポリポリかいていた。
常連さんになってくれるなら、サンドイッチはメニューに入れてもらえる様に相談しますと伝えると、満面の笑みで絶対だぞ! と念を押された。
そんなに気に入ってくれたのか、僕のサンドイッチ。
こうして大量にあった食器類の片付けも、オーウェンさんたち三人が手伝ってくれたおかげで早々に終わり、お開きの時間となった。
「ほら、ユウマ。皆さんにバイバイって」
「やぁ~! まだおはなち、ちたぃの~!」
帰ろうとするバーナードさんに、いやいやとユウマが駄々をこね始め、困ったなという割になぜかまんざらでもなさそうなバーナードさん。それを皆さんが羨まし気に見つめていた。
「皆さん帰って寝ないと、明日大変なんだよ? もしトーマスさんが寝れなくてお仕事で危ない目に遭ったら、ユウマ嫌でしょう?」
「……じぃじ、あぶなぃの?」
「そうだよ? 怪我したら悲しいでしょう?」
「……ゆぅくん、かなちぃ……」
「じゃあ、皆さんにちゃんとありがとうってお礼と、バイバイ言えるね?」
「うん……」
ユウマは眉を下げて、うるうると両目いっぱいに涙の膜を張りながら
ありぁと、またきちぇね
と、小さくバイバイと手を振った。
皆さん一瞬、グゥッと唸るような声を上げたけど、また来るよ、とユウマとハルトに手を振って帰っていった。
「ユイトくん、今日はお疲れ様! 頑張ったわね!」
「はい……。ちゃんと接客出来なくてごめんなさい……。料理も遅くて……」
「そんな事はないぞ? だが初めての接客であいつら相手にはキツかったな。こちらこそ、すまん」
「ふふ、私もあんなに働いたの久しぶりよ! 空っぽになるなんて笑っちゃうわ!」
オリビアさんはそう笑うと、僕をぎゅっと抱きしめて
あなたたちといれて、とっても幸せよ、と頬にキスをしてくれた。
それを見たトーマスさんがオレも幸せだぞ、と反対の頬にキスをして、それを見たハルトとユウマもぼくもすると騒いだので、最後は皆でお互いの頬にキスをしあい、トーマスさんはじぃじのおひげいたぃのや! とユウマに嫌がられ皆で笑ってた。
緊張と不安でいっぱいだった初めてのお仕事は、お店の在庫を空っぽにして無事に終了。
ハルトとユウマのおてつだい大作戦も成功したし、反省点はあるけど僕たちは大満足だ。
本日の営業、これにて終了です。