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388 半月の目

本編更新、お待たせいたしました……!

前半:バート

後半:ハルトです。


「ハァ……、ハァ……」


 目に付いた瓦礫の山に身を潜め、荒くなった息を必死に整える。

 疼くような痛みに耐えながらボロボロになったブーツを脱ぐと、その右足には大量の血とともに鋭い噛み痕がくっきりと残っていた。


(しくじったな……)


 力任せに裂いた己のシャツを手早く足に巻き付け止血すると、手に付着した血を拭う事もせずバートは背負った矢筒を引き寄せ矢の数を確認した。


( クソ……! もうこれだけか…… )


 残っている矢はたったの八本。いくら消耗品とはいえ、仲間と逸れ怪我を負った今現在の状況を考えると、これだけでは心許ない。

 バートは痛みに耐えながらも、必死に息を整えこれからの行動を算段していた。

 瓦礫に背を預け気分を落ち着かせるように空を見上げるが、そこにあるのは不気味な雲だけだ。


( ……リーダーたちは、無事だろうか…… )


 突如街中に現れた魔法陣に、異常ともいえる魔物の数。頭上には瞬く間に王都の街を飲み込んだ不気味な黒い雲。

 村を襲った魔法陣に違いないと思いながらも、目の前の悲惨な状況に頭を抱えた。


 ……すると、微かに音が聞こえた。

 轟々と燃え街が崩れていく瓦礫の音。パチパチと小さな火の粉が飛ぶ音。遠くで叫ぶ魔物の咆吼(ほうこう)

 ……そして、



「 たすけて 」



 今にも消え入りそうな声で、誰かが助けを求める声。

 もう一度耳を澄まし、神経を集中させる。



(──いた……! あっちだ……!)



 足の痛みに思わず顔が歪んでしまう。だが、それよりも早く声の主を助けねばと、バートは痛みを堪え立ち上がった。

 住民たちは避難し終え、周囲には誰もいないと思っていた。自分の耳と直感を頼りに、足を引きずりながらも黒煙と瓦礫だらけの街を進む。

 ここじゃない。ここも違う。

 周囲を警戒し身を潜めながらも、何度も耳を澄ませる。

 そして、大きな倒木の陰から血が流れていることに気付く。

 じっと様子を窺い目を凝らすと、その葉の陰に埋もれるようにして、一人の老人の顔が見えた。


「──! 大丈夫ですか!? いま助け……」


 慌てて近寄り枝を掻き分けようとするが、一瞬感じた違和感にバートが身を引いた瞬間。

 その頬を、何かが掠めていった。そして、ぬるりと木の葉の中に戻って行く。

 ドクドクと、嫌な音を立て心臓が早鐘を打つ。



「 た、 タ すけ  テ、 ぇ 」



 ニタニタと笑いながら老人の顔がこちらを捉えた。

 その姿を見た瞬間、ぞわりと総毛立つ。


 獅子の体に、蠍のような尾。そして何よりも特徴的なのは、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべ、まるで老人のような人面を持ったその魔物。


(──魔物? ……いや、魔獣が人の声を真似るなんて、聞いたことがない……)


 半人半獣の魔物はいる。だが、言葉を話すなんて……。

 見たこともないその姿に、バートはじりじりと後退る。そして炎に照らされたその口元に、べったりと付着した血が見えた。

 よく見ると、倒木の隙間から人の手と足らしきものが確認できる。

 ……だがそれは、本来あるはずの位置からは真逆になっていた。


(……喰ったのか? 人間を……?)


 そう思うと同時に弓を構え矢を放つ。足の痛みなど今は考えても無駄だ。

 コイツに捕まったら終わり。

 その事実だけが、バートの頭を支配していた。


 一本目。動揺のためか手元がブレ外してしまう。

 二本目。貫いたと思った瞬間、尾に簡単に弾かれた。

 三本目。瓦礫に足を取られ、軸がブレて外してしまう。

 四本目。魔獣の足下にさえ届かなかった。

 五本目。手が震え、落としてしまった。


 こちらの動きを楽しむかのように、ソレはゆっくりゆっくりと近付いてくる。

 慌てて矢を取ろうと手を後ろにやるが、視界がぐにゃりと歪んでいく。


(──あれは、もしかして、毒だった……?)


 ケタケタと笑い声とも鳴き声ともつかない声を上げながら、その魔獣の目が半月を描いた。

 まるでこうなる事が、初めからわかって、いたよ、ぅに……、


(あ、しま……、っ……)


 バートが意識を失う瞬間。

 一瞬だけ、ちいさなあの子の背中が見えた。






 ◇◆◇◆◇






 黒い狼の背から、魔獣に向かって矢が放たれた。

 その光が纏った矢を受け、魔獣が悍ましい咆哮を上げながらのた打ち回る。

 暴れているその隙に意識のないバートを触手が包み、狼の背に落ちないよう固定した。


「ばーとさんっ! ばーとさんっ!!」

《 はると!! ゆすっちゃだめ!! 》

「でも、ばーとさんが……!!」


 走る狼の背で、バートを抱きしめるハルトの目には、先ほどまでには無かった涙が浮かんでいた。

 バートの右足には血が滲み、負傷していることが目に見えてわかる。


《 マンティコアか……!! 分が悪い。このまま走るぞ! 》

《 あれ! そんなにつよいの!? さっきのより!? 》

《 ……オレより速い!! 》

《 そんなのにげて──っ!!! 》


 リュカが叫ぶと同時に、後方で地を這うような悍ましい咆哮が響いた。 

 その衝撃なのか、激しい追い風が狼たちを追い抜いていく。


《 マズい!! しっかり掴まっていろッ!! 》


 焦る狼の姿を初めて見て、リュカは自分が想像していた以上に厄介な魔獣なのだと悟った。

 何とか遠ざけようと魔法を放つが、それよりも相手の避ける速度が上回っている。


《 クソ……ッ!! アレを連れて教会には行けない!! 》

《 そんな……! 》


 だが、そんな焦る狼とリュカを尻目に、ハルトだけは己の内から沸々と煮え返るような衝動に駆られていた。

 優しくて、旅の間もずっと弓と剣を教わった。冒険の話もしてくれて、心が躍った。そんな自分を見て、いつか一緒に依頼を受けようかと笑ってくれた。

 トーマスやユイトたちとはまた少しだけ違う、大好きな、頼りになる憧れの人。

 そんなバートが、青白い顔で目を覚まさない。

 初めての感情に、心が追い付かない。


《 あっ! あそこ!! あのきにむかってっ!! 》

《 あそこ!? どの木だっ!?》

《 あそこっ!! もうすぐ()()()っ!! 》

《 開く!? 》


 リュカの叫び声と共に、狼の右斜め前方に大きな菩提樹(リンデン)の木が見えてきた。

 開くの意味が解らなかったが、言われたとおりにするしかない。

 グンと方向転換すると、バートの体も大きく揺れた。

 そしてその反動で、足が外側に流される。それを狙ったのか、マンティコアがまたニタリと気味の悪い笑みを浮かべ大きく口を開いた。



「……たべちゃだめです」



 ハルトがぽつりと呟いた瞬間、静かに小さな矢が放たれた。

 その矢を目に受け、この世のものとは思えない叫び声が響く。

 バランスを崩し、魔獣の体が瓦礫の山へとガラガラと激しい音を立てて転がっていくのが見えた。



《 あそこ!! そのままつっこんでぇ──っ!! 》



 リュカの叫びと共に、黒い狼の体は木の中へ飲み込まれていった。



⋆⋅ ˗ˏˋ 2025年5月1日㈭ ˎˊ˗ ⋅⋆

『明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~』

念願の②巻が発売されました!°˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°

当日に合わせての更新が間に合わず、申し訳ございません……(猛省)

大幅加筆改稿に加え、①巻よりも100頁ほどボリューミーになっておりますので、ご興味のある方はぜひ手に取っていただけると嬉しいです!

よろしくお願いいたします~!!


本編の更新、本気で王都編を完結したいので

応援してください……(´;ω;`)ウッ…

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