書籍①巻発売直前記念SS②『きみと、ぼくが、であうまで。』
妖精ノアの、誕生からユイトたちと出会うまでの軌跡です。
(※眠すぎてちゃんと書けていないので、お休みの日に徐々に加筆修正する予定です……)
──ピシャ
静かに夜が明け、朝露が一滴、木の葉から滴り落ちる。
その雫が、じわりと地面を滲ませていく。
それを幾度か繰り返し、小さな小さな芽がひょこりと土の中から顔を出した。
ピコリと耳を立て、一匹の野兎がその芽を観察するかのように立ち止まる。
澄んだ空気のなか、一匹、もう一匹と動物たちが集まり始めた。
しばらくすると、ゆっくりゆっくりと芽が成長し始め、小さな蕾が淡い色を纏いながら開いていく。
花びらが開き切ると、その中には生まれたばかりの小さな小さな妖精が眠っていた。
《──ふわぁ……》
小さなあくびを一つ。澄んだ空気を体いっぱいに吸い込むと、ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になっていく。
ふわふわとした感覚のなか、だが、確かにここに存在している。
《……あ》
ぱちりと瞬きをすると、何かがふわりと飛んできた。
花びらの上に降り立つと、屈託のない笑みを浮かべ近付いてくる。
まるで暖かいお日さまの色を纏ったような髪が、目の前をゆらゆらと朝の光を浴びながら揺れていた。
《おはよう! これから、よろしくね!》
きらきら眩しいその光を見つめながら、見よう見まねでにっこりと笑った。
──その日、少しだけ幼い妖精が森の奥深くで誕生した。
*****
《ねぇ、あれはなぁに?》
《あぁ、あれは人間だ。森の長老たちが面白がってたまに誘い込んでいる》
《……ふぅん》
生まれて初めて見る人間は、自分たちと同じような姿形をしている。
だが、何が珍しいのか、森を走り回るリスや兎たちを見ては小さく歓声を上げていた。
木の洞で眠る小さな梟を見ては、口を押さえて震えている。
《なにがそんなに、たのしいんだろう?》
動物たちよりもずっとずっと大きいのに、森を荒らさないように静かに歩いている。
そして何より、森の長老たちが人間たちが後ろを向いている間にその大きな目をパチパチと開けたり、大きな口をわざと見せつけるかのように開いては笑っていた。
《……にんげん、かぁ》
その日、ほんの少しだけ、森の外に興味が生まれた。
*****
《……あ!》
あの人間、前に見たことがある……!
そして、以前と同じように赤くて丸い実を掲げ、梟に渡していた。
だけど今日は少し違う。
「梟って、お肉を食べるんだと思ってました……」
その優しい声に、興味が湧いた。他の人間とはどこか違うみたい。
《……すこしだけ、ちかづいてみようかな……?》
そっとその肩に乗ると、なぜか安らぐ気がした。
思わず姿を消すのを忘れてしまうくらいには、この人間が気に入った。
*****
「ねぇ、妖精さんの呼び方、"ノア"っていう名前は、どうかなぁ?」
その言葉を聞いた途端、世界がクリアになっていくのを感じた。
「これから、よろしくね! ノア!」
不思議だけれど、これからずっとユイトと一緒にいれるのだと思った。
思わず嬉しくて飛び回りそうになってしまったが、きっと笑って許してくれるに違いない。
──ずっと、待っていた気がする。
《ぼくのほうこそ、よろしくね! ゆいと!》
決して聞こえないだろうけど、ぼくは一際大きな声で返事をした。
☆妖精誕生、こぼれ話。
"フェアリー・リングの森"は、常時暖かくて明るいですが、妖精が誕生する前日だけ夜が訪れます。それが合図となり、森の住人たちは仲間の誕生を待ち望みながら静かな夜を過ごすのです。
来週12月2日㈪、葉山の初めての書籍『明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~』①巻が発売されます。
(もうすでに、本が並んでいる書店さんもありますが)
書き下ろしや特典SSも含め、楽しんで頂ける内容になったのではないかと思います。
SNS(X)に感想など頂けると、作者が泣いて喜びますのでよろしくお願いいたします~!




