380 琥珀色
今回は久々登場の子どもたち!楽しい!
※子どもたちの紹介文は省きます。ご了承ください。
・ブレンダ:Bランクのソロ冒険者。実力はAランクだとギルマスのお墨付き。
・マイルズ:アレクたち冒険者パーティの仲間でヒーラー。力が人一倍強い。
・ウェンディ:ライアン殿下と共にいる妖精。属性:光
・ニコラ:レティと仲のいい妖精。属性:水
・テオ:ユウマと仲のいい妖精。メフィストと契約。属性:土+?
「あれくさんは、うえにいる」
「……う、うえ……?」
「うん。おそらのうえ」
レティのその言葉に、見えもしない空を見上げていたブレンダたち。すると、教会の外から何かが爆発するような激しい音が響いた。
修道女や子どもたち、避難していた住民たちも、ビクリと肩を震わせ、皆一様に息を潜め真っ暗な窓の外を注視する。そこから仄かに見える真っ赤な炎の揺らめく影が、天高く火の粉を散らしていた。
「えてぃちゃん……!」
ユウマはその音に驚き、レティにひしりとしがみ付く。
「……うん。ゆぅくん、だいじょうぶだよ」
その震える肩を安心させるように優しく抱きしめ、レティは何かを確認するように瞳を閉じた。
( けっかいのそとに、さん、よん……。つよそうなのが、よってきてる…… )
今までの魔物とは比にならない程の魔力を感じ、レティはユウマに気づかれないよう、そっと指で四の数を示し、ライアン、ブレンダにマイルズ、そして妖精たちに目配せをした。
妖精たちは気付いていた様子だが、三人は真剣な表情で窓を見やる。
「ゆぅくん、あのね? よくきいて」
「……グスッ、なぁにぃ……?」
鼻を啜り涙声で返事をするユウマに、レティの胸がズキリと痛む。だが、このままアレを放置しておけば、何も知らずにこの教会に避難しようとしている住民たちも危険だ。
実際、いくつかの魔力がこちらに向かっているのが分かった。
「……このそとに、つよいまものがいるの。……このままにしておいたら、みんな、けがしちゃうかもしれない」
レティのその言葉に、ユウマは唇をぎゅっと結び、泣くのを堪えているように見える。
「……だから、わたしたちが、たたかって……」
「やだぁっ!!」
レティの言葉を遮るように、ユウマはぎゅっと強くしがみ付く。その大きな瞳からは、ぽろぽろと大粒の涙が零れてくる。
「やだもんっ! えてぃちゃん、いっちゃ、やぁっ!!」
「ゆぅくん……」
「にぃにも……っ! はるくんも、めふぃくんも、みんないなぃもんっ! ゆぅくん、ひとりやだもんっ!!」
やだやだと大声で泣きながら、必死に離れまいとレティにしがみ付く。年端もいかない幼子の労し気なその姿に、教会の隅に集まっていたシスターたちも唇を噛み締めている。
「……ウェンディ、外の魔物は私たちだけでも倒せそうかい?」
ユウマの様子を見守りながら、ライアンは己の傍にいるウェンディに小さな声で問いかける。
《 ……ごめん。かなり、きびしいかも…… 》
「そうか……」
静かに首を横に振るウェンディ。その言葉を聞き、ライアンはすっくと立ち上がった。そして傍らに座る二人に向かい合う。
「ブレンダさん、マイルズさん。私と共に戦ってくれますか?」
その言葉を聞き、ブレンダとマイルズは静かに立ち上がった。
「冒険者になった時から、覚悟は出来ております」
「無論、私も同じだ。ライアン殿下、我々も共に」
二人の言葉に強く頷き、ライアンはレティに振り返り、優しく微笑みかける。
「らいあんくん……」
レティの心配そうな声に小さく頷き、その腕の中で泣きじゃくるユウマに優しく声を掛けた。
「ユウマくん、安心してください。……私たちが、必ずここにいる皆を守りますからね」
背中に触れる手の温もりを感じ、ユウマがゆっくりと瞼を開け振り返る。
だがそこには誰も居らず、涙の膜の向こうで教会の扉を開け外に向かうライアンたちの後ろ姿が滲んで見えた。
「……ぁ、らぃあんく……」
慌ててライアンたちの後を追おうと立ち上がろうとするが、レティに捉まれ身動きが取れない。
「えてぃちゃ……! らぃあんくん、いっちゃった……!」
しかし、レティは何も言わずユウマを抱え込む。そしてその様子をずっと見守っていたブレンダたちと共に転移してきたという男性たちに視線を向けた。
「……おじさんたち、だんじょんでなにをしてたの……?」
「わ、我々は……」
突然の質問に、男性たちは皆言いあぐねるように口を噤む。だが一人、意を決した表情でレティの前に跪いた。その人物を前にしても、レティは怯みもせず只々静かにその男性を見つめている。封鎖されている筈のダンジョン。そして、そこにいた男性たち。
一体、何を企んでいるのか……。それを聞き出さねばならない。
「一つ、君に訊きたいことがある……」
「ききたいこと?」
首を傾げ、その男性の言葉を待つ。
その後ろでは、男性の仲間たちが何故か焦っているように見えた。
「君が先程、地図を見ながら言っていた、"ゆらん"……、という名前、なんだが……」
「……ゆらんくん?」
「──!!」
レティは思いがけない質問に、きょとんとした表情を浮かべる。だがその言葉を聞き、膝をつく男性も、後ろにいた男性たちもざわつき始めた。
「もしかして、君! ユランを知っているのかい!?」
「え」
男性がレティの肩を掴もうとした瞬間、まるで二人の接触を拒むかのように床から鋭い剣先が飛び出した。それを見ていた周囲も悲鳴を上げ、顔を逸らす。
思わず硬直する男性の鼻先スレスレで、止まった剣先が鈍く光る。
《 触るな 》
ユウマを抱き締めるレティの背後で、テオが男性たちを威嚇する。
気付けば床から飛び出した槍が、男性たちをぐるりと取り囲むかのようにその矛先を向けていた。
妖精の声は聞こえない筈だが、皆両手を挙げ敵意は無いと必死に示している。
《 てお…… 》
「ておくん……。あぶないでしょ……」
《 …… 》
テオはニコラとレティの呆れた視線にぷいっと顔を背けるが、男性たちはそれどころではない。動けば斬られてしまうかもしれないという恐怖から、進んで動こうとする者はいない。
「ておくん……?」
そんな緊張感の中、あどけない声が皆の耳に届いた。
目線だけを動かすと、レティの腕の中でもぞりと動くユウマの姿。ユウマは周りに広がるその光景を見て、また瞳を潤ませる。
「あぶにゃぃよ……?」
《 ………… 》
ユウマの言葉に、グッと顔を顰めるテオ。
「ゆぅくん、みんながおけがしゅるの、やだなぁ……」
《 …………分かった 》
ハァ~と大きな溜息を吐き、その矛先を向けていた槍がハラハラと渇いた砂のように崩れていく。それを見た途端、男性たちは脱力したように座り込んだ。
「おじさん、ておくんがごめんなさい……」
「ごめんなしゃぃ……」
「い、いや……。警戒するのも無理はないよ。こちらこそ、すまなかった……」
頭を下げる幼子二人に、慌てて男性も頭を下げる。そして、背後で睨む妖精の様子を窺いながらも、口を開いた。
「我々は、ユランを探しに来た」
男性の言葉を聞き、ユウマはパッと顔を上げレティを見る。
「……しょうこは?」
「証拠……」
レティの言葉に戸惑いながらも、覚悟を決めたように男性は頭に巻いていた布をはらりと剥ぎ取った。そして、レティにその頭部を見せる。
「……これは、我々一族の」
「わかった。しんじます」
「え」
全てを聞く前に、レティはその言葉を遮るように黒い触手を発動させ、男性の頭に布を巻き付ける。
「ゆらんくんは、ぶじです。いまは、わからないけど……」
「ほ、本当かい……?」
「はい」
「噓じゃ、ない……?」
「はい。……あと、あのこも、げんきいっぱい」
その言葉を聞き、目の前の男性は顔をくしゃりと歪め泣き出した。頭を垂れ、只ひたすらにレティに感謝の言葉を伝える。
それを黙って見ていたテオは、漸く警戒を解きニコラに肘で突かれていた。
「おじさん、だいじょうぶですか?」
「……ハァ。あぁ、大丈夫だよ。ありがとう」
真っ赤になった鼻を啜りながら、男性は改めてレティたちに向き合う。
「名乗るのが遅れて申し訳ない。私はヤネスという」
レティを真っ直ぐに見つめる瞳が、涙に濡れて琥珀色に輝く。
「ユランの、父親だ」
そう言って笑った顔が、ユランにそっくりだった。
いつも作品への感想やメッセージ、いいねにブックマーク、評価もありがとうございます。
最近の王都編では子どもたちのほのぼの要素が皆無なので、それが好きな方は離れちゃうかな~と思っていたのでとても安心しました。
王都編はどうしても書きたいところがあるので、もうしばらくお付き合い頂けると嬉しいです。




