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333 宝物


「ひと、ふえてきました……」

「ゆぅくん、わたしとはるくんのて、はなしちゃだめだよ?」

「うん!」


 道行く人が増え、通りはかなりの賑わいだ。

 擦れ違いざまに肩をぶつける事も少なくない。

 それに、休憩は挟んでいるがオリビアも子供達も歩き通しで疲れているだろう。


「オリビア、少し早いが昼食にしないか?」

「そうね、混んできたし丁度いいかも。皆、そろそろお昼にしましょうか」

「「「はぁ~い!」」」

「あ~ぃ!」


 元気よく答える子供達の声に、オレもオリビアも自然と笑みが浮かぶ。




「「「さんぷそん、ただいま~!」」」

「クルルル~!」


 道を引き返し歩いて行くと、サンプソンの姿が見えてくる。こんなに目立つとちょっとした待ち合わせの目印になっていそうだな。


《 おかえり。楽しかったか? 》

「クルルル!」


 馬車へと向かうとドラゴンは一目散にサンプソンの元へと駆けて行き、機嫌よく鳴き声を上げて何かを一生懸命話している。身振りも加わり、どうやらあの捕り物劇を再現している様だと気付く。

 既に戻って幌の上で涼しい顔をしているセバスチャンにも、上を向き楽しそうに話しかけていた。


「どらごんさん、おはなししてます!」

「なかよちね!」

「なんていってるんだろうね?」


 サンプソンやセバスチャンの言葉は聞こえても、ドラゴンの言葉は我々には聞こえない。だが一緒に過ごしていると、鳴き声や表情で大方見当はつく様になってきた。この子が表情豊かなのもあるだろうがな。

 サンプソンとセバスチャンはまだ幼いと言っていたし、もし話せるとしたら聞こえてくる声はユウマかメフィストくらいの幼い声かも知れないのか……。

 それはそれで可愛らしいかもな……。


「トーマスさん、どうしたんですか?」


 そんな事をぼんやり考えていると、なかなか動かないオレを心配してユランが声を掛けてきた。オリビアと子供達はとっくに馬車に乗り込んでいる。


「ん? あぁ、ドラゴン(この子)が話せたらどんな声かと思ってな」

「ドラゴンが……? トーマスさんもそんな事考えるんですね……?」

「想像すると面白いだろう? 意外と渋い声だったら、とか……」

「う……。それはイヤかも……」

「ハハハ!」


 どうやらユランも同意見の様だ。ユランが従魔契約をしてあの子と意思疎通が出来る様になったら、どんな声か教えてもらおう。

 そう思うと楽しみになってきたな。


「トーマス~! ユランく~ん! そろそろ行きましょ!」

「じぃじ、ゆらんくん、はやくぅ~!」

「あぁ、すまない! すぐ準備するよ!」

「すみません!」


 馬車の中から顔を覗かせ、出発を今か今かと待っている子供達。

 行き先は……。


「確かバーナードの兄弟が店をやってるの、この辺りじゃなかったか?」


 ふとバーナードが言っていた事を思い出す。

 暫く会っていないが、元気だろうか?


「あ、そうそう! でも馬車は通れなかった筈よ?」

「そうか……。残念だが、今日は違う店だな……」


 以前に聞いた事があったんだが、馬車が通れないのであればサンプソンをまた待たせる事になるし……。

 どうせなら皆で一緒に食事をしたいからな。


「お昼にやってるかも分からないものね。それなら広場でのんびり食べましょ」

「そうだな」

「クルルル!」


 ドラゴンもそれがいいと言っている様だ。広場に向かう途中でパンか肉を買い、そこで食べる事になった。サンプソン用の野菜と果物なら、先程両手いっぱいに貰ったしな。

 セバスチャンは肉がいいらしいし、ドラゴンは何でも美味しそうに食べるからなぁ。オレ達と一緒でいいか。


「よし! それじゃあ、出発するぞ!」

「「「はぁ~い!」」」

「あ~ぃ!」


 子供達の声を聞きながら、ゆっくりゆっくりとサンプソンの牽く馬車が動き出した。






*****


 途中でパンとソーセージを買い込み、馬車を走らせる。

 水と牛乳は馬車の中で魔法鞄(マジックバッグ)に入っていたのを確認した。

 後は停める場所を確保するだけだ。


「あ! おなべ、うってます!」

「クルル~?」


 ハルトの声に、子供達の背もたれになり寛いでいたドラゴンも顔を上げる。ユウマもレティも御者席の後ろから顔を出し、外を見るが……。


「はるくん、どこ~?」

「わかんない……」


 どうやら二人とも見つけられない様で、キョロキョロと辺りを見渡している。


「あ、あれかな?」


 少し進むと、ユランが指差す先にハルトが言っていたであろう調理器具を売っている店が。


「トーマスさん、この店があるの気付きました……?」

「いや……、全く……」


 以前も思ったが、ハルトは誰よりも先に見つけるな……。

 目がいいとは思っていたが、こんな先にある店舗、しかも並べられているのが鍋だと見分けられるのか……。オレとユランも感心しきりだ。


「あら、ホントね~! ユイトくんが気に入る物があるかもしれないわ。後で寄ってみましょ!」

「うん! ぼく、いきたいです!」

「じゃあ決まりね!」

「やったぁ~!」


 その店には食後に行く事が決まり、ハルトは嬉しそうだ。ユイトが言っていた調理器具も見つかるかもしれない。それでまた、美味しい料理を作ってくれるかも……。

 これは気合を入れて見つけないとな。


 そしてもう暫く進むと、馬車を停められる広場が見えてきた。


「結構混んでるな……」

「そうですね。空いてるところは……」


 昼時という事もあり、広場は予想以上に人で溢れていた。馬車を停めるスペースを探していると、丁度広場を出ていく一台の馬車が。サンプソンもそこに向かって歩みを進めている。


「タイミングが良かったな」

「結構いい場所ですね!」


 すぐ横には木陰とベンチもあり、そこでのんびり寛げそうだ。右隣の馬車とも間隔は開いているし、子供達の声が響いても比較的大丈夫だろう。

 左隣は何やら荷物を広げ始めているが、人の良さそうな人達みたいだ。こちらも大丈夫そうだな。


「さ、皆。ここで昼食にしよう」

「「「はぁ~い!」」」


 いつも返事をするメフィストの声が聞こえないなと馬車の中を覗くと、一足先にミルクを飲んでいる最中だった。

 んくんく、と美味しそうに飲んでいる姿を見るだけで癒される。オリビアも優しい眼差しでメフィストを見つめ、その口元は微笑んでいた。


「さんぷそん、どうぞ!」

《 ありがとう。美味しそうな食事だ 》

「せばすちゃん、そーせーじ、たべれますか?」

《 あぁ、大丈夫。とても美味しそうだ 》

「どらごんしゃん、くだものいっぱぃね!」

「クルルル~!」


 子供達は馬車から降りると、サンプソンに野菜と果物を、セバスチャンにはソーセージを細かく切り分けた物、ドラゴンには果物とソーセージを準備している。


「ゆぅくん、そーせーじ、はさむ?」

「ん! はるくん、ありぁと!」

「ゆぅくん、おとさないようにね? はんかち、ひいてあげる」

「ん! えてぃちゃん、ありぁと!」


 そしてサンプソン達の食事の準備が終わると、甲斐甲斐しくユウマの世話をし始めた。ハルトもレティも、いつの間にか食事に一工夫するのが当たり前になっているな。

 これは間違いなくユイトの影響だろう。


「おじぃちゃん、ゆらんくん、そーせーじ、はさみますか?」

「あぁ、おじいちゃんのもお願いするよ」

「ボクもお願いしていいかな?」

「はい! まかせて、ください!」


 オリビアに代わり、食事の準備をしてくれるハルトに、


「おじぃちゃん、ゆらんくん、おみずにする? ぎゅうにゅうにする?」

「おじいちゃんは水がいいな」

「ボクは牛乳でお願いしていい?」

「わかった! まかせて!」


 レティは飲み物の準備。手慣れた様子でコップに注ぎ、順番に手渡してくれる。まるで店の様だ。


「二人ともしっかりしてますね」

「そうだろう? オレよりしっかりしてるかもしれん」

「否定は出来ません……」

「おいおい」


 オリビアも揃い、皆で昼食の時間。パンにソーセージを挟み、レティが貰った果物がデザートだ。

 早速皆で食べ始めると、メフィストが自分も欲しいとオリビアのパンに手を伸ばす。


「メフィストちゃんは何でも興味があるのね~?」

「あ~ぃ!」

「もうすこししたら、いっしょにたべれるよ?」

「う!」


 レティの言葉に力強く返事をするメフィスト。

 真剣な表情に、思わず皆で笑ってしまった。


 王都でこんなに穏やかな時間を過ごせるなんて、昔の自分からは想像もつかなかった。

 オリビアとの子供は授からなかったが、今こうして子育てを満喫させてもらえているだけで幸せだと実感する。

 人生は何が起きるか分からないものだな……。


 母さんと兄さんに、早くオレとオリビアの宝物を紹介したいよ。



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