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29 ベビー服と演技力


「ん~……。それでオリビアさんを、その間だけ、ねぇ……」

「はい……。誰かいませんか?」


 意を決してエリザさんに相談したところ、何やら思案を巡らせてくれているようで……。


「それなら、初孫用のベビー服を自分で作りたいって人がいるわよ?」

「ベビー服ですか?」

「そうそう、この裏通りのメイソンさんのお宅なんだけどね?」


 話を詳しく聞いてみると、裏通りで鍛冶屋をしているメイソンさんという男性は、早くに奥さんを亡くし娘さんを男手一つで育てたらしい。

 数年前に結婚した娘さんが、この度おめでたいことに妊娠し、秋には第一子が誕生するという。

 この辺りの村では、祖母が孫に“ビブ”という日本でいうよだれかけや肌着などを手作りで贈る風習があるそうで、メイソンさんはそれを初孫に贈りたいと思っているらしい…。


 そのメイソンさんていう人、すっごく優しい人じゃない? そんなことを聞いたら、誰だって手を貸したくなるよね、きっと……!


「いやぁ、それがね? メイソンさんちょっと顔が怖いというか何というか……。女の人と子供は怖がって話そうとしないのよ~!」


 メイソンさんもそれを自覚しているのか、あまり人と話すのが得意じゃない様子。話すのは専ら冒険者や、エリザさんの夫のネッドさんらしい。たまに飲んでいるらしく、昨夜も一緒に飲んでいてそこでポロっと言っていたと。それを聞き逃さないエリザさんもスゴイな……。

 悪い人じゃないのよ? と言っているが、そんなに皆が怖がるってどんな人なんだろう? エリザさんは裁縫があんまり得意じゃないから教えられない、とネッドさんが伝えたそうだ。


 それってすごくチャンスなのでは……? でも、メイソンさんの都合も聞いてみないとなぁ……。それに僕、話したこともないし……。なんて悩んでいると、そこで思ってもみない助け船が。


「私も協力しようかしら?」

「えっ!? ほんとですか?」

「だって、こんなに面白そうな事、ほっとけないじゃない?」



 そこからはあっという間だった。

 ネッドさんに店番を任せ、裏通りのメイソンさんのお店に突撃し、挨拶もそこそこにベビー服を教えてもらえるなら、とこちらがお願いされてしまったのだ……。


 メイソンさんは顔に大きめの傷があり、それで少し近寄りがたい雰囲気だったんだけど、話してみるとすっごく優しい人だった。

 傷のせいで上手く笑えないから、それもあるだろうとメイソンさんは悲しそうに呟いた。本当は皆ともっと話したいんじゃないのかな……?


「メイソンさん、この作戦が終わったら弟たちと遊びに来てもいいですか?」

「え? 弟って……。まだ小さいだろう? 泣くから止めた方がいい」

「ん~……。でもメイソンさん、秋におじいちゃんになるんですよね? お孫さんの予行練習に持って来いだと思うんですけど……?」


 ちょっと赤ちゃんというには大きいですが、と言うと、メイソンさんはじゃあお願いしようかな、と笑ってくれた。






*****


「戻りました~!」

「ユイトくん、おかえり~……、ってエリザ? どうしたの?」


 そして現在、買い物袋いっぱいの野菜とお肉を抱えた僕は、一度目の買い出しを終え、エリザさんと共に家に戻ってきたのだ。

 出迎えてくれたオリビアさんは、一緒にエリザさんがいることに驚いている。


「オリビアさんにちょっとお願いがあって……! 聞いてもらえないかしら……?」

「なぁに? 珍しいわね?」

「実はね……?」



 ……この日僕は、エリザさんは演技が上手いんだな、と初めて知ったのだった。





 そして明日の昼食後、メイソンさんのベビー服の話に感動したオリビアさんは、エリザさんと共にメイソンさんのお宅へ裁縫を教えに行くことになった……!

 エリザさん、ありがとう……!!


「おにぃちゃん、うまく、いきました!」

「いや、ハルト……! まだ油断は禁物だよ? ユウマも、まだ内緒だからね?」

「うん……! ゆぅくん、なぃちょ……!」

「だれにも、ひみつ……、です!」



 勝負は明日の昼食後!

 オリビアさんに美味しいものを作らなければ……!


 僕たち兄弟はテーブルの陰でこそこそと、明日の作戦成功を願ったのだった。



ブックマーク、評価共にありがとうございます!

たくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです。

ラブな話はもう少し先ですが、お付き合いいただければ幸いです。

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