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284 内緒のプレゼント


 行き交う人々に屋台からの呼び込む声、朝から賑やかな市場を覗き見ながら、鼻を擽るいい匂いに思わず足が止まる。


「オリビアさん! コレ美味しそう!」

「あら、ホントね! お兄さん、コレ頂くわ」

「ありがとうございます! おいくつ包みましょう?」

「とりあえず三十本!」

「さ、さんじゅ……!? ありがとうございます!」


 オリビアさん達と一緒に屋台を見て回り、皆が好きそうなものを買い込んでいく。

 いま僕たちがいるのは焼き立てのソーセージの屋台。恰幅の良いお兄さんがニコニコしながらソーセージを包んでくれている。


「ん~、ブレンダちゃん達には足りないかも知れないけど……。そろそろ戻りましょうか?」

「そうですね。ハルトたちも待ってますし」

「オレも腹が減ってきたな……」

「ここのソーセージ、美味いんですよ!」

「ホォ~、そうなのか。オリビア、ユイト、早く戻ろう!」


 僕たちの後ろで荷物持ちをしてくれているトーマスさんとアレクさん。

 二人の両手には、屋台で買ったパンにスープ、サンプソンたちの朝ご飯になる野菜が大量に抱えられている。

 トーマスさんはお腹が空いた様で、珍しく早く戻ろうと急かしてくる。屋台のお兄さんにお礼を伝え、両手にたくさんの料理を抱えながら広場に戻る事に。




「……ん? 騒がしいな……」

「あら……? あそこ……」


 広場に戻ると、奥の方で何やらたくさんの人が集まり楽しそうに騒いでいた。広場の入り口にまで聞こえてくる歓声に、僕たちは顔を見合わせる。

 ……なぜならその人だかりの奥に、サンプソンたちの顔が見えているから……。



「いやぁ~、凄かった!」

「あんなに色々出来るのねぇ~!」

「可愛かった~!」


 そちらに近付いていくと、人が一人、また一人とその場を離れ、集まっていた人だかりはいつの間にか消えていた。


「あ! おかえりなさい!」

「おかぇりなちゃ~ぃ!」


 僕たちに気付いたハルトとユウマが笑顔で駆け寄ってくる。


「ただいま~! 二人とも、そのパンどうしたの?」


 僕の膝に抱き着いてくる二人のその手には、焼き立てであろうロールパンが握られていた。


「これぇ? おきゃくしゃんにもらったの!」

「お客さん?」

「ゆらんくんと、どらごんさんと、おひろめ……? しました!」

「お披露目……?」


 馬車の方を見ると、中で休んでいたはずのユランくんとドラゴンが……。

 その目の前には、まるで路上パフォーマンスの後の様に籠いっぱいに野菜や果物が押し込まれている。


「おかえりなさい!」

「クルルル!」


 ユランくんとドラゴンは僕たちを見ると笑顔を浮かべ、貰いました! と嬉しそうに籠の中身を見せてくれた。






*****


 広場でシートを広げ、皆で漸く朝食の時間。僕たちの他にも、周りのベンチで朝食をとっている人がチラホラと……。

 先にサンプソン達に野菜を食べさせ、その間にオリビアさんはメフィストにミルクをあげている。勢いよく飲むその姿に、アレクさんも感心した様に傍で眺めていた。


「まさか通行人に芸を見せてるとは思わなかったよ……」

「えへへ、すみません……」


 トーマスさんが市場で買ってきたパンとスープを順番に配っていくと、ユランくんもぺこりと頭を下げて受け取った。

 バートさんも手伝ってくれ、サラダとソーセージを配っている。

 話を聞くと、馬車から降りてきたドラゴンを見た子供たちが興奮して騒いでしまったらしい。親御さんや周囲の人達も騒ぎ始めた為、危険はないと知らせようと、ハルトたちと一緒にあの芸を見せたみたい。


「みんな、よろこんでました!」

「にこにこちてたの! ねっ!」

「うん! たのしかった!」


 シートに座り、ハルトたちもお客さんに貰ったというロールパンを嬉しそうに頬張っている。

 どうやら芸を見て感動したお客さんがお金をくれようとしたみたいなんだけど、そういうのには街の許可が要るらしい。慌てたドリューさんとメルヴィルさんが、代わりにドラゴンにあげる野菜か果物なら……、と伝え、あの状態に。


「まさか自分の朝飯を稼ぐとはな」

「たいしたもんだ」

「クルルル!」


 ドラゴンは貰ったトマトや生のさつまいも(スイートパタータ)を嬉しそうにボリボリと音を立てて食べている。


「あ、そうだ! ハルト、そのパンちょっと貸して?」

「ぱんですか?」

「うん。そのままでも美味しいけど、コレを挟んだらもっと美味しいと思うよ?」


 ハルトが二口程齧ったロールパンを受け取り、調理用のナイフで軽く切れ目を入れる。

 そこに買ってきたサラダのコールスローとレタス(レティス)、トマトのスライス、あの美味しそうなソーセージを挟んで、上からトマトソースを少し垂らせばミニホットドッグの完成!


「わぁ! おいしそうです!」

「ソーセージ、まだ熱いから気を付けてね」

「は~い!」


 ふぅふぅと息を吹きかけながら、ミニホットドッグをパクリと頬張る。

 途端にハルトの顔に笑みが浮かんだ。


「とっても、おいしいです! そーせーじ、ぷりぷりしてます!」

「あぁ~ん! にぃに、ゆぅくんも~!」

「わたしも、はるくんとおなじのたべたい……!」

「うん。二人ともちょっと待っててね~」


 ユウマとレティちゃんのロールパンにも、ハルトと同じ様に切れ目を入れて野菜とソーセージをトッピング。

 ユウマには少し大きいから、ソーセージを半分にカット。


「ユウマ、茹で卵も入れる?」

「いれりゅ~!」


 屋台で買った茹で卵。本当にそのまんま売られていたんだけど、結構買って行く人が多かった。黄身が濃くて美味しそう。それをナイフでカットし、ユウマのホットドッグにそっとトッピング。


「レティちゃんは?」

「わたしはそのまま! たまごいりは、あとでたべる……!」

「ふふ、分かった。ハルトもお替りの分に入れてあげるね。二人とも熱いから気を付けて」

「「はぁ~い!」」


 二人とも大事そうにそっと受け取ると、可愛い口でパクっと噛り付く。


「「ん~! おいし~!」」


 満面の笑みでもくもく頬張る二人の口元に付いているトマトソースを拭いながら、僕も自分の分を作り始める。

 僕のはクロワッサンに、カットした茹で卵と、あの美味しそうなソーセージ。


「いただきま~す!」


 一口頬張った瞬間、ソーセージのぷりっぷりの食感と肉汁が口の中に広がっていく。クロワッサンのホットドッグは初めて食べたけど、これはこれで美味しいな……。

 すると、一口食べ終えたところで何やら隣から熱い視線が……。


「…………アレクさんも、食べます……?」

「食べる!」


 僕の左側に座っているアレクさん。その嬉しそうな顔に、まるで尻尾がブンブンと揺れている様な錯覚を起こしてしまう。

 アレクさんの分も作ろうと食べかけのホットドッグをお皿に置こうとすると……。


「……んっ! コレ美味っ!」


「~~~……っ!?」


 アレクさんは僕の左手を掴み、僕の持っていたホットドッグをパクっと豪快に頬張った。


「オレも作ろ~! ユイト、これ使うな?」

「……え? あ、はい。どうぞ……」

「何入れよっかなぁ~」


 アレクさんは気にするでもなく、僕の前に置いてあるナイフを使い、自分用のホットドッグを楽しそうに作っている。ハルトたちも一緒になって、あれもこれもと楽しそうだ。


「完成~!」

「「「おぉ~!」」」


 ハルトたちのパチパチという拍手の音でハッと我に返る。

 すると、僕の目の前には作りたてのホットドッグが。


「さっき一口貰ったからな。ユイトも食ってみて」

「え? いいんですか?」

「どうぞ」

「……じゃあ、いただきます……」


 ニコニコと僕の目の前にしゃがみ、自分のホットドッグを食べさせてくれるアレクさん。ちょっと周りの視線が気になるけど……。



「~~~……んっ! ……美味しい!」



「だろ~?」


 アレクさんが作ったホットドッグは、オニオンにレティスにソーセージと、比較的シンプルな物。

 だけど、この味! 僕の知ってるホットドッグに欠かせない物!


「これ! どうしたんですか!?」


 僕の齧ったホットドッグの断面には、トマトソースとソーセージの下に隠す様に、黄色いソースが塗られている。


「ピリッとしていいだろ? 教えてもらって作った!」

「へ!?」

「アレクが!?」

「ホントなの!?」


 僕の声と重なる様に、ブレンダさんとオリビアさんの驚いた声が響いてくる。

 急に立ち上がったオリビアさんに、メフィストは哺乳瓶を持ったままビックリして固まってしまった。


「そうなんですよ! ユイトが好きそうかな~って、頼んで教えてもらいました!」


 ニコニコと嬉しそうに話してくれるアレクさんに、トーマスさんもドリューさん達も驚きを隠せない様で……。

 その様子を、ユランくんとドラゴンは不思議そうに首を傾げて眺めている。


「あれくさん、てづくりですか?」

「しゅごぃねぇ!」

「おにぃちゃん、びっくりしてる!」


 ハルトとユウマ、レティちゃんも、アレクさんすご~い! とはしゃいでいる。


「ばあちゃ……、いや、依頼人のとこの人が作ってたんですけどね。このソース、リーダーも気に入ってるんですよ!」

「まぁ~……。そんな事ってあるのね……」

「あのアレクが……」

「ホォ~……」


 オリビアさんとブレンダさんは立ち上がったまま、まるで放心状態。

 トーマスさんは感心だな……、と呟いている。

 その後ろでは、ミックさんがパンに野菜とソーセージを挟んで美味い! とモリモリ食べていた。


「これ“マスタード”って言うんだって。ユイトは知ってたかもしれないけどな? よかったら使って」


 そう言って、アレクさんは小さな小瓶に入った粒入りのマスタードを僕に手渡す。


「え……、貰っていいんですか……?」

「もちろん! また珍しいのあったら、作り方訊いとくな!」


 そう笑って、自分の作ったホットドッグを頬張り、満足そうに笑みを浮かべていた。


 アレクさんが作ってくれたマスタード。

 もったいなくて、使えないかもしれない……。




「あれくさん、ぼくも、たべたいです……!」

「ちょっと辛いぞ? ほら」

「……ん~~~っ! から~い……」

「ハルトはもうちょっと大人になってからだな~?」

「むぅ~! ぼくも、たべれるように、がんばります……! もういっかい!」

「ムリすんなって~」

「……ん~~~っ! からい!」


 僕が感動している間、ハルトは大人になる為に頑張っていたみたいだ。

 おとなって、たいへんです、と涙目になるハルトを見て、皆でつい笑ってしまった。



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