277 琥珀色
「今日は晴れてよかったですね!」
「ホントね~! 暖かいわ~」
「メフィストも気持ちいいねぇ~?」
「あぃ~!」
揺れる馬車の中、昨日の曇り空とは違い、外は気持ちいいくらいの快晴。
閉め切っていると暑いくらいだから、今日は幌を少しだけ上げている。幌の隙間から入ってくる風も、ほんのり暖かい。メフィストも機嫌が良さそうだ。
「このまま順調に行けば夕方には着きそうね」
「ハァ~! 楽しみです!」
王都かぁ~……。どんな所なんだろう? やっぱり人もたくさんいるよね~。他国の人達も行商に来てる筈だから、色んなもの見れるかも……!
「着いたら診療所に行こうと思ってたけど、明日になりそうねぇ~。家に着いたら先に荷物整理しなきゃ……」
「サンプソンたちは専用の厩舎があるんですよね? ドラゴンはどうします?」
僕とオリビアさんの視線の先には、ハルトとユウマ、レティちゃんと一緒に丸まって本を覗き込んでいるドラゴンの姿が。
自分もお勉強してますよという顔がとっても可愛い。
「そうね。この子とも離れたくないだろうし……。厩舎……、いや、家が広ければ入れたいけど……」
「家も借り物だし、傷付けちゃダメですもんねぇ……」
「そうなのよねぇ~……。セバスチャンは入れるけど、あの子結構動き回るものねぇ……」
「そうなんですよねぇ~……」
楽しいと尻尾をかなり振り回すから、テーブルとか傷付けそうなんだよなぁ。
「お庭があればいいんだけどね。とりあえず私たちが泊まる家を見ない事にはどうしようもないわねぇ」
「そうですねぇ」
「あぷぅ~」
僕とオリビアさんが難しい顔をしていたからか、メフィストも同じ様に唇を尖がらせている。その唇をちょんと触ると、にぱっと笑顔を見せてくれた。
最近、僕たちの真似をよくするようになってきたからか、表情がコロコロ変わって面白い。
「お家についたら、メフィストのおやつも作ろうね」
「あぃっ!」
おやつ用のたまごボーロに、野菜を練り込んだおせんべい……。
上手く作れるかな……? だけどメフィストも楽しみにしてくれている(?)みたいだし、頑張ってみよ。
*****
「さ、皆。おトイレ行きましょうね」
「「「はぁ~い」」」
馬車を停め、幾度目かのトイレ休憩。……と言っても、森の中だから草むらでするんだけど……。ハルトたちにはオリビアさんの他に、ブレンダさんとバートさんも一緒について行ってくれているから安心だ。
「クルルル……」
「ん? どうしたの?」
ドラゴンが男の子の顔を覗き込み、鳴き声を上げる。
どうやら落ち着かない様で、男の子の周りを行ったり来たり、ウロウロと忙しなく動いていた。
「キュ~……、キュ~……」
そして一瞬だけ、鳴き声が変わる。
……もしかして……、
メフィストを落とさない様に抱えながら、慌てて男の子の傍に近付き顔を覗き込む。
《 おきそう……? 》
《 だいじょうぶかなぁ~……? 》
ノアたちも周りを飛んでいる様で、姿は見えないけど声だけはハッキリと聞こえた。
瞼がぴくぴくと動き、口も薄っすらと動いている様な……。
( ご飯の時と違う気がする…… )
お粥を食べる時は目も虚ろで、まだ意識はぼんやりしているけど、今は自分から動かそうとしている様に見える……。
「……ねぇ、僕の声、聞こえる? 目……、開けれるかな?」
すると、僕の問いかけに薄っすらと口元が動いた気がした。
「ドラゴンも、キミが元気になるの待ってるよ」
「キュ~……」
ドラゴンが男の子の耳元で微かに鳴く。
胸が締め付けられる様な、寂しそうな鳴き声。
……すると、ゆっくりゆっくり瞼が持ち上がり、綺麗な琥珀色と目が合った。
光の加減で、きらきらと金色に輝くその瞳。
「……体調はどう? もうすぐ王都に着くからね。着いたらお医者さんに診てもらおう」
「……はぃ、ありがと……、ござぃ、ます……」
ほろほろと静かに頬を伝うその涙を、僕はそっと拭ってあげる。
「お友達、目が覚めてよかったね」
「クルルル……!」
その傍らには、嬉しそうに鳴き声を上げるドラゴンが寄り添っていた。




