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266 橋の向こう側


「にぃに、みてぇ~! きれぇねぇ~!」


 揺れる馬車の中、ユウマが大事そうに両手で掲げ、うっとりしながら僕に見せてくれたもの。

 それは、朝の散歩から戻って来たセバスチャンがくれた、まん丸ツヤツヤの大きなどんぐり(グラン)だ。


「ホントだねぇ、つやつやしてキレイだね!」

「ね!」


 オリビアさんが落とさない様にとジャムが入っていた瓶を洗ってくれ、そこにグランを入れて大切そうに眺めている。他にもキレイな木の葉や、白と紫の可愛い花が詰められ、ちょっとした宝物入れみたいだ。


 セバスチャンがトーマスさんと一緒に集めたらしく、ユウマはそのお土産に目をキラキラとさせている。

 そんなに気に入ったのかとトーマスさんたちは笑っていたけど、二人がくれたのが嬉しいとユウマに言われ、トーマスさんと一緒にセバスチャンも呻っていた。

 

「ゆぅくん、よかったね!」

《 おはなもかわいい~! 》

《 はっぱもきれ~い! 》

「たくさんあって、かわいいね」

「ん!」


 皆にもお気に入りのグランを褒められ、ユウマはとっても嬉しそうだ。

 まぁ、僕の胡坐をかいた隙間に座っているから、僕はまたレシピを整理出来ずにいるんだけど……。可愛いからいいよね!






*****


 しばらく馬車に揺られていると、ハルトとユウマとお喋りしていたレティちゃんが不意に黙り込んだ。

 僕たちが心配して声を掛けようとすると、顔を上げて難しい表情を浮かべながら首を傾げている。


「レティちゃん、どうしたの?」

《 おなかいたい~? 》

「ん~ん……。このさきに、なにかあるの……」

「この先?」

《 なに~? 》

「へんなまりょく……、それと、きえそうな……」


 そこまで呟くと、レティちゃんは目を瞑り、神経を集中させている。

 前にお店の前で騒いだ人を森に転移させたときの様に、何かを探している様な……。僕が幌の隙間からチラリと外を覗くと、少し先の方に橋が見えた。


「ノアたちは何か感じる?」

《 ん~ん、わかんない…… 》

《 もっとそとがわにいるのかも~ 》

「そっか……」


 するとレティちゃんはハッと顔を上げ、御者席のトーマスさんに叫んだ。


「おじぃちゃん! このさきにまものがいる!」

「魔物……!?」


 レティちゃんの言葉に、馬車が徐々にスピードを緩める気配がする。

 オリビアさんもその言葉にメフィストと隣にいたハルトを強く抱きしめた。


「にぃに、まもの……?」


 不安そうに僕を見上げるユウマを腕に抱え込み、大丈夫、と抱き締める。


「皆も少しの間、隠れててね……」

《 はぁ~い 》

《 わかった~! 》


 ノアたちが姿を消したのを確認し、僕は前方に掛かる幌を上げる。

 先導していたブレンダさんも引き返し、ドリューさんたちも集まって来た。


「トーマスさん! 魔物って!?」

「レティちゃん、本当か!?」

「うん……! このはしをわたった、ずっとさき……!」

「この橋の向こうに……?」


 馬車の先には、切り立った崖に掛けられた大きな橋が。

 その先には深い森が続いている。


「だからセバスチャンも、先に様子を見に行ったのか……」

「セバスチャンが……?」


 走っている途中、セバスチャンが何かに勘付き、様子を見てくると言って先に飛んで行ったらしい。

 戻ってくるまではゆっくり走れとサンプソンにも伝えていたそうだ。


「うん、すっごくおおきいんだけど、へんなまりょく……。それと、きえそうな……、でもそれがわからないの……。それをかこんでるみたいに、ほかにもたくさん……」


 レティちゃんの言葉に、トーマスさん達に動揺が走ったのが分かった。


「消えそうな……? もしかしたら、誰か魔物に襲われてるのかもしれない……!」

「どうする……!?」

「いや、待て! 襲われてるのが人かどうか、分からないぞ……」


 ピンと空気が張り詰め、辺りには緊張感が漂っている。レティちゃんもその消えそうなのが人かどうかは分からないみたいだ。


「トーマスさん、私が先に行って確認してきます!」


 先導していたブレンダさんは、騎乗したまま今すぐにでも走り出しそうだ。


「いや、一人だと危険だ……。オレも行こう。ドリュー、馬を貸してくれ」

「トーマスさん、オレたちが見に……」

「いや、お前たちは子供たちを頼む。その方がオレも安心だ」


 僕たちが乗る馬車を四方に囲んで守ってくれているドリューさん達。人数が多いうえに、お前たちだと安心感も違うとトーマスさんは笑った。


「でも……、二人で大丈夫なのか……!?」

「何かあったらセバスチャンに知らせてもらう。その時は馬車を引き返せ」


 その言葉に、ドリューさん達に一瞬だけ動揺が走る。僕もオリビアさんも、ただ黙ってそれを聞いていた。


「引き返せって……。トーマスさん達はどうするんだよ!」

「万が一の為だ。馬車がムリなら子供たちを馬に乗せて逃げてくれ」


 トーマスさんの言葉に、僕とオリビアさんも、ハルトたちを抱き締めたまま何も言えずにいる。


「……分かった」

「メルヴィル!」

「子供たちは任せてくれ。何があっても守る」

「ありがとう、頼んだぞ。ブレンダ! 行こう!」

「はいっ!」


 トーマスさんは馬に乗り、ブレンダさんと一緒に橋を渡っていった。

 妖精のノアたちが感知出来ない程、遠くに潜んでいる魔物……。


「おじぃちゃん……」

「じぃじ、いっちゃったぁ……」


 僕たちはただ、トーマスさんとブレンダさんの走り去る後ろ姿を見守る事しか出来なかった……。


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