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238 はじめてのおつかい ~見守り隊、結成~

今回はパン屋のジョナスさん視点で進みます。


 店からハルトくんとユウマくんを見守り始めて早数分……。

 こんなにも可愛らしい兄弟を、ここの村人たちが放っておく事など出来る筈もなく……。


「おいおい……! こんなに大勢だとさすがにバレるだろ……!」

「私は離れないわよ……!」

「あの子たちに何かあったら、大変だろ……!」

「子供を守るのが大人の役目だ……!」

「それもそうだな……!」


 気付けば肉屋のエリザに青果店のジョージ、出勤途中だったアイザックと、オレの後ろには幼い兄弟を見守る奴らでいっぱいだった。

 アイザックに至っては出勤前だろ? 遅刻したらどうするんだ……。


「シッ……! 静かに……!」


 急にエリザがオレたちに向かって静かにしろと後ろ手に制す。

 どうしたんだと前を向いて確認すると、ハルトくんとユウマくんが道の途中で立ち止まっている。

 一体どうしたんだ……?


「ゆぅくん、だいじょうぶ?」

「ん! だぃじょぶ!」


 どうやらユウマくんの持つ紙袋が少し大きかった様子。うんしょ、と抱え直している。再び歩き出した二人を見て、娘のミリーもあんな頃があったなと懐かしい気持ちになる。どうやらエリザたちも同じ様で、幼い兄弟に自分たちの子供を重ねている様だ。


「あっ」

「ゆぅくん!」


 ハルトくんの大きな声に、どうしたんだと皆一斉に振り向いた。

 すると、ユウマくんが紙袋の上に重なる様に転んでしまっている……。


「ふ、ふぇ……」


 ユウマくんの泣く寸前の声がこちらにまで聞こえてくる。


「ゆぅくん、おけが、してない?」

「ちてなぃ……、けど、ぱん……。つぶぇちゃったぁ……」


 どうやら、転んだ拍子に中に入っていたパンが潰れてしまった様だ……。サービスにとパンを多めに詰めてしまったからな……。オレのせいだ……!

 するとハルトくんは、潰れた紙袋の中を覗き込み……、


「ん! だいじょうぶ、です! つぶれたの、ちょっとだけ! じょなすさんのぱん、おいしいまま、です!」

「ほんちょ……?」

「うん!」


 ヒックヒックとしゃくりあげるユウマくんの頭を、よしよしと宥める様に撫でている。幼いのにちゃんとお兄ちゃんをしている姿に、思わず胸に込み上げてくるものが……。

 しかも店のパンを美味しいと……! なんて良い子なんだ……!


「ゆぅくん、ぼく、これもつね」

「いぃのぉ……?」

「うん! こっちで、おてて、つなご!」

「ん……!」


 食パンと白パン、そしてデニッシュパンの入った紙袋を右手に抱え、左手でユウマくんと手を繋ぐハルトくんの姿に、エリザは涙腺が崩壊してしまった様だ。

 ハンカチでは拭うのが追い付かなくなった様で、顔が凄い事になっている。


「はるくん、おもくなぁぃ?」

「うん! だいじょうぶ! ゆぅくん、おうちまで、もうちょっと!」

「ん!」


 にっこりと微笑む二人の姿が眩しくて、“あの子たちが自分の子だったら”と、トーマスとオリビアさんを羨ましく感じてしまうのは仕方ないだろう。

 見守る他の奴らも同じ事を考えていた様で、アイザックに至っては、立派になって……、と熱くなる目頭を押さえていた。






*****


「お、そろそろ着くぞ……!」

「あともう少しよ……!」

「頑張れ……!」

「うっ、うっ……」


 幼い兄弟二人を見守り始めて早数十分……。

 こんなにも可愛らしい兄弟を、ここの村人たちが放っておく事など出来る筈もなく……。

 気付けば肉屋のエリザに青果店のジョージ、出勤途中だったアイザックの他に、途中で見守り隊に入った村人に冒険者たちと、オレの後ろには幼い兄弟を見守る奴らでいっぱいだった。

 アイザックに至ってはもう遅刻確定だろ? クビになったらどうするんだ……。


「シッ……! 静かに……!」


 急にエリザがオレたちに向かって静かにしろと後ろ手に制す。

 どうしたんだと前を向いて確認すると、ハルトくんとユウマくんが道の途中で立ち止まっている。

 ゴールは目前なのに、一体どうしたんだ……?


 視線を二人の少し先に移すと、店の前ではユイトくんとオリビアさんが笑顔で二人の帰りを待っていた。

 

「ハルト! ユウマ! おかえり~っ!」

「おかえりなさい!」

「おにぃちゃん! おばぁちゃん! ただいま~っ!」

「にぃに~っ! ばぁば~っ!」


 ハルトくんとユウマくんはとびっきりの笑顔を浮かべて駆け出し、ユイトくんとオリビアさんに抱き着いた。

 おつかいありがとう、二人ともよく頑張ったね、と慈愛に満ちた目で抱き締めるユイトくん。

 まるで聖母の様だ……。


「ん? これは?」

「これ、じょなすさんの、しんさくです! とっても、おいしいです!」

「かんしょー、きかしぇてって!」

「あ、ジョナスさんの新作? やったぁ! 楽しみ! おやつに食べようね!」

「あら……! こんなにたくさん? 今度お礼しなきゃね……、って……」


 オリビアさんの視線がチラリとこちらに向き、あまりの人数の多さにギョッとしている。

 

「ばぁば、どぅちたの~?」

「え? うふふ、何でもないわ……! さ、早く中に入ってうがいと手洗いしましょうね~!」

「「はぁ~い!」」

「ユイトくん、先に二人を連れて行ってくれる? ちょっとお店の外、掃除するわね」

「分かりました。さ、二人とも行こっか」

「「うん!」」


 嬉しそうに中に入っていくハルトくんとユウマくんを見届け、オレたち見守り隊の役目は終わった……。

 そう思って胸を撫で下ろすと、オレの前にフッと影が落ちる。何だ? と顔を上げると、目の前には……、



「皆、揃いも揃って何してるの?」



「「「お、オリビアさん……!」」」



 近付く気配を全く感じなかった……! さすが元冒険者だ……!


「え、えっと……。二人が無事に帰れるか心配で……」

「そ、そうなの……! 気が気じゃなくて……!」

「ちゃんと見届けないと、仕事に集中できないからな……!」

「その通りだ……!」


 オレたちの必死の言い分に、オリビアさんはハァ~……、と深い溜息。おつかいの邪魔をするなと怒られると思い、オレたちは咄嗟に身構える。

 だが……、


「皆してズルいわっ!! 私だって見守りたかったのにぃ~っ!!」


「「「へ?」」」


 オリビアさんの予想もしない答えに、オレたちは全員呆気に取られてしまう。

 二人の初めてのおつかい、目に焼き付けたかった……! と悔しそうに手を握り締めている。何でもユイトくんにダメと言われて我慢していたそうだ。


「え、えっと……。二人の様子……、教えようか……?」


 あまりの悲壮感に可哀そうになってしまい、ついポロっと口が滑った。


「それ、本当?」


 オリビアさんの目が一瞬、獲物を見つけた様に細められる。誰だ可哀そうなんて思った奴は……!

 エリザたちはそそくさと仕事があると逃げ出した。


「さ、ジョナスさん! お話訊かせてちょうだい!」

「い、いや、オレも仕事が……」

「さ、ついて来て~!」


 有無を言わさないオリビアさんの迫力に、オレは屈してしまった……。

 ミリー、すまない……! 店は任せたぞ……!







 ちなみに、店に入るとハルトくんとユウマくんにはどぅちてぇ~? と驚かれ、オリビアさんと話してる途中で帰って来たトーマスには二人の様子が訊けると手厚く歓迎されたうえ、申し訳なさそうなユイトくんの絶品料理を御馳走になったので、これはこれで得した気分になったのはミリーには絶対に言えない……!


いつも読んで頂き、ありがとうございます。

凍えるような日が続きますが、皆様暖かくしてお過ごしください。

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