1 出会い
「ハァ~……、それにしてもあっついなぁ~……」
雲一つない快晴の下、長閑な田園風景が広がる道を、大量の荷物を載せた荷馬車がゆっくりと走っている。
二頭立ての馬が馬車を引き、その御者台に座っている男性の名はカーター。
年は28歳と若いが、王都から離れた村・アルトヴァーレで、いま流行りの服や革製品などを取り扱い、その村では人気の店を構える立派な商人だ。
「トーマスさん、今回は護衛を受けていただいてありがとうございます! ……でも、本当に報酬はなしでいいんですか? ギルドに依頼したら、結構な金額だと思うんですけど……」
そう言って、後ろの荷台に向かって申し訳なさそうに声を掛けるカーター。
「あぁ、構わん。どうせ知り合いに会いに行く予定だったからな。それより片道5日はかかるところを馬車に乗せてもらえて助かった。こちらの方こそ感謝するよ」
「えぇ~!? ちょっとやめてくださいよ~! トーマスさんが一緒で、私もかなり心強かったんですから~!」
そう言って、自分より30も年下の青年に頭を下げ礼を言う男性。
同年代の男性に比べてかなり上背があり、筋肉も厚く初老とは思えない、相当鍛えられた肉体の持ち主だ。
昔は冒険者としてパーティーを組んでいたが、10年程前に妻と共にこの先にある村に越してきた。
酒場で白髪交じりの顎鬚をさする仕草は、年を重ねたからこそ滲み出る大人の色気が漂い、男女問わず憧れる者は多い。
「王都がもう少し近かったら、仕入れもラクなんですけどね~」
「ん? そうしたら他の店にも行きやすくなって、店の売り上げが落ちるんじゃないのか?」
「うっ……、そうなんですよね……! くっそ~! もっと皆が興味の引くものを手に入れないと……! う~ん……」
そう言いながらブツブツ考え始めたカーターを見て、フッと微笑むトーマス。
しばらく走ると、村の門近くにあるが誰にも使われていない納屋が近づいてきた。
「……ん?」
何かが動いた気がして目を凝らすと、その物陰に小さな塊……。
そう思ったと同時にトーマスは荷馬車から飛び降り、その物陰に駆け寄った。
「えっ!? どうしたんですかトーマスさん!?」
いきなり飛び降り走り出した彼の後を、慌ててカーターも追いかける。
馬の手綱を引きながらそこに近づくと……、
「……え? それって……!?」
そこには泥だらけでぐったりと横たわる少年と、その傍らで蹲り泣きじゃくる、まだ年端もいかない2人の幼児の姿があった。