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180 じぃじとおでかけ


 ハルトとユウマの水、よし! メフィストのミルク、よし!

 忘れ物は……、ないな? よし、完璧だ!


「じゃあ行ってくるよ! 昼はあちらで食べてくる!」

「分かったわ。気を付けてね!」

「イドリスさんたちに伝言、お願いします!」


 オリビアとユイトに見送られ、オレは意気揚々と馬車乗り場に向かう。

 久し振りにオレと子供たちとで外出だ。

 ハルトとユウマのおやつも持たされたし、メフィストに必要な物も持っている。


「おじぃちゃん、おむつ、もってきましたか?」

「じぃじ、みりゅくは?」

「あぁ、ちゃんと忘れずに持ってきたよ! 二人ともメフィストの心配をしてくれてるのか? 偉いなぁ!」

「あぃ~!」


 二人は揃いの麦わら帽子を被って手を繋ぎ、自分たちの事ではなく、ちゃんとメフィストの必要な物を持って来ているか心配している。

 なんて家族想いのいい子たちなんだ……。



「あら、トーマスさん! 今日は子供たちとお出掛け?」


 店通りを歩いていると、肉屋のエリザが店先から声を掛けてきた。

 その声に、店先にいた客たちもこちらを振り返る。


「あぁ、ちょっと用事でな! 今からギルドへ向かうんだ!」

「みんなで、おでかけ、です!」

「めふぃくんもいっちょ! いぃでちょ!」

「あ~ぃ!」


 可愛いという声があちらこちらから聞こえてくる……。

 そうだろう、そうだろう……。

 ウチの子たちは皆、心優しくて可愛いんだよ……。


「アハハ! いいわねぇ~! 気を付けて行ってきてね!」


 ハルトたちも嬉しそうにエリザと客たちに手を振り、馬車乗り場へと歩みを進める。

 今日は風もいつもより涼しいし、出掛けるには丁度いいな。




「お、あの馬車だな。ハルト、ユウマ、先に行って声を掛けてきてくれ」

「「はぁ~い!」」


 馬車乗り場に着くと、なぜか冒険者の姿が多いように見受けられる。

 ギルドは隣の街なんだが……。

 皆一様に、オレたちが来た道へと足を向かわせるのだが、気のせいだろうか……?


「おじぃちゃ~ん! だいじょうぶ、です!」

「あぃてりゅってぇ~!」


 隣街行きの乗合馬車には、顔馴染みの御者のブライスが。

 メフィストを抱えながら馬車に近寄っていくと、今日もオレの顔を見るなり目を丸くしている。

 何なんだ? オレの顔に何が付いているんだ?


「と、トーマスさん……! その子は……?」

「ん? 新しく家族になったメフィストだ。可愛いだろう?」

「あぃ~!」


 ブライスはどうやら、また子供が増えていたので驚いた様だ。

 オレの腕に抱えられているメフィストを見るなり、目尻をこれでもかと下げている。


「また世話になるだろうから、よろしく頼むよ」

「は、はい……!」


 そう言って馬車に乗り込むと、どうやら乗客はオレたちだけの様で……。

 東行きも西行きも、乗ってきた客はこの村でほとんど降りてしまったと言っていた。


「では早速出発します! 揺れるのでお気を付けください!」

「「はぁ~い!!」」


 ハルトとユウマはいつの間にか御者席に座るブライスの後ろに陣取り、発車した馬車の進行方向を眺めている。

 これだけ広いのに、御者席の真後ろに固まっているのは傍から見れば滑稽に映りそうだが……。


「めふぃくん! ばしゃ、とっても、きもちいーです!」

「めふぃくん、おうましゃん、はちるのはやぃねぇ~!」

「きゃぃ~!」


 この子たちが楽しそうだから、何も問題はないな。


 ガタゴトと馬車に揺られていると、いつの間にか蜻蛉(リベレ)が飛んでいる。

 セイレイとも呼ばれ、この辺りでは“先祖の使い”として大事にされている、秋を知らせる虫だ。

 もうそんな時期か……。確かに、頬を掠める風が心地良い。


「トーマスさん、もしかしてなんですけど……」

「ん? どうした?」


 ブライスが珍しく声を掛けてくる。

 まぁ、他に客がいないのもあるだろうが。


「この子たちの他に、お兄さんがいたりとか……、します?」

「お兄さん?」


 もしかして、ユイトの事か……?


「あぁ、この子たちの兄がいるが……。知っていたのか?」

「あ、この前アレクさんと一緒に乗ってきた子が、この子たちにそっくりだったので……」

「アレクと……?」


 ふむ……、そう言えば二人で出掛けると言っていたな……。

 あの頃にはもう……。そうか……。


「お二人が降りた後も、一緒に乗ってたお客さんたちがアレクさんはあの子に本気だって騒いでいたもので……」

「ほ、本気……?」

「はい。聞いたところによると、アレクさんの表情も態度も、自分たちや貴族のご令嬢に向ける物とは雲泥の差とおっしゃってましたよ! その数日前にもアレクさんを乗せたんですが、村の人たちにおススメの場所を聞いて回ってたみたいで……! 乗り場ではその話題で持ちきりでした!」

「ほぉ~……」


 ユイトの為に聞いて回ったのか……。

 それは感心だな……。


「あれくさん、おにぃちゃんの、こいびとです!」

「あれくしゃんとにぃに、けっこんしゅるって、じぃじいってた!」

「け、けっこん……!?」


 ブライスは驚きのあまり、こちらを振り返る。

 こらこら! 前を見ろ、前を!

 しかしその驚いた顔が面白かったのか、メフィストはきゃっきゃと楽しそうだ。


「ゆ、ユウマ……! あれは違うんだ……!」

「えぇ~? じぃじ、いってたもん!」


 ユウマはぷくぅっと頬を膨らませる。

 可愛いが、しかし……!


「おにぃちゃん、あれくさんとけっこんしたら、あれくさんも、ぼくたちといっしょ、すみますか?」

「アレクも……!?」

「あれくしゃんいっちょ? ゆぅくんうれちぃ!」

「ぼくも! たのしみです!」

「あぃ~!」


 いつの間にか、アレクが一緒に住む事になっているんだが……?

 焦っていると、ブライスが堪え切れずに笑い出した。


「アハハハ! ハルトくんもユウマくんも面白いねぇ! トーマスさんが焦ってるとこ初めて見たよ! 二人の前ではどんなおじいちゃんなの?」

「おじぃちゃん、いつも、やさしいです! まっさーじしたら、よろこんでくれました!」

「じぃじねぇ、いっちゅもあしょんでくれりゅの! ゆぅくんうれちぃ!」

「そうなんだ? 二人ともおじいちゃんが好きなんだねぇ?」


「「うん!! だいすき(ちゅき)!!」」


「グゥッ……!」


 思わぬ所で二人の大好きを食らい、にやけぬ様に奥歯を噛み締める。

 メフィストが心配そうにこちらを見ているが、何も心配は要らないぞ……?

 ブライスがずっと声を上げて笑っているが、おじいちゃんは今日も絶好調だ……!




「ご乗車ありがとうございました! ハルトくん、ユウマくん、メフィストくんも! またよろしくお願いします!」

「「はい!! ぶらいすさん、ありがとうございました(まちた)!」」

「あぃあ~ぃ!」

「うぅ~……、これは可愛い……!」


 ブライスの顔が何とも情けない表情になっているが……。

 そうだろう? ウチの子たちは可愛いんだ……!


 ブライスに別れを告げ、早速冒険者ギルドへ向かう。

 ハルトとユウマも、もう道は覚えた様でちゃんと手を繋ぎ歩いている。



「あ! おじちゃん! こんにちは!」

「おや? 坊ちゃんたち、久し振りだねぇ! こんにちは!」

「おぃちゃん、おひしゃちぶり!」

「ハハ! そうだね、お久し振りだ!」


 以前に立ち寄ったカットフルーツの屋台の店主に挨拶をすると、店主はハルトとユウマにサービスだと言って、他の客に分からない様に葡萄(トラウベ)をこっそり食べさせていた。

 しかし、オレの腕にいるメフィストを見るなりギョッとした顔をする。


「と、トーマスさん……! その子は……?」

「あぁ、ウチの家族になったメフィストだ。ほら、こんにちは~って」

「あぃあ~ぃ!」


 メフィストが店主に手を振ると、途端に目尻が下がり答える様に手を振っている。


「あと、今は入院中だがレティと言う女の子も増えるから、またよろしく頼むよ」

「あぁ、また皆で来ておくれ。サービスするよ!」

「ハハ! ありがとう!」


 ハルトとユウマも手を振り、店主は破顔しながら見送ってくれる。

 すると、どこからともなく美味そうな匂いが……。


「あ! おじぃちゃん、おにく、たべたいです!」

「ゆぅくんも! あのおいちぃの、たべちゃぃ!」

「ハハ! おじいちゃんもお腹が空いたからここでお昼を食べて行こうか!」

「「やったぁ~!!」」


 二人は手を繋いで店へと駆けて行く。やはり昼時だからか、なかなかの行列だ……。

 すると、何やら見慣れた後ろ姿が……。


「あれ? ハルト、ユウマ、こんな所で会うなんて……!」

「あ! ぶれんだちゃん、こんにちは!」

「ぶえんだちゃん、こんにちは!」


 その後ろ姿は、ハルトとユウマもよく知るブレンダだった。

 ブレンダはオレを見るなり驚いた表情を浮かべるが、メフィストを見るとふにゃりと目尻を下げた。


「ふふ、こんにちは。今日はトーマスさんと一緒にお出掛けなんだな?」

「そうです! みんなで、おでかけです!」

「いいでちょ~?」

「あぁ、楽しそうでいいな!」

「ぶえんだちゃんも、おにくたべりゅの?」

「ギルドへ向かう前に腹ごしらえと思ってな。ここの肉は美味い!」

「ぼくも! ここのおにく、だいすきです!」

「ゆぅくんも~! おにくおぃちくてやらかぃの!」

「「ねぇ~!!」」


 ハルトとユウマの声に、なぜか前に並んでいた数人が振り向いて笑っている。

 知らぬ間に大きい声で話していたのかもしれない……。


「ハルト、ユウマ、他の人も並んでいるから少し声を小さくな?」


 オレがコソコソと注意すると、二人はあっ、と言う顔をして口を両手で押さえる。

 前に並んでいる数人にも、ごめんなさいと頭を下げた。

 メフィストも二人の真似をして小さな手で口を押さえるものだから、周りから可愛いという声が……。


「あ、私たちは気にしていないので! ボクたちも、そんなに気にしなくていいからね?」

「そうそう、オレらの方が煩いと思いますんで! 大丈夫っす!」


 次々と気にするなと言う声を掛けてもらい、ハルトとユウマもホッとした表情を浮かべている。

 かく言うオレも、並んでいる人たちの優しさにホッとしている一人なのだが……。


「あれ!? ちびちゃんたち! また来てくれたのか!?」

「あ! おじちゃん! こんにちは!」

「おぃちゃん、こんにちは~!」


 ふと前を見ると、串焼き屋台の店主がこちらを見て嬉しそうに声を掛けてきた。

 ハルトとユウマも挨拶をし、店主に手を振っている。


「ごめんなぁ~、もうちょっと待っててくれるかい?」


 首元のタオルで汗を拭きながら、串を次々と焼いている。

 以前に来た時よりも並んでいるな……。やはり人気な店なのか……。


「おじちゃんのおにく、おいしいから、まってます!」

「ゆぅくんねぇ、きょうは、いっぱぃたべりゅ!」

「そうかそうか! ありがとね~! おじさんも嬉しいよ!」


 店主は満面の笑みを浮かべ、真剣な顔で串焼きをくるくると返し、火加減を見ながら焼き色を付けている。

 肉から滴り落ちる油がジュワッと炭に落ちるたび、並んでいる客からゴクリと言う唾を飲み込む音が聞こえてくる。


「あぶぶぅ~!」

「ん? メフィストも食べたいって?」

「あぃ~!」


 オレが抱えているせいか、店主の手元が良く見えるのだろう。

 焼いている肉を食べたそうに、オレの顔と串焼きを交互に見つめている。


「メフィストは、まだ歯が生え揃ってないからムリだなぁ……」

「うぅ~?」

「噛まないと飲み込めないから、メフィストが食べれるのは、もう少し先になってしまうよ……」

「あぅ~……」

「おいおい……。頼むから、そんな悲しそうな声を出さないでくれ~……」


 今にも泣きそうに顔をくしゃりとしかめるメフィストに、オレはお手上げ状態だ……。

 すると、ハルトとユウマが背伸びをしてメフィストに話し掛けようとしている。

 オレがしゃがむと、二人はメフィストを覗き込み、いい子いい子と頭を撫でた。


「めふぃくん、もうちょっと、おっきくなったら、いっしょにたべよ!」

「めふぃくんといっちょにたべりゅの、たのちみにちてりゅね!」

「あぃ~……」


 二人に撫でられ落ち着いたのか、目は潤んでいるが辛うじて泣きはしなかった……。

 オレたちを見守っていた客たちも、ホッとした様子だ。

 これは二人に感謝だな……。


「ハルト、ユウマ、ちゃんとお兄ちゃんしてるんだな! カッコいいぞ!」


 すると一部始終を見ていたブレンダが、ハルトとユウマを褒めながら麦わら帽子の上から頭を撫でている。

 その様子を見てか、前に並んでいた客たちが自分の買った串焼きをハルトとユウマにと手渡し始めた。


「これも食べな!」

「こっちも美味しいわよ!」


 二人は困惑しながらも、一人一人丁寧にお礼を伝えている。

 あっという間に二人の手では持ち切れぬ程の串焼きが……。


「あれ? ちびちゃんたち大丈夫か? このお皿使いな!」

「おじちゃん、ありがとう、ございます!」

「みんないっぱぃくれちゃの! いいのかなぁ?」

「「「いいんだよ!」」」


 列に並ぶ客も、買い終えた客たちも、皆声を揃えて肯定している。


「みなさん、ありがとう、ございます! おっきくなったら、ごちそう、します!」

「ありぁとござぃましゅ! ゆぅくんも、おとなになったりゃ、ごちしょうしゅるね!」

「「「か、かわいぃ……!」」」


 幼い子供の言う事だが、なぜだか本当にご馳走しそうだな……。

 串をくれた一人一人と、約束だと言って小指を結んでいる。


 ハルトとユウマには、ブレンダと一緒に屋台横のテーブルで先に食べていなさいと伝えてある。

 せっかく貰った串が冷めては意味ないからな。

 ブレンダに頼んで、メフィストも先にテーブルに連れて行ってもらった。

 ここは少し煙たいからな。

 オレの順番になり、端から一串ずつ注文する事にした。

 どれも旨そうだから仕方ない。


「トーマスさん、あの子たちここら辺では有名だぞ?」

「そうなのか?」


 店主が串を焼きながら、数人の客と一緒にオレに話し掛けてきた。

 皆、気の良さそうな顔をしている、オレと同年代の男ばかりだ。


「あぁ、トーマスさんが引き取ったってのもあるけど、皆いい子ばっかりだからなぁ! それにあれを見たせいか、オレもファンになっちまったよ!」

「ふぁ、ファン……?」


 いい子なのは分かるが、ファンとは……?


「ギルド前の公開プロポーズか? あれは痺れたね~!!」

「あぁ、あれは皆噂してるからな! ウチの母ちゃんもキャアキャア言っちゃってさぁ~」

「お宅もか? うちの娘もなんだよ! もうここいら一帯じゃ知らない人間はいないだろうよ」


 な、何だと……!? あれがこの街の噂に……!?

 ゆ、ユイトが知ったら卒倒するぞ……!?


「あ、トーマスさん! その子に遊びにおいでって伝えといてくれよ! サービスするからさ!」

「そうだな! 前にオレの店も宣伝してくれたのか客が増えて大助かりよ! 礼言っといてくれ!」

「あ、あぁ……。伝えておくよ……」


 ど、どうやって伝えればいいのか……。

 公開プロポーズなんて言われているのは伏せておかないと……。


「ユイトくんたちはすっかりこの街の人気者になってるなぁ~!」

「あぁ、なんせギルマスがいっつも言ってるからなぁ~!」

「ユイトの飯は最高だぜ~! だろ?」

「おかげで名前も覚えちまったしなぁ~!」


 い、イドリス……! 余計な事を……!

 いや、宣伝してくれているから良い事なのか……?


「あぁ、なんか陛下たちも言ってたし、ギルマスもそう言うんだから間違いないって、冒険者は結構そっちに向かった筈だぞ?」

「会わなかったか?」

「す、すれ違った様な気はする……」

「はい! トーマスさん、お待ちどう! あっちでゆっくり食べてくれ!」

「あぁ……、ありがとう。頂くよ」


 まさかあの乗り場にいた冒険者の団体が……?

 かなりの人数だった気がするんだが……?


 皿に盛られた大量の串焼きを見て、オレは今頃、店で奮闘しているであろうオリビアとユイトの無事を祈る事しかできなかった……。


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