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168 僕が将来、養います!


「え? じゃあ、バージルさんたち早朝には出発するんですか?」


 ハルトとユウマ、メフィストが寝入った頃、トーマスさんが久し振りに帰宅した。

 またしばらくしたら任務に戻るみたいだけど、あとは明日の朝までだから気がラクみたい。

 だけど服もボロボロだし、怪我をした腕が痛々しい……。

 お湯を沸かしている間に、先に遅めの夕飯を食べてもらう。


「あぁ、それに今回の件で陛下たちを狙う首謀者が分かったからな。他にも共謀者がいないかノーマンの屋敷を調べるらしい」


 夕食のスープを飲みながら、トーマスさんはやっと一息つけたようだ。


「そうなんですか……。他にはいないといいんですけど……」


 あんなに危険な事、命がいくつあっても足りない気がする……。

 もう何も起こらないでほしいなぁ……。


「そう言えば、別荘にいる使用人たちはどうなったの?」


 ハルトとユウマが別荘の人たちが皆、黒かったって言ってたな……。


「あぁ、様子を見に行ったら全員気を失っていてな……。皆、知らぬ間に洗脳されていたみたいだ。ノアにも調べてもらったが、執事のジョセフはノーマンの仲間と断定されたよ。明日、共に王都へ連れて行くそうだ」

「まぁ……! じゃあ陛下たちがここを訪れるようになってから、ずっとって事……!?」

「そうなるな……。気付けなかった自分が情けないよ」


 トーマスさんはそう言うと、深い溜息を吐いた。


「でも何もなくてよかったわ……。ユイトくんたちがいなかったら、最悪な事になっていたかもしれないもの……」

「僕たち……?」


 僕たち、何かしたかな……?

 魔法も使えないし、戦えるわけでもないし……。


「えぇ。ユイトくんたちが靄の事を教えてくれなかったら、誰も気付かないままだったもの……」

「そうだな、あの時ハルトとユウマを連れて行って良かったと皆言ってたよ」

「そうですか……。見たときは怖かったけど、お役に立てて良かったです!」


 魔法が使えなくても、役に立てたなら僕たちも嬉しい。

 まぁ、こんな事は二度とごめんだけど……!


「あ、明日帰るならライアンくんはどうなるんですか? カーティス先生に安静にって言われてましたけど……」


 今頃は診療所のベッドで休んでいる筈だ。

 ライアンくんもレティちゃんも、早く良くなってほしい。


「あぁ、ライアン殿下は暫く様子を見て、数日遅れでこの村を出る事になったよ」

「それが安心ですよね。あ、でもライアンくんたちの帰るときの護衛は?」


 騎士団の人たちとアレクさんのいるパーティは、明日バージルさんたちと一緒に王都に帰るみたいだし……。

 寂しいけど、明日は絶対見送りに行かなくちゃ……。


「フレッドとサイラスは常に一緒だが、騎士団からアーロとディーンが残る事になった。あとはギルドで依頼してブレンダも行く事になったよ」

「へぇ~! ブレンダさんが……!」


 聞くと、ブレンダさんはソロの冒険者で、しかもトーマスさんと同じBランクらしい……!


「ブレンダさん、そんなに強いんですか……!?」

「言ってなかったか? ほら、前にグロディアス・ブロムホフィのエキスを使っていただろう?」

「あ……、アレですか……」


 その名前を聞いて、僕もオリビアさんもあの味を思い出してしまった。

 あの強烈な味はなかなか忘れられそうにない……。


「ハハハ! 二人ともそんな顔しなくてもいいだろう! あれは滋養強壮剤として使われるから人気なんだがな、高ランクの魔物でなかなか仕留めるのが難しいんだ。普通は高ランクパーティが数組いてやっと仕留められるんだよ」

「へぇ~! そんなに……!」

「あぁ、だがブレンダは一人で仕留める実力がある」

「え?」

「とっくにAランクに昇級してもいいんだが、なかなか首を縦に振らないとイドリスが嘆いてたよ」


 い、意外過ぎて言葉を失ってしまった……。

 あのブレンダさんが……、フレンチトーストを上手に作れたと喜んでいたブレンダさんがそんなに強い人だったなんて……!


「あら、ユイトくん、信じられないって顔してるわね?」

「は、はい……。でも、どうしてAランクに上がらないんでしょうか? 喜びそうだと思うんですけど……」


 ランクが上がれば報酬金も上がると思うんだけど……。


「それはねぇ、前にも教えたけどAランクになると男爵位が貰えるのよ。そうしたら貴族同士のお付き合いやお抱え冒険者に誘われそうで嫌なんですって! アレクもそうだけど、まるでどこかの誰かさんにそっくりよねぇ~?」


 オリビアさんは頬杖をしながらトーマスさんをジ~っと見つめている。

 もしかして、トーマスさんも……?


「トーマスさんもランクが上がるの、嫌なんですか……?」

「う……。まぁ、そうだな……。若い頃はやる気もあったんだが……、今はここでのんびり依頼をこなしながら暮らしたいというのが本音だな……。ガッカリ、したか……?」


 トーマスさんは眉を下げて僕の方をチラリと見る。

 そんな顔しなくても……。


「僕はトーマスさんが危ない目に合わなければ、ランクは関係ないですし……」


 二人が仲良く、健康でいてくれればそれでいいと思ってる。


「それに、僕が将来トーマスさんとオリビアさんを養うつもりでいますので! 任せてください!」

「まぁ~!!」

「ゆ、ユイト……!!」


 初めて言ってしまった……!

 だけど言葉にすれば叶いやすいって、どこかで聞いたことあるし!


「えへへ……! その為にも頑張って美味しい料理を作りますね!」


 照れ臭いけど、こうして伝えてしまえばやる気も出るし!

 頑張ってお店を繁盛させたいなぁ~!

 あ、でもオリビアさんに負担が掛からないようにしないと……。


「ハァ……、家族ってものは、いいものだなぁ……」


 僕がそんな事を考えている間に、トーマスさんはしみじみと呟き、目頭を押さえている。

 オリビアさんもそれを見てお互い涙脆くなったわね、と笑っていた。


「ふふ、また新しい家族が増えちゃったものね?」

「あぁ、オレもユイトに負けない様に頑張るよ……」


 レティちゃんが退院したら、今度からは七人家族かぁ~……。

 これから騒がしくなりそうだなぁ、なんて楽しみに感じてしまう。


「とりあえず、落ち着いたらレティちゃんのお部屋をちゃんとしないとね?」

「そうですね。女の子ですし」


 僕たちと一緒の部屋も恥ずかしいだろうし……。


「あの物置にしてる部屋だったら、広さも丁度いいんじゃないか?」

「そうね。じゃあ明日お買い物が終わったら、要らないもの整理していかなきゃ」


 その物置部屋は僕たちの部屋の隣にあるから、何かあったらすぐに行けるな。


「僕、あの部屋あまり入った事無いんですけど……。何が置いてあるんですか?」


 たまにオリビアさんが使わない毛布を洗濯してるから、仕舞う時とかにチラリと見た事はあったんだけど。


「トーマスと私の昔の装備とか……。あとは、ダンジョンのドロップ品?」

「そうだな、使い道が分からない物もあったな」

「無駄に大きくて幅を取るのよねぇ~」


 でもせっかくのドロップ品、捨てるのも勿体ないし~、と手放したくはないみたい。


「わぁ! ドロップ品! 僕も見ていいですか?」


 ダンジョンからってどんな物が出てくるんだろう……!?

 すっごく興味がある! 何か使える物があるかもしれないし!


「えぇ、いいわよ? ユイトくんが欲しかったら使っちゃって」

「いいんですか!?」

「えぇ、もちろん! でもそんなに期待しないでね?」

「オレたちが若い頃のだからな。結構古いぞ?」


 オリビアさんもトーマスさんも、期待外れだと可哀そうだからと苦笑い。


「大丈夫です! 僕そういうの見た事無くて興味があるんで!」

「じゃあ明日、一緒に片付けしましょうね」

「はい! 楽しみです!」


 レティちゃんの部屋だけど、その前に宝物探しに変更だ。

 掘り出し物、あるといいなぁ~!



 ……そしてその前に、明日は見送りの時、絶対ちゃんと渡さなきゃ……。


 不安と緊張を胸に、僕はアレクさんの事を思い浮かべていた。


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