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166 突然の宣言


「トーマスさん! オリビアさん!」

「ユイト!!」

「ユイトくん!」


 嬉しくて思わず駆け足になると、アーチの向こう側でトーマスさんとオリビアさんが驚いた表情を浮かべている。

 そして僕たちが森から出ると、シュルシュルと音を立ててアーチは解け、森の入り口が消えてしまう。

 だけど梟さんは森へは帰らず、その場でジッと僕たちを見守ってくれている様だ。


「ユイトくん……! 怪我はない……!?」


 オリビアさんは僕の顔を両手で包むと、怪我をしていないか確認し始めた。


「はい……! オリビアさん、血が……! トーマスさんも酷い怪我……!」


 オリビアさんは服も所々汚れ、顔には血痕が……。

 トーマスさんに至っては、何かで斬られたような痕が複数あり、布で止血しているけど滲み出るほど腕から酷い出血が……。

 僕がいない間にこんなに怪我するなんて……。


「服は汚れちゃったけど、私のは返り血だから大丈夫よ?」

「え……?」


 か、返り血……? オリビアさんから物騒な言葉が……。


「オレも平気だよ。それよりユイト、アレク、二人とも無事で良かった……! アレク、特に危険な事をすまない……。おかげで一人捕まえられたよ……、と言っても消滅してしまったんだが……」


 トーマスさんはオリビアさんごと僕を抱きしめながら、後ろにいるアレクさんにも感謝の言葉を掛けていた。

 やはりあれは敵を捕まえる為の作戦だったらしい……。

 あんな危険な事するなんて……! あとでちゃんと注意しないと……!


「あの……、ハルトと、ユウマは……?」


 さっきから探しているけど、可愛い二人の姿が見えない。

 だけどトーマスさんとオリビアさんは何も言わないし……。


「あぁ、二人はライアン殿下の傍に付いているよ。殿下がオレたちを助けた後、気を失ってしまってな……」


 ライアンくんが? 皆を助けたってどういう事だろう……?

 騎士団の人たちが片付け始めているけど、周りには魔獣? の無残な死体が転がっている。こんな数が一気に襲ってきたなんて……。

 あまり子供には見せたくない光景だ……。


「ライアンくん、大丈夫なんですか……? 僕も様子を見に行ってもいいですか……?」

「えぇ、大丈夫。馬車にいるから皆で無事を知らせに行きましょう」


 オリビアさんは僕の顔を撫でてそう言うと、目線をそっと下に向けた。


「ところでユイトくん……。その子たち、どうしたの……?」


 オリビアさんは僕に抱えられた赤ちゃん、そしてアレクさんに抱えられスヤスヤと眠るレティちゃんを交互に見つめている。

 トーマスさんは赤ちゃんを見た後、何かを察した様にハァ……、と溜息を吐いた。

 どうやら、いつの間にか肩に乗ってにこにこしているノアが何かを話したらしい。

 ていうか、姿見せてるけど大丈夫なの……?


「あ、あの……。何と言えばいいか……」


 説明するのはとても難しい……。

 助けてもらおうとアレクさんを見ると、アレクさんも気まずそうに肩を竦めた。


「あぅ~?」


 すると、今まで僕の胸に顔を埋めていた赤ちゃんがひょっこり顔を覗かせる。


「あらぁ~! とっても可愛いわ……! ユイトくんたちと同じ髪色なんて珍しいわね……!」

「そ、そうですか……?」


 オリビアさんはその子を覗き込むと、触りたくて仕方ない様子。


「あぃあぃ~!」

「あらあら、ご機嫌ねぇ~?」


 赤ちゃんはオリビアさんを見ると、にこにこと笑みを浮かべ手を伸ばしている。

 小さな手はふっくらしていて、思わず指で構いたくなる。

 一生懸命手を伸ばす赤ちゃんに、子供好きなオリビアさんは一瞬で顔を緩めていた。


「ユイト……、あちらで話を聞こうか……」


 トーマスさんは諦めた様に僕の肩を抱き、オリビアさんと二人で赤ちゃんの手を触っている。

 赤ちゃんはトーマスさんの指をにぎにぎと掴み、とっても楽しそうに笑っていた。






*****


「えっ!? その赤ん坊が……!?」


 馬車の近くに皆を集め、僕とアレクさんが森で起こった事を洗いざらい伝えると、皆驚愕の表情を浮かべ僕の腕の中でご機嫌に揺れる赤ちゃんを凝視している。

 そして、その横には小さな影がもう二つ。


「とっても、かわいいです!」

「ちっちゃぃねぇ~!」

「あぃあ~!」


 ハルトとユウマは、僕が戻ってきた事を知ると抱き着いて喜んでくれた。

 どうやら二人とも怪我はない様でホッと胸を撫で下ろした。

 落ち着くまで時間はかかったけど、今は赤ちゃんと遊ぶのに夢中らしい。

 同じ黒髪だから、こうして並ぶと兄弟みたいだな……。


 そして僕たちの後ろには、アドルフとその仲間のグレートウルフたち、サンプソンがハルトたちを見守る様にドシリと寝そべっている。

 久々に見たけど、やっぱり圧が凄い……。


「まさか、この赤ん坊の正体が悪魔だとは……」

「信じられんな……」


 バージルさんとアーノルドさんは腕を組み、赤ちゃんを観察している。

 その表情は少し複雑そうだ……。


「しかし、お二人の証言とノアさんの話を総合すると、そういう結論になりますね……」


 自分たちを襲ってきた敵の協力者が、まさかこんなに可愛らしい赤ちゃんになってしまったと言うのだからそれも仕方ない……。


「あのレティという娘が目を覚ませば、もう少し詳細が分かるかもしれんが……」


 イーサンさんとトーマスさんは、お手上げだという様に溜息を吐く。


 レティちゃんはライアンくんとは別の馬車で、オリビアさんに付き添ってもらい横になっている。

 明るい場所で見ると、全身の痣が酷くとても痛々しい。

 トーマスさん曰く、枯渇していた魔力が一気に戻った事によって魔力酔いと似たような症状になっているのではないかと言っていた。

 あの子は魔族だろうから、我々よりも魔力ははるかに多いだろうと。


「陛下、あの娘とこの赤ん坊……。どちらもノーマン・オデルの協力者となります」

「あぁ、そうだな……。あの娘は痩せ細っていたが、たぶんライアンと同じくらいだろう……。それに、この赤子も……」


 バージルさんはそう言うと、赤ちゃんを見て溜息を吐く。


「ノアが言うには、悪いものは全て抜け落ちていると……。ユイトがあのレティという子供に聞いたのと同じ内容だが……」

「はい。僕のこの石が悪いのを吸い取ったって……」


 僕が左手のブレスレットを見せると、赤ちゃんは触ろうと懸命に手を伸ばす。


「触りたいの?」

「あぃ~!」


 そっと近付けると、両手でペタペタと嬉しそうに石の部分を触っていた。


「オレも全く同じ事を体験したからな。その話の信憑性は高い」

「我々も目撃していましたからね……。信じ難い内容ではありますが……」

「「ハァ……」」


 イーサンさんとトーマスさんは、また深い溜息を吐き肩を落とした。


「その赤子、こちらで預かるしかないな……」

「処罰がどうなるか分からない以上、そうなりますね……」


 アーノルドさんとイーサンさんは、この赤ちゃんを一緒に城に連れて帰るという。

 それじゃあ、僕とはもうお別れなのか……。

 上から見えるふくふくしたほっぺに長い睫毛、抱っこしているうちにいつの間にか情が湧いてしまったのかも……。

 ちょっと……、いや、かなり寂しい……。


 すると何かを察したのか、僕の腕の中でご機嫌だった赤ちゃんが見る見るうちに顔をクチャっと歪め出した。

 あ、マズいかも……!



「やぁあああ────────ッ!!!」



 その小さな体のどこから出るんだというくらいの声量に、僕たちは思わず耳を塞ぐ。

 塞いでいてもビリビリと振動しているのが分かる程。


「おい! アドルフ! サンプソン! 落ち着け!」


 トーマスさんの慌てた様子に後ろを振り向くと、アドルフたちとサンプソンが立ち上がり、僕とハルト、ユウマ、そして赤ちゃんを守る様に唸り声をあげ、鋭い牙を剥き出しにしてバージルさんたちを威嚇している。


「陛下ッ!!」


 騎士団のアーロさんたちとアレクさんの仲間の人たちは一斉に剣を抜き、バージルさんたちを守る様に前に出て剣を構えている。

 一触即発の雰囲気に、僕は唖然としてしまった。


「えっ!? なんで……!?」


 さっきまでアドルフたちもサンプソンも大人しかったのに……!?

 もしかして……、この子の泣き声のせい……!?


「あどるふ! おこっちゃ、だめです!」

「しゃんぷしょんも! めっ!」


 ハルトとユウマが両手を大きく広げ、バージルさんたちを庇う様に前に出る。

 するとアドルフたちはキュ~ンと鳴き、サンプソンもフンと鼻息を荒くした後、大人しく横たわった。

 その様子に、トーマスさんたちは口を開けて唖然としている。


「ほらほら、泣かないで? ちゃんと僕たちもいるからね~?」


 とりあえず泣き止ませなきゃと赤ちゃんを抱えなおし、ゆらゆらと揺すりながら背中をポンポンと優しく擦る。

 すると、甲高い泣き声を上げていたのが徐々に愚図りに変わり、最後にはクスンクスンと僕の胸に顔を擦り付けていた。


 と、とりあえず泣き止んだ……!


 パッと顔を上げると、そこには赤ちゃんを覗き込むアドルフたちと、上から覗くサンプソン。

 いつの間にか囲まれていた様で、僕は身動きが取れずにいる。


「ユイト……。どうしてこう……、次から次へと……」


 アドルフたちに囲まれるその隙間から、溜息を吐くトーマスさんの姿が見えた。



「こうなると、ウチで面倒を見るって事になるのかしら……?」


 いつの間にかトーマスさんの後ろに立っていたオリビアさんに、僕たちはビクリと肩を揺らす。

 だけどそんな事気にも留めずこちらに歩みを進め、腕の中で愚図る赤ちゃんを見てオリビアさんはうん、と頷いた。



「トーマス! この子もレティちゃんも、ウチで引き取って育てましょう!」



 オリビアさんは声高らかに宣言し、嬉しそうに赤ちゃんの頬を撫でている。

 ハルトとユウマも、ほんとう!? と大はしゃぎだ。


 トーマスさんたちはと言うと、オリビアさんの突然の育てる宣言に、呆然と只々立ち尽くしていた……。



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