142 ダイエット宣言
「さぁ! オリビアさん! 今日も気合を入れて頑張りましょう!」
「え……? えぇ! そうね! 頑張りましょ!」
カーティス先生の予約分を終わらせるべく、僕はいつになく気合十分だ!
僕が予約分を作り、オリビアさんには通常の仕込みをしてもらう。昨日のうちに手間の掛かるものはやっておいたし、なんて言ったって、今日は念願のジュンマイシュとミリンが手に入ったからね!
本当に最近の僕って、ツイてる気がする!
「おにぃちゃん、ふんふんしてます」
「にぃに、たのちちょ!」
「ユイトさんは面白いですね!」
扉の陰からハルトたちにそんな事を言われてるなんて全く気付かないくらい、僕は集中していた。
*****
「おはようございま~す!」
「あら、ダニエルくん! 今日もご苦労様!」
「いえいえ! 今日はチーズも牛乳もどれも多めに持って来てますけど……、って、ユイトくん、どうしたんですか?」
「あ~、ユイトくんね。今日はずっと欲しかったジュンマイシュ? っていうのが手に入ったらしくて……。帰って来てからず~っと、あーなのよ……」
「あぁ~……、なるほど……。じゃあ、また美味しいメニューが出来るって事ですか?」
「そうなるわねぇ~。ダニエルくんも試食しに来る? 今日の閉店後なんだけど」
「え! いいんですか? たぶん行けると思います!」
「そう! ならユイトくんにも伝えておくわね!」
「はい! お願いします!」
「オリビアさん、水を貰えますか……、ってユイトくんはどうしたんですか……?」
「あぁ、サイラスくん。ごめんなさいね? ユイトくん集中すると自分の世界に入っちゃうのよ……」
「しっかし真剣ですね……。何を作っているんですか?」
「予約注文のチキンのサンドイッチと、後から新しい調味料で試作品作るんですって!」
「へぇ! いいなぁ。きっと美味しいんでしょうね!」
「サイラスくんたちの分もあると思うから、後で一緒に食べましょうね」
「本当ですか! 楽しみにしてます!」
「おばぁちゃん」
「あら、ハルトちゃん。どうしたの?」
「あせ、かいちゃったから、きがえたいです」
「あらあら、お稽古頑張ったのねぇ。体を拭いてから着替えましょうね。さ、行きましょ」
「はーい!」
最後に蓋をして……、っと。
「よし……! 二十個、完成~~!」
フゥ~、開店前にここまで作ると謎の達成感があるなぁ~!
喉渇いちゃったし、水でも飲もうかな……、と周りを見渡すと、オリビアさんが何処にもいない。
え、なんで?
「えっ!? オリビアさん!?」
僕が思わず声を出すと、どうしたの~? と、扉の向こうからハルトたちを連れてひょっこり姿を現した。後ろからはフレッドさんとサイラスさんたちも一緒だ。
「あぁ……! オリビアさん、いないからビックリしました……!」
僕がホッとした顔をすると、それを見てオリビアさんは思わず、といった様に笑い出した。
「ふふ、だってユイトくんすっごく集中してたもの~。ダニエルくんやサイラスくんがお店に来たの、知ってる?」
「……え? 来てました……?」
「え!?」
僕はずっとキッチンにいたはずだけど……。
あ、そう言われれば、チーズも牛乳も牧場からの商品は全部揃ってたな……。
サイラスさんの顔が見れず、僕が気まずくなって下を向くと……、
「ほらね? いっつもこうなの」
「おにぃちゃん、いっつも、おりょうり、かんがえてます」
「にぃに、しゅごぃねぇ」
「気付いてくれないなんて、悲しいわぁ~」
「「「ねぇ~」」」
「うぅ……、ごめんなさぃ……!」
僕が謝ると、フレッドさんたちは呆気にとられた様子でスゴイ集中力ですね、と謎の慰め方をしてくれた……。
ハァ……、次からは気を付けます……。
*****
「こんにちは」
お店の扉に付いている鐘がチリンと鳴り、来店の合図。
顔を覗かせたのは診療所で働くコナーさんだ。
「コナーさん! お久し振りです!」
「えぇ、ユイトさんも。元気になった様で安心しました」
そう言うと、コナーさんは僕を優しく見つめてくる。
弱っている所を知られているせいか、少し気恥ずかしい……。
「その節はお世話になりました……!」
「いえいえ、こちらこそ。今回は先生が無理を言ったそうで……、すみません」
コナーさんは申し訳なさそうに僕に頭を下げた。
「あ、違うんです! カーティス先生は、皆さんが疲れてるからこれを食べさせてあげたいって言ってました!」
「え……、そんな事を?」
「はい! お酢を使っているので元気が出ると思います! 診療所の皆さんで召し上がってくださいね!」
「はい……。ありがとうございます。またお店にも食べに来ますね」
「はい! お待ちしてます!」
チキン南蛮のサンドイッチが入った袋を手渡すと、スゴイ量ですね……、と一瞬怯んでいたけど、まぁあの人たちなら食べるか、と妙に納得した表情でお店、頑張ってくださいと言って帰って行った。
診療所の人たちも大変だって聞いたから、食べて少しでも元気が出たらいいな!
「いらっしゃいませ! こちらのお席へどうぞ!」
開店すると、間もなくして席はいっぱいに。
冒険者の人たちは相変わらず来ないけど、昨日来てくれた人がチラホラ見える。
「ユイトくん、このチキンナンバン? 今日もある?」
「はい! 昨日は売り切れちゃったので多めに仕込んでます!」
「やった~! 食べてみたかったの! それをお願いします!」
「はい! ありがとうございます!」
「こっちも同じのください!」
「はーい! かしこまりました!」
今日もお客様のお目当ては、照り焼きチキンのピザと、チキン南蛮のようだ。
まだ二日目だけど、醤油も受け入れられている様で僕は内心ガッツポーズ。
オリビアさんはそんな僕を見てよかったわね、と笑っている。新しい調味料が手に入ったら、これからもどんどん作ってみよう!
その為にはまず、このお店の料理をいろんな人に食べてもらわないとね!
*****
「フゥ……、今日もなかなかの来店数でしたね……!」
「そうねぇ……、でもこの村の人じゃない人も結構いたわよね?」
「はい、不思議ですねぇ……」
ピークも落ち着き店内も疎らになってきた頃、オリビアさんとやっと落ち着いて会話が出来た。
まさか二日目もこんなに来るとは思わず、もうすぐ閉店時間だ。
そろそろ試作品を作り始めなきゃ……。
オリビアさんに断ってから、早速試作品作りの準備を開始する。
まずは鶏の内臓をキレイに洗って下ごしらえから。
一口大に切った内臓を、今朝手に入ったばかりのジュンマイシュ、ミリン、水にソーヤソース、生姜、砂糖を煮立たせた鍋に入れて、灰汁を掬いながら煮込んでいく。
すると、最後のお客様が退店するのと同時にお店の扉が開き、ジェームズさんとダニエルくんの姿が。
「いらっしゃい! 待ってたわ!」
「ダニエルくん、今朝はごめんなさい! 僕、気付かなくて……」
まさか納品に来ているのを気付かないなんて……。もし違う人だったらと思うと、不用心にもほどがある。
気を引き締めなくちゃと反省した。
「ハハ! いいよ! それよりいい匂いだね?」
「これがあのジュンマイシュを使った料理かい?」
ダニエルくんとジェームズさんは、店内に漂うこの匂いに思わずお腹を押さえている。
「あとは煮詰めるだけなので。カウンター席で待っててくださいね」
「楽しみだなぁ~! 匂いだけで美味しいのが分かる……」
「ワシはユイトくんの料理は初めてなんだよ。評判がいいらしいじゃないか」
「そうなのよ! とっても美味しくって! おかげで少し太っちゃったのよねぇ……」
「えっ!? そうなんですか?」
「そうなの、食べ過ぎはダメね……! 暫くお替りは我慢しなくちゃ……」
「本当ですかぁ~?」
「う……、だ、大丈夫よ?」
自信なさ気に大丈夫と呟くオリビアさん。本当に我慢できるのかなぁ~……? だって、こんなにいい匂いが充満してるのに……。
すると、オリビアさんは匂いから逃げる様に看板を入れてくるわね、と外に行ってしまった。
「ユイトくん、これはどんな料理なんだい?」
「あ、おれも知りたい!」
「これはですねぇ、と……」
すんでの所で、僕は教えるのを止めた。
だって、エリザさんとアーロさんが内臓は食べないって言ってたし……。ダニエルくんはワクワクしているけど、もしかしたら気持ち悪いって食べてくれないかも……。
「「と?」」
「~~……! 食べてからの、お楽しみです!」
「えぇ~!」
「焦らすのが上手いの~」
だって、美味しいと思うから是非食べてみてほしい!
決してやましい事があるとか、そんなんじゃないから……!
僕は内臓をコトコトと煮詰めながら、どうか受け入れてくれます様に、と祈るしかなかった……。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
読んでくださる方が増えてきて、嬉しいやら恥ずかしいやらで浮かれています。
毎日一更新は心掛けていますが、楽しんでもらえるように頑張りたいと思います!
これからもどうぞ、よろしくお願い致します!