12 ご近所に挨拶回り
今日は朝から皆でお出掛け。ご近所さんに、僕たちのことをよろしくとご挨拶して回るらしい……。
なんでも、オリビアさんのお店の食材を卸してくれているお店もあるので、その顔見せも兼ねているそうだ。
そうだな。きちんとしないと、トーマスさんとオリビアさんに迷惑がかかるからな……。シャキッとしないと!
きゃぁ~っと逃げ回るハルトとユウマを掴まえて、ぎゅ~っと抱きしめ充電は完了だ!
少し緊張しつつも、一件目のお宅にご挨拶……、と思ったら、お隣はカーターさんのお宅だった。内緒だけどちょっと拍子抜けしてしまう。
中から出てきたのはカーターさんの奥さんのアイラさん。一つ向こうの通りで、服や革製品を取り扱うお店を家族で経営しているそうだ。
「あなたがユイトくんね? 初めまして、カーターの妻のアイラです」
「は、初めまして! トーマスさんの家でお世話になるユイトです! あと弟のハルトと、ユウマです! よろしくお願いします!」
「ふふ! こちらこそ、よろしくお願いします。ハルトくんとユウマくんは、もうお話したもんね~?」
「「ねぇ~!」」
アイラさんとは二人の服を買いに行ったとき、すでに挨拶は済んでいたようで……。
実質初対面なのは僕だけだった。明るいうちは大体お店にいるから、困ったことがあれば旦那と私に気軽に相談してね、と言ってアイラさんはそのままお店に出勤して行った。
「このあとユイトくんの服も買いに行くから、カーターくんのお父さんたちにも挨拶しなきゃね」
「そうですね。昨日は忙しいのに、カーターさんをお借りしましたし……」
「あら? ユイトくんは別に気にしなくてもいいのよ? アイラちゃんもどうぞ連れて行って~って快諾してくれたもの」
「そうだぞ? あそこの家は女性が強いからな。特にカーターの母親は、店に入った強盗を素手で捕まえるくらいには強い」
「えぇ~……!? それ聞いたら、ちょっと興味出てきました……」
「ハハ! 元冒険者だからな! そこら辺の男よりはよっぽど戦えるぞ!」
そこから肉屋をしているお話好きなエリザさんと、寡黙な旦那さんのネッドさん。パン屋のジョナスさんにと、いろんな人に挨拶して回った。
たまたま休暇日だった警備兵のアイザックさんも、僕の知らないうちにお世話になっていたみたいで……。元気になってよかったなぁ、と頭をガシガシ撫でてくれた。髪はぐしゃぐしゃになったけど、アイザックさんはいい人みたいだ。
最初は緊張していたけど、ハルトとユウマのお兄ちゃんというのがすでに知られていたらしく、行く先々でよかったわね、ムリすんなよ、と声を掛けられた。そして何故か、両手では抱えきれないくらいの野菜やお肉を快気祝いとして貰ってしまった。
腕の中から落ちてコロコロと転がるオレンジの実を、ハルトが慌てて追いかける。
「ユイト、一旦家に置きに帰るか」
「ハハ、そうですね……。でも皆さん、優しくてホッとしました……」
本当は少し怖かった。どこから来たのかも分からない子供を村に置くなんて、とトーマスさんとオリビアさんが非難されるかもしれないって。だからこんなに優しくしてくれるなんて、想像もつかなかった……。
「ユイトたちは優しい性格をしているからな。皆にも歓迎されてるんだよ」
「……だと、いいんですけど……」
「まぁ、半分以上は一日で噂を広めたエリザのおかげかもな」
「あ、そうかもしれないですね! お礼しなきゃ!」
そう言って笑いながら、たくさんの頂き物を抱えなおし、来た道をもう一度戻ることにする。
戻るときにもまた果物をたくさん貰うなんて、誰も想像もしてなかったけどね?
優しい人たちがいるこの村で、兄弟三人で安心して暮らせるんだと思ったら、なぜだか少しだけ涙が出た。
ブックマークと評価、ありがとうございます。
今回は少し短いですが楽しんでいただけたら嬉しいです。