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122 カリー実食!

少し短いです。


「あ、アレクさん! いらっしゃいませ!」


 今日はいつもより客数も少なくて、いま店内にいるのは、カビーアさんの事情を知っているお客様が二組だけ。

 もうこれで終わりかなぁ、なんて思っていたら、まさかのアレクさんのご来店だ。


「あれくさん! いらっしゃいませ!」

「あれくしゃん! いらっちゃぃましぇ!」

「よぅ! ……あれ? なんかいい匂いするな……?」


 店内に入るなり、鼻をクンクンとさせてこの匂いの元を探ろうとしているアレクさん。

 分かります。この匂いは堪りません……。


「ん? あれ、誰……?」


 キッチンの奥に見知らぬ人物を見つけ、眉間に皺を寄せるアレクさん。

 ちょっと怖いからやめてほしい……。

 怖いですよ、と言いながら、その皺を人差し指で押さえると、一瞬にして呆けた顔になる。


「あの人は今日いらっしゃったお客様で、カビーアさんと言うんです。色々協力したお礼にって、カビーアさんの母国の料理のカリーを作ってくれてるんです! とってもいい匂いでしょう? このスパイスを買ってもらうために、行商市でカリーを作って広めようと皆で相談してたんですよ!」


 このカリーが楽しみな僕の気持ちが伝わったのか、アレクさんもにこにこと笑顔を浮かべてくれた。

 オリビアさんもそれを見ていたのか、咽ながら笑っている。


「あれくさん、おりょうり、なにたべますか?」

「ん~、今日はどうしよっかな……」


 アレクさんはメニューを見ながら悩んでいるみたい。

 たぶん、この匂いが考えるのを邪魔してるんだと思う……。


「せっかくだし、アレクも一緒にカリー食べましょうよ!」

「あ! それいいですね! そうしましょうよ、アレクさん!」

「え? いいのか? オレなんも関係ないけど……」


 アレクさんがチラリとカビーアさんの方を見ると、鍋の中身をかき混ぜながら、カビーアさんはにっこりと微笑んでくれる。

 今日はハルトとユウマも食べれる様に、牛乳を入れた甘めのカリーにしてくれるそうだ。

 ヨーグルトがあればそれを入れたかったみたいなんだけど、残念ながらこのお店の料理には使ってないので……。残念過ぎる……!



「さぁ、皆さん。お待たせしました! 私の国のカリー、召し上がってください!」

「「「やったぁ~!」」」

「あ~! とってもいい匂いねぇ~! 早く食べましょ!」


 オリビアさんはそう言うと、人数分の食器を取り出してカビーアさんへ渡していく。

 カビーアさんもそれを受け取ると、慣れた手つきでカリーをよそっていく。


 お客様たちもずっとソワソワして待ちきれない様子だ。

 そして、カウンター席に座るアレクさんの横に腰掛けた僕の前にも、念願のカリーが……!

 ん~、いい匂い……!



「皆さん、今日は本当にありがとうございます! おかげで最後にもう一度粘ってみようと思えました! どうぞ、お召し上がりください!」

「「「いただきまぁ~す!」」」



「「「ん~~っ! 美味しいっ!!」」」



 口に入れた瞬間に、ピリリとした刺激とふわっと鼻を抜けるスパイスの香り。

 いつも食べていたあの味ではないけれど、その優しい甘さに、僕は懐かしさで胸がいっぱいになった。

 カビーアさんが作ってくれたのは、子供でも食べられるバターチキンカリーだ。

 牛乳の他に生クリームも入っているので、ハルトとユウマも食べやすいと思う。

 何より、二人の表情が美味しいと物語っている。


「おじさん! かれー、おいしいです!」

「ゆぅくんもねぇ、これちゅき! おぃちぃねぇ!」


 ユウマはオリビアさんの膝に座りながら、美味しいとスプーンを口に運んでいる。

 スパイスの配合や入れる食材によって味に変化があるため、カビーアさんの国では家庭毎にカレーの味が違うそうだ。

 スパイスを使った料理もたくさんあるから、小さい頃からスパイスがあるのが普通だったと言う。


「ハルト、ユウマ、パンと一緒に食べても美味しいよ?」

「ほんと? ぼく、ぱんもたべたいです!」

「ばぁば、ゆぅくんも~!」

「あら、それはいいわね! 私も食べましょ!」

「オリビアさん! 代金は払うからこっちもパンを頼む!」

「あ、こっちもお願いしたいわ! このカリーって言うの、とっても美味しい!」


 口々に美味しい美味しいと言って食べる僕たちを見て、カビーアさんの目はまた潤んでいる様に見える。

 そんな中、アレクさんもカリーを黙々と頬張りながら何かを考えているみたい。


「……なぁ、これそのスパイスってのを売るんだろ? オレたちみたいな冒険者はあんまり買わねぇかもしれねぇぞ?」

「えっ!? どうしてですか!?」


 頑張って売ろうと計画をしていたのに、それでは元も子もない。

 僕は思わずガタッと音を立てて立ち上がってしまう。

 アレクさんもオリビアさんたちも目をパチクリとさせている。


「ま、まぁ落ち着いて聞いてくれよ……! だって、オレとか周りの奴らも料理しねぇし、そもそも家なんて持ってるヤツ、あんまいないし。大体は依頼受けながら宿に泊まるか、野宿だろ? 場所にもよるだろうけど、スパイスを売るくらいなら、あんたがこのカリーって言うのを作って、すぐ食べれる様に売った方が、オレみたいな冒険者は買うと思う」


 まぁ、オレの考えだから当てにはならないけど、とアレクさんは言うが、それも一理あるかもしれない。


「……それならいっその事、カリー屋さんをしながら一緒にスパイスの販売をすればいいのでは……?」


 在庫が捌けなくてもカリーに使えばいいし……。それに、カリーの匂いで、絶対釣られると思う……。


「それも……、ありかも知れませんね……」


 カビーアさんも同じ考えだったのか、顎に手を置きうんうんと頷いている。


「まぁ、まずは二日後の行商市の売り上げ次第ですが……」


 そう言って眉を下げながら、最後に足搔いて見せますよ、と笑うカビーアさん。

 その笑顔がすごく悲しげに見えるのは、僕の気のせいじゃないと思う。


 どうか二日後、カビーアさんのスパイスがたくさん売れます様に……!!



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