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11 おいしいごはんと仕事先


 (ようや)くユウマが泣き止み、オリビアさんも落ち着いたところで皆でテーブルを囲む。こっちに来てから口にしたのは、(リューベ)のスープだけだったからなぁ……。今からすっごく楽しみだ。


 テーブルに並んだのは、じゃが芋(パタータ)のポタージュ、キャベツ(キャベジ)とトマトの卵炒め、南瓜(キュルビス)のミルク煮と、ふんわりしたロールパン。あとは、デザートにバナナが添えられている。

 ハルトとユウマも問題なく食べれるように、柔らかいもの中心に作られている。

 オリビアさん自慢のミートパイは、僕の体調が万全になってから改めてご馳走してくれるらしい。

 いまから楽しみが増えちゃったな。


「ポタージュは熱いから気を付けてね? パンはお替りもあるわよ」

「ユウマはこっちに座りなさい」

「はい、皆座ったわね? ではどうぞ、召し上がれ」

「「「いただきまーす(まちゅ)!!」」」


 まずは湯気の立つパタータのポタージュを、火傷しないように息を吹きかけ、そっと一口……、


「ふわぁ~~……! オリビアさん、すっごくおいしいですぅ……」


 あまりの美味しさに喋り方が少しおかしくなった気がしたが、あらよかった、安心したわ~、なんてオリビアさんは気にしていないようだった。


「おにぃちゃん、これも、おぃしぃです!」

「うわぁ……! ホントだ! 甘くて美味しい~!」

「ちゃんと、たべて! ぼく、みてます!」


 ハルトはコナーさんにお願いされたせいで、僕がちゃんとご飯を食べてるか見張っているらしい。

 鼻をフンスと膨らませて僕を見ているので、可愛くてつい笑ってしまう。

 パタータのポタージュはとろみもあって、身体がじんわり温まるのが分かる。キュルビスのミルク煮も、優しい甘味とホクホクとした食感がたまらない。

 ユウマに至っては、ロールパンをはむはむと口いっぱいに頬張っている。トーマスさんはユウマを膝に抱いて口元についたパンくずを取ってくれてる。

 ホントにおじいちゃんと孫みたいだ。自然と笑みが浮かんでしまう。

 ニコニコしながら食事をしていると、不意にオリビアさんが僕にお願いがあると言い出した。


「ユイトくん、お仕事探すんでしょう? もしよかったら私のお店、お手伝いしてもらえないかしら?」

「お店、ですか?」


 話を聞くと、オリビアさんは足を悪くしてから昼の間しかお店を開けていないらしく、近所の人や昔の知り合いにも夜はお店を開けないのかと聞かれるらしい。

 陽が沈んでからは簡単なつまみしか出していなかったが、娯楽の少ないこの村では結構お客さんで賑わっていたそうだ。

 はやく仕事を探して治療代を稼ごうとしていたんだけど、トーマスさんがオリビアさんに僕を雇ってみてはどうかと提案してくれたらしい。


「手伝いって、注文とか片付け全般ですよね? やったことはないですけど……、でも頑張ります! 僕でよければ、お手伝いさせてください!」


 僕としても、お二人の役に立てるなら願ったり叶ったりだ!


「本当? 助かるわ~! ここならハルトちゃんとユウマちゃんも、寂しくないものね?」

「おにぃちゃん、おばぁちゃんの、おてつだぃ?」

「そうよ~? お店と繋がっているから、いつでも会えるわよ~!」

「ほんと? あえるの、うれしぃです!」

「ゆぅくんも! にぃにあぇりゅの、うれち!」


 オリビアさんと弟たちがニコニコ話しているが、お店を手伝うにしてもオリビアさんの足も心配だよなぁ……。

 あ、そうだ。僕がオリビアさんの料理や仕込みを教えてもらえば、店番くらい出来るかもしれない……!

 そうすれば、オリビアさんにも安心して休んでもらえますもんね!

 そう矢継ぎ早に言えば、オリビアさんとトーマスさんは目を丸くして驚いていた。


「……なんて。……働いてもいないのに、なに言ってるんでしょうね、僕……。恥ずかしいです……」

「あら! ユイトくん、違うのよ。私の足の心配をしてくれてるなんて思わなくって……!」

「……いぇ、すみません……。生意気なことを言って……」


 あぁ~……! 仕事もしたことないくせに、僕は何を言ってるんだ……!

 オリビアさんはそう言ってくれてるけど、穴があったら入りたい……!


「ん~、そうだな……。ユイトに店のことを覚えてもらえれば、オレの心配は減るな」

「……え?」

「いや、ユイトは律儀にも治療代を返そうとしているだろう? なんの仕事をするかも分からないし、ユイトはお人好しっぽいからな……。騙されないか心配だ。オリビアの足も雨の日なんかはツラそうにしているし、出来れば店は休んでほしい。それにこの子たちも、ユイトがいないと心細いだろう? この子たちが泣くとオレも泣きそうだ……。それがだ、オリビアの店でユイトが働いてくれれば、オレの悩みは全て解決される。どうだ? 良い案だと思うんだが?」


 ふふん、と何故か胸を張るトーマスさんを見て、僕とオリビアさんは呆気にとられてしまう。


「なぁ、ハルト? ユウマ? おじいちゃんの考えはスゴイだろう?」

「うん! じぃじ、しゅごぃ!」

「おじぃちゃん、すごぃ、です!」


 二人してすごいすごい! と褒めてしまうものだから、トーマスさんは満面の笑みで頷いている。

 それを見て、思わずオリビアさんと一緒に笑ってしまった。


「ふふっ! ユイトくん、責任重大よ?」

「はい、頑張って働きます! よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくね!」



 この世界に来て三日目。

 僕は仕事と、やさしくてあったかい、頼れる人たちを手に入れた。



皆さま、ブックマークありがとうございます。

楽しんでいただけるよう頑張ります。

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