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112 妖精さんと事件の予感


「「あっ!! のぁちゃん!!」」


 梟の背中からひょっこりと姿を現したのは、オレたちが必死に隠そうとしていた妖精ノア。

 ハルトとユウマはノアとの再会に大興奮だ。

 ノアも“森の案内人”の梟の背中からふわりと舞い、ハルトとユウマ、そしてオレの頬にぎゅっと抱き着いた。

 んん……! 可愛いが、陛下たちの視線が突き刺さる様に痛い……!

 フレッド、耳と尻尾が出ているぞ……!


「のぁちゃん! あえて、うれしいです!」

「のぁちゃん、ゆぅくんもうれちぃ!」


 二人の喜びように、ノアも満足そうにふわふわと羽をはためかせている。

 ふと、ノアの視線が先程まで食べていたクッキーに釘付けになる。

 オレとハルトたちを見て、身振り手振りでこれを食べたいと言っている様だ。


「バージルへ…いや、バージル様、ライアン様。このクッキーが食べたい様なのですが……」


 オレからの突然の問いかけに、二人はビクリと体を揺らし、無言でコクコクと頷いた。


「ノア、これはユイトが作ったんだよ。あと、これはたぶん彼の姿じゃないかな?」


 オレが梟の形をしたクッキーを見せると、ノアよりも先に、“森の案内人”が反応した。

 ホォーっと一鳴きし、オレの傍に飛んでくる。


「なんだ? ハハ、お前も食いたいのか? 硬いと思うが大丈夫なのか……?」


 オレがそう言って梟の形をしたクッキーを手渡すと、それを嘴で器用に咥えて自分の羽にせっせと隠している。


「ブフッ……」

「こら、アーノルド! 失礼ですよ!」

「イーサンだって顔が笑ってるぞ?」


 その様子を見ていたアーノルドたちは、笑うのを誤魔化すのに必死だ。

 自分が笑われていると気付いたのか、梟は抗議の声を上げる。

 あれだな、森の外で見ると結構迫力があるな……。


 そんなオレたちを尻目に、ノアはクッキーに嚙り付こうとするが、ノアには大きくて支えきれない。

 見かねたハルトがクッキーを手で割り、小さくした欠片をどうぞ、と手渡している。

 それに嚙り付くと、お気に召したのか嬉しそうに羽をパタパタとはためかせた。


「スゴイです……! 父上……! 妖精は本当にいるのですね……!」

「あぁ……、私も初めて見た……。トーマス、どういう事か説明をしてくれるな……?」

「……畏まりました」


 ほらな、こうなるだろう……?

 最初から分かっていたんだよ、オレは……。






*****


「ほぅ……! それでユイトくんについて来たのか……!」

「妖精は菓子が好きなのですか……! 面白いですね……!」


 オレたちとノアの出会った経緯を話していると、イーサンがそれを興味深そうにメモしている。

 当のノアは、ハルトとユウマ、そして新しく出会ったライアン殿下と一緒に遊んでいるのか、三人の掌の上をぴょんぴょんと順番に飛び跳ねている。

 楽しいのかは分からないが、子供たちが嬉しそうに笑うので、きっと楽しいのだろう。



「すごいなぁ……。人形みたいだ……」

「クッキーを隠してから微動だにしませんね……」


 “森の案内人”の梟は、サイラスとフレッドにまじまじと観察されているが微動だにせず……。

 一度、生きているのかと確認しようとしたアーノルドは、梟に突かれてから近づこうとしない。

 あの嘴で突かれると相当痛いだろうなと、たやすく想像がついた。


「バージル様、惜しいですがお時間ですね。昼食をとり、次の視察へ向かわなければなりません」

「何……? もうそんな時間か……。ハァ……、妖精と過ごす事の方が重要だとは思わないか? イーサン……」

「そうですね、私も離れがたいですが……」


 今まで妖精に会い、こんな風に過ごしたことのある人間はどれくらいいるのだろうか。

 まさかこの年になって出会えるとは、ここにいる誰も思わなかっただろう。



「ん? どうした、ノア」


 ノアがオレの肩にふわりと舞い降り、それが当たり前かの様にすとんと座る。

 その際に淡く光った気がするが目の錯覚か……?


「……待て待て。オレみたいないい年をした男が、肩に妖精を乗せて外を歩けるわけないだろう?」


 ノアが自分も付いていきたいと言い出した。

 しかも姿を消すから、オレの肩に乗せてほしいと……。

 子供たちならともかく、こんな髭の生やした男を掴まえて何を言い出すのやら……。


「いや、それはそうだが……。ハァ……、バージル様に訊いてみるから待ちなさい」


 いつまで待っても来てくれないから、自分で会いに来たと……。

 まぁ、それはこちらが悪いのか……。

 森でみんな待ってるのに、とお冠だ。

 そのせいで、今回はあの梟も快くついて来てくれたらしい。

 連れてきてくれた梟は、ユイトのクッキーを手に入れてご満悦の様子だがな……。



「……おい、トーマス。さっきから何を言ってるんだ……?」


 オレがふと陛下たちの方を向くと、陛下たちは唖然とし、子供たちはキラキラとした眼差しでオレを見つめている。


「なんだ? どうかしたのか……?」


 訳が分からずに問いかけると、呆れたという風にイーサンが口を開いた。


「先程から貴方、その妖精と話しているかの様に見受けられますが……?」

「……は?」


 オレがノアと……?

 肩に乗るノアを見ると、にこにこと微笑んでいる。

 足元の梟はいまだに微動だにしないが……。


「おじぃちゃん、うらやましいです……!」

「のぁちゃんとおはなち! じぃじ、いぃなぁ~!」

「トーマスおじさま……! 尊敬します……!」


 子供たちのキラキラとした羨望の眼差しが痛いほどだ……。



 どうやらオレとユイトが森に行ったときに、自分たちと話せる様に魔力をありったけ注いだらしい……。

 道理で……!

 魔力酔いなんか人生で初めてだったからな……。



《 これで、おはなしできるね! 》



 にこにこと嬉しそうに笑うノアは本当に可愛らしい。

 だが……、


「意外と無茶をするタイプなんだな……」


《 だって、ゆいととおはなしできないもん! 》


 話を聞くと、ユイトにもありったけ流してみたが全く魔力が溜まらず、外に漏れていくだけだったらしい。

 おいおい、ユイトにまでそんな事を……?

 呆れてものが言えないが、これは重要な事を訊いたな……。

 という事は、ユイトには魔力がないという事になるのか……?


 それならあの“鑑定”のスキルは……?


 確認しなければならない事が出来てしまった。


《 ねぇねぇ、とーます! おうちいこ! 》


「……今日はまだ帰れないぞ?」


《 えぇ~、ゆいととおりびあにも、あいたい! 》


「それは二人とも喜ぶと思うが、今オレは仕事中だ」


《 しごと? 》


「そうだ。今日はハルトとユウマも一緒だが、しばらくは家に帰ってもほとんど会えないぞ?」


《 えぇ~~!? ぼく、とーますのまりょくをみつけたから、いそいできたのに~! 》


 どうやらフェアリー・リングの森は場所を転々と移動している様で、この別荘の近くからオレの魔力を感じたらしい。

 妖精とは凄いんだな……。

 今更ながら感心させられた。


《 ねぇねぇ、とーます 》


「どうした?」


《 さいきん、へんなのがもりのなかをでたりはいったりしてるよ? 》


「へんなの?」


《 うん。へんなひと! いっぱいまほうじんをはってるから、きをつけてね! 》


 森……、変な人……、魔法陣……。


 これは森の奥で見つけた魔法陣と一緒かも知れない……。

 これは、この護衛任務の間に何かが起きようとしているのは確実だな。



「バージル様、お耳に入れたい事が……」



 オレの真剣な表情に、皆緊張している様子。

 ノアから聞いた話をすると沈黙し、バージル陛下に至っては天を仰いでいる。

 子供たちにも危険が及ぶかもしれない……。

 ハルトとユウマには、絶対にこの場にいる者以外には口外しない様に約束させた。

 冒険者ギルドにも警備兵にも通達しなくては……。

 これは監視を続行してもらわなければならない重要案件だ。



「私の休暇が……!」



 ハァ……、そんな事だろうと思ったよ……。

 呆れたイーサンに、陛下は冷たい視線を向けられていた。


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