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10 新しい生活


「お帰りなさい!」


 トーマスさんの家に着くと同時に、奥さんのオリビアさんが笑顔で迎えてくれた。

 とっても優しそうな人で、内心ホッとする。軽く自己紹介だけで終わり、トーマスさんがほら入りなさい、と背中を押してくれた。

 ユウマははしゃぎ疲れたのか、抱っこがカーターさんからトーマスさんに代わっても全く起きなかった。冒険者って聞いたらはしゃいじゃうよね、しょうがないよ。僕もはしゃいじゃったし……。



「さぁさぁ、疲れたでしょう? ご飯は出来てるから先に身体を拭いてらっしゃい。着替えは明日一緒に買いに行くから、今日はこの服を着てね」

「はい、ありがとうございます。今日からお世話になります」

「ふふっ、こちらこそよろしくね。こんなに賑やかなのは何年振りかしら~!」


 そう言って、タオルと着替えを手渡された。

 どうやらこの世界のお風呂という物は、まだあまり一般的ではないらしい。カーティス先生に教えてもらったけど、一般的には桶に水か温くした湯を入れて、絞った布かタオルで身体や髪を拭くそうだ。もう少し暑くなれば近くの小さな湖に行って、水浴びもできるとか。

 街に行けば共同浴場があるみたいだけど、この辺りじゃ貴族の屋敷位だと言っていた。



「おにぃちゃん」

「あれ? ハルト、どうしたの?」


 気付かなかったけど、いつの間にか僕の後ろについて来ていたようだ。


「ぼく、せなか、ごしごし、します!」

「わぁ、ホントに? ありがとう! じゃあ、お願いしようかな」

「うん! まかせて!」


 絞ったタオルをハルトに手渡し、くるりと背中を向けた。小さな手でよいしょ、よいしょ、と拭いてくれる。

 こっちに来る前はずっと父親の顔色を窺ってばかりで、こんな穏やかな気持ちになるなんて思わなかった。女神様に感謝しないとな……。

 ふと視線を感じ後ろを振り返ると、トーマスさんとオリビアさんが涙を拭って、よかったよかったと抱きしめあっていた。二人は仲良しなんだなぁ。


 ……この人たちにもいつか、恩返しできたらいいな。





 服を着替えていると、隣の部屋から泣き声が響いてきた。

 どうやらユウマが目覚めたらしく、にぃにと泣いて僕を探しているようだった。慌てて部屋に向かうと、泣きじゃくるユウマがオリビアさんの腕から離れこちらに駆けてくる。



「……ック、にぃにッ、もぅ、どっかいっちゃぅの、やぁッ」



 僕の足にぎゅうっとしがみつき、ユウマの可愛らしい瞳からポロポロと涙が溢れている。

 その小さい身体を抱き上げて、背中をポンポンとあやす様にたたいてやる。


「ごめんね、ユウマ。もうにぃに、どっかに行ったりしないからね」

「……うぅ、ほんちょ……?」


 僕の肩で顔を埋め、ぐすぐすと泣くユウマを抱えなおし、おでこをくっつけて視線を合わせる。


「うん、本当だよ。これからは、ユウマとハルトがいやって言うまで、一緒にいるからね」

「ゆぅくん、やじゃなぃもん!」

「おにぃちゃん、ぼくも! ぼくも、やじゃなぃ!」


 ハルトまで僕の足にしがみ付き、頭をぐりぐりと押し付けている。

 あ~ぁ、髪の毛ぐしゃぐしゃだな、なんて考えながらしゃがみ、ハルトのこともぎゅうっと抱きしめてやる。

 あぁ、弟たちと一緒にいられるって幸せだなぁ、……と浸っていたら、また視線を感じた。


「うぅ……っ、よかった……! ほんとに……ッ、うぅっ!」


 オリビアさんがまた、トーマスさんに寄りかかって泣いていた。

 トーマスさんもオリビアさんの肩を抱きながら、目頭を押さえ何かに耐えているようだ。


 ふふっ! この人たちといたら、僕たち兄弟も幸せになれそうな気がする。

 僕も頑張って、なにか仕事を探さなきゃ。



 これからこんな幸せな日が、毎日続くといいな。



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