8.
「それはそうと、マリアちゃん。今日はお茶汲み、お疲れさまー」
「いいえ。いつもやってくださっている遙香さんの具合、大丈夫ですか?」
「あら、なんで庶務のことまで私に聞くの?」
「顔が広いからご存じかなぁって」
「まあ、知ってるけどね。風邪をこじらせたって」
「ということは……」
「お茶汲みリリーフピッチャーは、しばらくレギュラー入りね」
「はうう」
「ま、顧客の担当者の顔以外にハイレベルの面子も覚えたし」
「もっと上の方は来られるとかあります?」
「そんときは、『やーめた』って時だから、この段階で匙投げると違約金騒ぎになるから、多分ないと思うわよ」
「万一そうなったら、誰が来られるのですか?」
「向こうの常務。うちの社長とのバトルが始まるわよ」
「なんか、楽しそうですね」
「私がこの会社来る前に一度あったんだって。頂上決戦見てみたいじゃない? そんとき、お茶を運びたいじゃない?」
「願い下げます」
結局、顧客からの仕様変更は押しつけられた。
受けた以上、やらざるを得ない。しかも、プログラムの作り直し、デバッグのし直しで稼働がかかるのに、納期は変わらない。
マリアの会社の社員も「どうせそうなるだろう」と予測していたので、蜂の巣をつついたような騒ぎは起こらず、ため息が部屋中に流れただけだった。
費用は、さすがに新機能追加分は満額追加されたが、それだけだった。
費用追加は当然の権利であり、ごり押し仕様変更分をもらえなかったのは失敗であると言わざるを得ない。