6.
「あの堅物が出てくるときは、いっつもみんなが言うの。『また、ごり押しの仕様変更かよ』って」
「あの部長が仕様の決定権を握っていらっしゃるのですか?」
「ううん。あれはね、あっちの魔除けなの」
「魔除け?」
「どんな反論でも言おうものなら、『おたくらは、やる気あるのか!?』の一言で黙らせるのよ。恫喝部長とも異名があるの」
「ホントですか?」
「あー、今度、マリアちゃんに出席してもらって、『うちはもう、仕様変更は無理ですぅ!』って身もだえして反論してもらいたいわ」
「いやです」
「あの堅物部長、鼻の下をながーく伸ばして『かーわいー、許しちゃおっかなぁ。よっしゃー、ええでー』って――」
「なりません」
「あら、そう? マリアちゃん、魔除け対策に適任だと思うけど」
「私はお札ではありません」
「あらまあ」
「先輩。プログラム開発って、こうやって進めるのですか?」
「こうとは?」
「会議室で決まるというか――」
「恫喝外交で決まるとか? ……そうねぇ。そういう側面はゼロじゃないわよ」
「それって、おかしくないですか?」
「完璧な仕様が存在して、それに従って開発するのが正しいって?」
「ええ」
「そんな理想的な仕様なんかないわよ。仕様はお金を持っている人が決めるから、最後は力関係で決まるの。残念だけどね」