22.
『Take>外してどうするんですか?』
『Kanna>デバッグ担当に回ってもらいます』
『Take>今度から異常系の処理を設計に盛り込んでくれと言えばいいのではないですか?』
『Kanna>なぜ今までそれをあなた方が言わなかったのですか?』
タケルはキーボードの上で手が止まる。
『Kanna>設計書に書かれていないことは、コーディング担当者の裁量で決まります。大部分の異常系の処理が誰の承認も得ずに担当者の裁量で決まっているとしたら、システムの動作に誰が責任を負うのですか?』
カンナの書き込みの後に誰も書き込まないので、それが彼女の勝利を決定づけた。
『Kanna>コードのデバッグをほぼ一人でやっていた人がいるそうですが、誰ですか?』
マリアは、心臓がドキッと飛び跳ねた。
『Maria>私です』
『Kanna>あなたは、机上でバグを見つけることだけに専念してください。試験もコードの修正もしなくていいです』
『Maria>わかりました。修正は誰が行うのですか?』
『Kanna>設計書もコーディングも私一人で十分です。他の皆さんは、私が作る試験項目に従って試験だけ行ってください』
タケルが机を叩いた。
『Take>1万行ありますよ、このXサブシステム』
『Kanna>異常系を入れたら10万行になったはずです』
『Take>そんなに異常系って大事なのですか?』
『Kanna>システムのインフラとしての位置づけと重要性を理解できない人は発言しないでください』
『Take>顧客からそんな位置づけなんか聞いていませんが。重要だとは聞いていますが』
『Kanna>システムの全てを語る顧客なんかいません。当然、開発側は知っていると思っていますから。相手が知っているだろうと思うことは、あなただっていちいち言わないでしょう?』
タケルが反論を書き込んでいたが、彼はバックスペースで入力中の文字を消した。続けてカンナにこう書き込まれたからだ。
『Kanna>これ以上は議論の無駄です。Bさんの代わりに、今から皆さんへ指示を送ります。質問は全てここに書き込んでください』