21.
完全に自分と周囲との間に壁を作ってしまったカンナは、どうやってコミュニケーションを取るのだろうとみなが思っていると、社内のチャットルームに「Kanna」のハンドル名で突然現れた。
おそらく、マネージャーHが事前に誰かに指示してアカウントを取得しツールの使い方を教えたのだろう。
『Kanna>HさんからXサブシステムの設計書を見せてもらいましたが、これを設計したのは誰ですか?』
挨拶抜きの質問に、タケルがオネエ言葉ではなく普通の言葉で挨拶と返事を書き込んだ。
『Take>こんにちは、Kannaさん。設計書は顧客の承認を得ています』
間髪入れず、再質問が来た。
『Kanna>どこぞの誰が承認したって情報なんか正直どーでもいい。誰が設計したのですか?』
ムッとしたタケルが、キーを強めに叩く。
『Take>設計者が誰かってことが関係あるのですか?』
『Kanna>ある。異常系の処理がまるでない。これは根本的な問題。プログラムの8~9割は異常系の処理。それを抜いてしまうという発想の持ち主が誰かを知りたい』
『Take>なぜですか?』
『Kanna>上に進言して設計担当から外れてもらうため』
チャットで成り行きを見守っていた社員は、カンナの投稿に息を飲んだ。