19.
「美並さんの席はあちらかな?」
そう言って空席を指差すマネージャーHに対して、カンナの方に目を奪われている誰もが反応を返さない。
そこしか空席がないから二度目の問いをやめたHが席に向かうと、うつむいたカンナはHの後ろを子供のようにぴったりと付いていく。
割り当てられた机に案内されたカンナは、着席するとサッと周囲を一瞥して不安そうな目つきになり、肩をすぼめて下を向いた。
彼女が恥ずかしそうにしているので、ジロジロ見ている自分たちがいけないのかと、室内の社員は自分のモニター画面に目を向けた。
Hがカンナに自己紹介でもしてもらおうかと考えたその時、入り口から声が聞こえてきた。
「こんにちは。お荷物です」
ちょうど開いていたドアから、宅配便の業者が顔を出した。
パソコンが到着したと思ったHは、箱の多さに腰が抜けそうになった。PC本体とモニターと付属品以外に、ミカン箱で6箱あるのだ。
「美並さん、これって?」
二人の業者が2台の台車で重そうに運んできた荷物を見ずに、彼女が口を開いた。
「本」
蚊の鳴くような声に誰もが驚いた。もちろん、初めて聞く声。
そういえば、彼女は姿を現したときから今まで何一言口にしていなかったことに、誰もが今更ながら気づいた。