12.
マリアは、点検を依頼されているモジュールのコードがあまりにも単純バグが多くて呆れ、さらにコピーされてばらまかれた同じバグを修正する落ち穂拾いに飽きてきて、プロジェクトリーダBのところへ相談しに行った。
ノートパソコンの画面に顔を近づけキーボードをバリバリ叩いていらつく三白眼のBは、四十代の切れ者といった風体で、近寄りがたい雰囲気を周囲にまき散らしている。
「Bさん、ちょっとよろしいでしょうか?」
Bは画面に視線を貼り付けたまま、キーを連打する。
「よろしかぁないけど、何」
腰が引けるが、マリアはグッと我慢した。
「あのー、あまりにバグが多くて――」
Bは、チェッと舌を鳴らすが、一向にマリアの方を向かない。
少しの沈黙の後、ドキドキするマリアに返ってきた言葉は、
「時間がかかってもいいからやって」
Bは、自分が向き合うモニターに向かって「やって」に力を込めて言葉を吐く。
「コピーされて同じバグが大量に――」
「grepかけてsedで置換すりゃいいじゃん」
「単純バグが――」
「単純なら見つけんの楽じゃん?」
「それが――」
「何心配してんの? 残業代払わないって言ってないんだからやって」
取り付く島もないマリアは、一度もこちらを見なかったBに「失礼しました」と蚊の鳴くような声を残してその場を去った。