子宝
「子供は多ければ多いほうがいい!」
男はビールを一気に飲み干したら唐突にそういった。
「そうか? あんまり多いと手間もかかるし金もかかるし大変じゃねえか?」
俺も酒に酔っていたのだ。思ったことをそのまま口に出してしまう。
「かあ~。わかってねえな~。子供ってのはな、多けりゃそれだけ手間も金もかからねえんだぜ!」
「どうして?」
「そりゃおめえ。子供ってのはあんまり多いと、親が見てなくても自分たちでいろいろ教えあったり叱りあったりするもんなんだぜ。
親がちゃんとしつけなけりゃいけないのは三人までよ。それ以上はそんなに変わらねえ。それどころか今度は家事の手伝いまでし始める。手間はかかるどころか減る一方だ。
あいつら、おれの想像以上につかえやがる。」
「はあ~。そういうもんかあ~。
よし。手間がかからねえ理由は分かった。次は金もかからねえ理由ってのを教えてくれ。
お前にはたしか十二人くらい子供がいたよな。そんだけいるとなりゃ毎日食べさすにも、学校行かせるにもかなりの金がかかるはずだ。
それでも金はかからねえってのかよ。俺なんかひとり育てるだけでいっぱいだぞ。」
「・・・」
男はしばし黙り込んだ。それまでの酔いしれた朗らかな表情は薄れていき、鋭い目つきで俺に振り向く。
「すまん。金がかからねえってのはうそだ。
あいつら毎日馬鹿みてえに飯食いやがってまいったもんだよ。
だがな、それ以上に子供ってのは金をおれに運んでくれるのさ。
一人につき一億くらいか?
プラスマイナスプラスってな感じだ。
ま、おまえもたくさん作ってみることだな。」
男は妙な言い回しになったかと思えば気まずくなったのかそそくさと店を出た。
俺はどこか味が悪い空気をビールで喉奥に流し込んだ。そして一人で仕切り直しだ。
後日、男のもとで子供がひとり亡くなったと聞いた。
どうやら飛び出しによる交通事故らしい。事故を起こした相手はえらく立派な金持ちだそうで裁判はせずに示談で決着したそうだ。
俺はあの時の会話を思い出した。そして俺は今いる一人の息子を愛し抜こうと決意を固めた。むやみに増やすことなどしない。