1-6:エルフのおっぱいが柔らかい件について
教授コメント
『エルフの胸が特別柔らかいのか比較がされていません。比較対象に人間を入れてみてはどうでしょうか? できるものなら』
立ち上がり、出て行こうとする僕の服をアルメルが掴んだ。
あ、え?
ちょっ、首が締まるっ!
「ぐえ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなこと、危険よ!」
「い、今の状態の方が危険なんだけど!」
「そ、そりゃ、私だって納得いかないところもあるわ。でも、それでもセカイを危険に晒すのは嫌よ!」
「晒してる! たった今、君が晒してるから! 離して欲しいかな!」
「嫌よ! 離したらクイーンの所に行くんでしょ!」
「離さなくても逝くって、これ!」
あれ、おばあちゃん?
どうしてここに?
久しぶりだね。
なんだ、異世界に来てたんだ。
通りでお盆に現れてくれないわけだよ。
皆寂しがってるよ。
たまには顔だしてよね。
……て、違う、これ走馬灯だ!
あの世に行きかけてるよ、僕!
い、いい加減離してくれないと、本当に異世界転生が始まっちゃう可能性が……!
「うぐぐ……」
……あ、そうか。
これ、僕が踏ん張るのを止めれば首が締まることもないじゃないかな。
抵抗するから作用と反作用とか反重力とか反物質とかのせいで首が締まってるんだよ。
なるほど頭いいね、僕。
さすが伊達に大学生やってないねと褒めてくれていいんだよ?
というわけで、僕は流れに身を任せ、踏ん張るのを止めてみる。
あ、よかった。
首の締まりは緩くなったよ。
これで脳に酸素が行き渡るね。
ああ、呼吸ってこんなに気持ちが良いものなんだね。
「あれ?」
ただ、踏ん張らなくなったことで変わっていくことがあった。
それは、僕とアルメルの体勢だった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
アルメルに引かれるがままに倒れ込む。
釣り合ってた力の片方が無くなったらこうなるに決まってるよね。
うん、だって僕文系だしね。
正直物理は分からないんです。
「いててて、だ、大丈夫か、アルメ(むにゅ)……ル?」
おっと、この柔らかい感触はなんでしょうか?
なんだか似たような感触をついこの間触ったことがある気がする。
どこだっけな。パソコンの作業中に手首が疲れないようにクッションが付いてる、あの……あれだ!
そう!
おっぱいマウスパッド!
……おっぱい?
「う、うううう」
下を見ると、顔を真っ赤にしながら唸り声を上げているアルメルがいた。
はは、アルメルさん、小さい(ダブルミーニング)とか言ったけど、意外とあるんだね!
時に諸君、エルフの衣服は簡素なものである。
生地は薄く、触れてみると体温すら直接感じられる程である。
何が言いたいかというと……いや、これ以上は何も言うまい。
死人に口なし。
返事がない、ただの屍のようだ。
「い、いつまで触ってるのよ!」
「はい! すいませんでした!」
僕は飛び退いて、跪き、頭を垂れる。
これは命乞いのポーズではない。
もはや、どんな罰も受けるという意志を現した、贖罪の土下座である!
「煮るなり焼くなり骨を折るなり、好きにしてください!」
「そ、そんなことしないわよ!」
「いや、骨は折ろうとしてたけど……」
「あ、あれは別よ!」
「しかし、何かしてもらわないとこの掌に残る感触を忘れられないですけど⁉」
「そ、それは頑張ってよ!」
頑張ってどうにかなるならここまで独り身ちゃうわ!
え、関西弁?
僕、全然近畿出身じゃないのに?
「じゃあ、せめて殴るか蹴るかして痛みで上書きしてください。そうすればイケる!」
「ええ……」
あ、ドン引いてる。
勢いに任せてもSMプレイには興じてくれないんだね。
「仕方ないわね。じゃあ、小指出しなさい」
「あ、エンコ詰めね。承知しました。い、痛くしないでね」
おっぱいの対価なら一片の悔いなし!
あ、でも目は瞑るよ。
刃物見たら決心揺らぎそうだからね。
白状すると、実は一片ぐらいの悔いはあるからね。
「いくわよ」
「don’tこい!」
あ、このセリフ全然覚悟できてないね。
そんな風していると、小指に冷たくも柔らかい何かが触れる。
え、柔らかい?
刃物が冷たいのは分かるけど、柔らかかったら斬れないよね?
その感触に僕は首を傾げ、恐る恐る目を開けると差し出した小指にアルメルの小指が添えられた。
「指切りしましょう。クイーンのところには行かないって」
「え?」
「セカイは私のお客様なんだもの。危ないことはしないでよ。ただでさえ、他のエルフからは疎まれてるのに」
「ええと、そんなことでいいの?」
「それでいいの」
「おっぱいの対価が指切りで?」
「ちょっと! 思い出させないでよ……」
恥ずかしそうに顔を赤くし、目を逸らすアルメル。
ああ、なるほどなるほど。
僕わかっちゃったよ。
アルメルが森に認められないのはクイーンの嫉妬だわ、多分。
だって、可愛すぎるもん。
これを認めたらクイーンの地位が脅かされちゃうもんね。
分かる分かる。
「分かった。今日のところはおっぱいに免じて行かないでおくよ」
「忘れる気あるの⁉」
「正直、無理ちゃうかな」
関西弁も出ちゃいますよ。
「も、もう知らないわ!」
「あ、アルメル」
「ふんっ!」
背中を向けられる。
やばい、からかいすぎたかな?
交流失敗?
卒論再開か⁉
それはまずいですよ!
「え、ええと……」
こういう時は真摯に謝るべきなのです。
自分の非を認めてこそ、人は前に進めるのである。
「本当にごめ……」
待てよ? エルフの戒律では小枝を折られたら骨を折るんだよね。
『目には目を歯には歯を』っていうハンムラビ法典で唯一有名な法律と似たような文化がエルフにはあるということだ。
なら、僕がアルメルに差し出すべきものはただ一つ。
「アルメルっ!」
「なによ……って、きゃっ!」
僕は徐にシャツを脱ぎ捨て、半裸になる。
「な、なんで脱いでるのよ!」
「僕はアルメルのおっぱいを揉んでしまった。だから、アルメルも僕の胸を揉んでいいよ!」
「揉むわけないでしょっ!」
「痛いっ!」
バシンと胸板を叩く乾いた音が響く。
再びアルメルは赤い顔を隠すように背中を向けてしまった。
しかし、なんだかチラチラとこちらに視線を向けてくるのはなんでだろうか。
あ、もしかし、本当は揉みたいのかな?
「揉む?」
「揉まないわよ! もういいから、早く服を着てよ!」
「はーい」
異文化交流は難しい。
そう再認識したのだった。
おっぱいは正義。
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