1-5:森に認められないエルフが落ちこぼれと言われる件について
教授コメント
『各部族に見られる成人の儀のようなものでしょうか。とても興味深いです。ぜひ、認められない理由を明瞭にしてきてください』
そう言えば、いつからか写真に写りたがらなくなったんだっけね。
小学生の頃は、自然学校とか修学旅行とか、カメラマンが同行するといつも後を追いかけて写りまくった記憶があるよ。
それで、帰ってきてから写真を買う時に親にあんた何枚買うのよって怒られてたんだ。
だって、全部に写ってるんだから仕方ないよね。
でも、僕がメインの写真は少ないんだ。
だって、カメラマンが取ろうとしたところに後ろから写りに行くから。
だからいつも僕は写真の端っこに居る。
隅っこにいるんだ。
メインにはならない。
それに気付いたらなんだか虚しくなってきてさ。
カメラを追いかけることはなくなったんだ。
あと、好きな子が俺の写ってる写真を頑なに買いたがらなかったのが一番堪えたね。
あれを友達から聞かされた日は枕を濡らしたよ。
「鏡って、残酷だよね」
「何があったのか知らないけど、私より落ち込まないでくれる?」
「あ、そっか。アルメルの悩みを聞くんだったね」
「そうよ。私の悩みを聞くのに、セカイの方が落ち込んでたら話しにくいじゃない」
「ごもっともです」
まあ、今更気にしてないけどね。
好きだった子も中学で激太りして、なんだかセンチメンタルな思い出になっちゃったし。
世の中、顔じゃないよ。
学歴だよ。
卒論免除バンザーイ。
「はい。これでも飲んで元気出して」
そう言って差し出されたコップからは何やら湯気が立ち上っている。
「なんです、これ」
「エルフの森に伝わる秘伝の紅茶よ」
「ほう、秘伝」
これはまた好奇心をくすぐる単語が出てきたね。
「僕知ってるよ。これ飲んだら秘めたる能力が解放されたりするんだよね?」
「ただのお茶よ」
「あ、はい」
木製のマグカップに入れられたエルフの紅茶は透明感のある緑色をしていた。
匂いをかいでみるとスーッとした清涼感のあるハーブ系の香りがする。
「あ、美味しい」
「よかった。口に合わなかったらどうしようかと思ってたの」
「ハーブ?」
「そうよ。エルフの森に自生する葉を使ってるの」
「へえ。口当たりはよくあるハーブティーだけど、なんかのど越しがあるというか、なんというか。呑み込んだ時に喉の辺りが熱くなってくるね」
「え、嘘っ」
「え、なにその反応」
アルメルが目を丸くして驚いている。
まさか、こののど越しは僕が感じちゃいけない系の感覚だったのかな?
いや、そんなのど越しがあってたまるか。
そんなのがあったら、おちおち炭酸だって飲めないよ。
僕、炭酸を呑んだ時の喉が痛い感じが凄い好きなのに。
……Mじゃないよ?
「この紅茶には少しだけどマナが含まれているのよ」
「マナというと、自然の魔力みたいな感じ?」
「それであってるわ。で、マナを呑むと、その者の最も魔力効率の良いところに取り込まれて熱を帯びるの」
「もしかして、俺の喉が熱いのって……」
「異世界人も魔法が使えるのね。凄いじゃない」
「そんな馬鹿な……」
生まれてから22年間。
科学にどっぷりつかっていたこの体が実はファンタジックな適正を持っていたなんて、驚きだね。
しかも喉に。
喉に魔力って何するの?
歌うの?
ヒトカラガチ勢の僕の唄声に酔いしれるのかな?
「異世界人はみんなそうなのかしら?」
「え、ああ、そっか。僕だけが特別ってわけじゃない可能性もあるんだね」
なんか、それはそれで寂しいね。
「こっちの世界にはマナも魔法もなかったからね」
「そうなの? 異世界は不便ね」
不便ではないけど、窮屈ではあるかも。
「それで、悩みっていうのは?」
「あ、うん。それなんだけど……」
アルメルは少し表情を曇らせる。
「さっきの奴がいってたじゃない、落ちこぼれって」
「うん」
「エルフはね。100歳になると斥候になるための試験を受けるの」
「斥候って言うと、偵察とか追跡とかする役職だよね」
アルメルは頷く。
けど、ここでの斥候の役割はエルフの森の見張りとかなんだろう。
さっき俺の腕を助けてくれた斥候も森の外に出る気配はなかったもんね。
あくまでも森を守るための戦闘員なんだろう。
「弓とか、移動技術とかの試験もあるんだけど、一番重要なのは森の木に認められることなの」
「認められる……って言っても、どうやって判断するの?」
「? それは木に話しかけて、認めてもらうだけよ」
「ああ、そうなんだ」
エルフは木々と対話ができるらしい。
僕と言葉が通じるのも、これはエルフ側の特徴だと思ってよさそうかな。
「そこで認められて、初めて斥候としての仕事が任されるの」
「でも、認めてもらえない、と」
「ええ。唯一認めてくれたのはこの木だけ。他の木は、どうしてか私を認めてくれなかったの」
「どうしてか、理由は教えてくれないの?」
「そうよ」
「うちの教授みたいな木々なんだね」
「教授?」
「うちの先生だよ。何も言わない放任主義のくせに、発表の時にはめちゃくちゃ質問してくるんだよ。それで、その質問が鋭いし的を射てるからしんどいんだよね。そんなに質問するなら、事前にちゃんと指導してよって話だなんだけどね。そうしたら、前もって調べてくるのに」
まあ、単位はくれるから文句はないけどさ。
けど、やっぱり理由とかは先に言ってくれないと、対応できないよね。
「先生とはわけが違うわ。だって、私たちエルフは森と共に生きてきたのよ。森が要求することは自然と身についているはず。なのに、それができてない私が悪いのよ」
「暗黙の了解みたいなものなのかな」
でも、明文化されてないんだから分からない奴が出てくるのも当然じゃない?
それを教えることもせずに放置して落ちこぼれのレッテルを張るのは間違ってるよね!
「よし分かった」
「何が分かったのよ」
「僕が聞いてくるよ」
「え?」
アルメルが目を丸くする。
「俺が一番偉い人に、なんでアルメルが認められないのか聞いてくるよ!」
言わなくても分かるよねって風潮、僕大っ嫌いなんだよね!
そんなわけで、ちょっとクイーンの所に殴り込みに行ってくるよ!
最初の文章は読み飛ばしてもらって大丈夫です。
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