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1-4:イケメンエルフの性格が悪い件について

教授コメント

『イケメンと性格の悪さの相関関係が不透明です。このレポートからは、だとすると君は性格がとてもいいのですか?という疑問が浮かび上がってきます』

 その後、斥候は僕の顔を一瞥すると、どこか嫌そうな顔をしてさっさとどこかへ行ってしまった。

 あれ、やっぱり枝を折ったことに怒ってない?


 というか、人の顔見て嫌そうにするって一体どういうことなの?

 泣いちゃうよ?


 そんな斥候とは対照的に、アルメルはすごく申し訳なさそうに僕に頭を下げた。


「本当にごめんなさい!」


「いや、そんなに謝らなくていいよ。あと、頭を下げる勢いが凄すぎて僕の顔に髪の毛が……」


 視界がアルメルの髪で埋め尽くされる。

 あ、いいにおいがする。

 なんというか、石鹸とかの匂いじゃないんだけど、花畑とかで香ってくるような甘い匂いだ。


「わ、わわっ! ごめんなさい! 私、こういうの初めてでつい舞い上がっちゃって」


「舞い上がったら骨を折ろうとするんだ」


「そ、そうじゃなくて、務めを全うしようと必死だったの!」


「はは、大丈夫。分かったから、分かったから」


 アルメルは頬を膨らませて詰め寄ってくる。

 100歳なのにやけに仕草が子供っぽいからなんだか可愛い。

 これは、もしやロリババアというジャンルなの? 


 いや、そうとは言えないんじゃないか。

 ロリババアは口調と精神年齢が成熟してなきゃいけないと思うんだよね。

 見た目は幼くも頼り甲斐があって、世話を焼いてくれるような包容力こそがロリババアの魅力!


 その点でアルメルは違う。

 彼女はただの可愛くて幼い100歳の女の子だ。

 つまりは紛い物。

 言うなれば、ババアロリ!


「ババロアみたいでおいしそうだね」


「? なにそれ?」


「えーと、こっちの世界のなんか甘い、デザートみたいな奴……かな?」


「なんで疑問形なのよ」


 だって、ババロアなんてオシャレデザート食べたことないもん。

 一人でオシャレカフェなんていけないし、食べに行く相手もいないからね! 

 うっ、涙が。


「それより、着いたわよ。ここが私たち、エルフの町よ!」


「おお」


 町、というからには整地されているのかと思っていたけど、そんなことはなかった。

 むしろ、ここまでの道のりと変わらず、大木の立ち並ぶ景色だ。

 でも、その大木には木材で作られたツリーハウスが建てられている。

 そんな風に家が建てられた木々が密集しているから、ここは町と呼ぶんだろう。

 

「これは、すごい光景だね」


「ふふん。でしょ? エルフの町はすごくきれいなのよ」


「森と生きるって言うのがしっくりくるね。確かにこれは共存してるよ」


 ん?

 でも、枝を折っただけで腕を折られるのに、どうやって家を作る木材を集めるんだろう。

 まさか自分たちのためなら切ってもオッケーなんてご都合主義なのかな?

 侵入者は駄目だけど、自分たちは家族だからセーフみたいな?


「家を建てる木はどうやって集めているの?」


「それは木にお願いするのよ」


 木にお願い?


「お家を建てたいので木材を下さいって。そしたらちょうどいい太さの枝を落としてくれるわ」


「へえ。なるほどファンタジックな交渉だね」


 紛うことのない共存だったね。疑った僕を許しておくれ。


 そんな風に町を眺めていると、一人の男エルフが僕らの存在に気づき、近づいてくる。


「おっ。ドジのアルメルが帰ってきたぞ」


「うるさいわね。こっち来ないでよ」


「なんだよ。つれねえな。お、そいつが話に出てたよそ者か」


「おっと、あまり歓迎されてない感じなのかな?」


 僕がそう口を挟むと、あからさまに嫌な顔をしてイケメンエルフは僕を睨んでくる。

 うわ、怖い。


「歓迎なんてするわけないだろ? 薄汚い足で森に立ち入るなんて、クイーンが許可しなきゃ即座に俺が射殺してるね」


「ちょっと! セカイはお客様よ!」


「客だなんて認めてるやつは誰もいねえよ。だから、お前に仕事が廻っていったんだろ、落ちこぼれのアルメルよぉ」


「う、うるさい!」


「おお、こわっ。ま、精々お務めを全うするんだな。誰も望んでないお務めをな」


 え、性格悪くないですか?

 性格悪いくせにイケメンとか、ちょっと僕が何言っても僻みにしか聞こえなくなるから性質悪いじゃないか。

 イケメンならイケメンらしく、振る舞いもイケメンしてほしいよね。

 それがイケメンの義務だし、そしたら僕も心置きなく『やだ、イケメンっ!』って濡れるのに。


 まあ、そういう反感は顔には出さなかったけどね。

 あんまり関係が悪化するのは僕も望んでないからね。

 そうしていたらいつの間にかイケメンはどこかへ行ってしまった。

 

 あれ、本当にちょっかいかけに来ただけなのかな。

 暇なの?

 暇なのか?

 イケメンなのに?


「さっきのは一体?」


「……何でもないわ」


「その顔でなんでもないって言うのは、流石に無理があるよ、アルメル」


「うっ……」


 可愛い顔が台無しなくらいにアルメルは落ち込んでるみたいだ。

 ドジとか落ちこぼれとか、聞き捨てならない言葉も聞こえてきけど。

 アレがイケメンじゃなくて、かつ僕が肉体派だったらぶん殴ってるところだったよ。

 どっちの条件も当てはまらなくて命拾いしたね!

 僕が!


「僕は君たちと仲良くなることが目的だから。だから、悩みとかあるなら一緒になって悩みたいんだ」


「セカイ……」


「レポートのためにも」


「……それが何かは分からないけど、台無しだってことは分かったわ」


「わお、流石エルフの洞察眼」


 なんだか、アルメルはため息をついて呆れ顔になってる。

 でも仕方ないんだよ、アルメル。

 こっちの世界では大卒っていうのは大切なんだよ。


「いいわ。よそ者だけど、セカイになら教えてあげる」


「わーい」


「なによそれ」


 僕の軽い調子にクスリとアルメルが笑う。

 よかった、ちょっと元気になったみたい。

 女の子を慰めるためにお道化るって、なんかイケメンじゃない? 

 え、もしかして、僕、イケメンになっちゃったかも⁉


「それじゃ、私の家に案内するわ。そこで、一息つきながら話しましょ」


「アルメルの家って、鏡はある?」


「鏡? あるけど……何に使うの?」


「僕のレベルアップの確認」


「は?」


 怪訝そうな顔をするアルメル。


「いや、気にしなくていいんだ。こっちの話だから」


「そうなの? 異世界人はよく分からないわね」


「それはお互い様でしょ?」


 そうしてアルメルは俺の手を引き、家に案内してくれようとするのだけど……。


「あれ? 町は?」


「……」


 何故かアルメルが連れて行こうとするのはさっき見せてくれたエルフの町とは反対方向であった。


「私の家は、あっちだから」


「……そうなんだ」


 何かを察して押し黙る。

 どうやらアルメルの家は町にはなく、少し離れたところにあるということなんだろう。

 事情はさっぱり分からないんだけどね。


 けど、何となくアルメルの立場が分かってくるね。

 それと同時にアルメルに対応を任された僕の立ち位置も理解できた。

 多分、あのイケメンの言う通り、僕はエルフから歓迎されていないんだろう。


 あれ、おかしいな。

 異世界特区は日本と友好なんじゃなかったの?


「ここが私の家よ」


「おー、すごい立派じゃない」


「どこがよ」


 ここ、というのは大きな木の根っこの部分をくり抜いたところに窓や扉が付けられたこれまたファンタジックな佇まいの家であった。

 100エーカーくらいある森に住んでるぬいぐるみたちの家に似た趣があるね。


「さっきの町に比べたらそりゃ劣るかもしれないけど、僕はこう言うのも好きだよ。だって、趣があっていいじゃない」


「そう言ってくれるなら、ちょっと嬉しいかも」


「自分で作ったの?」


「ええ。木に頼んでね。唯一住まわせてくれたのがこの木なの」


「へー」


 ん、唯一?


「その辺も、説明するわ」


「お願いします」


 そうして、扉を開けようとするアルメル。

 けれど、どうにも開けにくそうなのはなんでだろうか。


 ……ああ、そうか。

 ずっと手を繋いだままだからだ。


「アルメル」


「なによ」


「そろそろ手を離してもいいよ?」


「手……? あっ! そ、そうよね! うん。ここなら射殺されないもんね!」


「うわ、そうだった。逸れると殺されるんだった。もう少し繋いでいようか」


「ええっ⁉ で、でも、そんな……」


 あわあわと戸惑った様子を見せるアルメル。

 落ち込んだり、笑ったり、赤くしたり、忙しいね。


「も、もうおしまい!」


「あら残念」


「つ、次は帰るときだから! それまではおあずけ!」


「はーい」


 なんだか犬みたいな言われ方だけど、まあいいや。


「じゃあ、お邪魔しまーす」


「あ、あんまりじろじろと見ないでよ」


「うん。あ、鏡はどこかな?」


「え、ええと、奥の部屋にあるわ」


「ありがとう!」


 そうして俺は鏡の部屋へと直行し、現実に直面し、直視できず俯いて、己の阿呆さを直感したのだった。


 そう、顔面は、レベルアップ性ではなかったのだ。



イケメンはイケメン税として性格もイケメンでいてください(血涙)


読んでくださりありがとうございます。

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