3-1:死闘を繰り広げたドラゴンがドラゴニュートのお姫様だった件について
教授コメント
『人型になっても角が残っているのは面白いですね。角にも何かしらの機能が備わっているのかもしれません。遠くにはすでに山が見えているのですね』
さてさて、町を出て歩き始めて十分が経ちました。
うん、たった十分なんだ。
まだ後ろを向けば、フェルランの町は見えるし、その奥のピュイなんとか火山なんかも見えている。
詰まる所、まだほとんど進んでいないんだけど、どういうわけか僕は街道の脇の草原に座りこんで、その歩みを止めていた。
「もう、疲れたー!」
ドラゴニュートの少女、シャーロットは両足を地面に投げ出し、座り込んでしまう。
真っ赤な髪をかき分けるように生える二本の角。
大きく、クリクリとした瞳に少し幼さを残した口元。
アルメルよりも背の低いこの少女が僕と死闘を繰り広げたドラゴンと同一人物だと思うと、何とも不思議な感覚だね。
そんなシャーロットがもう歩けないと言うので僕らは休憩を取ることにしたのだ。
町から出た目と鼻の先で。
「まだ、全然進んでない」
「進んだか進んでないかなんて言ってないでしょ! あたしは、疲れたって言ってるの!」
「まだ疲れるような距離じゃない」
「あたしは疲れるの!」
ナディアとシャーロットはそう言ってにらみ合う。
うーん、なんだかあの二人は相性が悪そうだね。
ナディアは真面目だから、シャーロットの横柄な態度が気に食わないのかも?
「まあまあ、落ち着いてよ、ナディア」
「分かった」
「え、切り替え早いね」
これから説得フェイズだったのに。
「そうだわ。あんたがあたしを背負って歩きなさいよ」
「僕が?」
「そうよ。その鞄は他の奴に持たせて、あんたはあたし専属の馬になるの」
「馬なら私がいるが」
「いや、それはまずいでしょ」
エルがユニコーンのままだと人目が気になって仕方ないからね。
「ちょっと! いくらドラゴニュートの姫だからって、我儘が過ぎるわよ!」
そう、何を隠そう、彼女はこれから向かうアルベス山脈にあるエンシェントドラゴンの国、ヴィノワズ竜王国のお姫様なんだって。
まあ、だから我儘だっていうのはちょっと安直かもしれないけど、少なくとも甘やかされてはいそうだよね。
「なによ。ちょっとくらいいいじゃない」
「駄目よ。セカイに背負ってもらうなんて、そんな羨ま、横暴なこと許されないわ!」
「同意」
アルメルとナディアが反対する。
でも、僕はシャーロットの言葉に強く反発できないんだよね。
まあ、なんでかって言うと……。
「見なさいよ、あんたたち。このお腹のおっきな痣を!」
そうして服を捲り上げ露わになったお腹。
その下腹部辺りに紫色の大きな痣があった。
うん、もうお察しの通り、あの痣は僕が最後に撃ったメテオストライクによってできたものです。
「乙女の柔肌を傷モノにしたのよ? それくらいしても罰はあたらないんじゃないの?」
「貴女が暴れてたから不可抗力」
「あたしだって暴れたくて暴れてたわけじゃないわよ!」
その痛々しい痣を見せられると凄い罪悪感を感じるよ。
あんなに柔らかくてすべすべそうな肌を気付つけちゃうなんて、何たる失態!
「うう、ごめんね、シャーロット」
「ふん。あんたはちゃんとわかってるじゃない。ほら、はやくそこにしゃがみなさい。乗るから」
「はい、どうぞ」
「ちょっと、セカイ!」
アルメルが僕を咎めるように声を上げる。
「いいんだよ、アルメル」
「でも」
「傷つけたのは事実だからね。それに、シャーロットくらい軽いもんだよ」
僕も我儘を言われるのは好きじゃないけど、シャーロットは仕方ないところがあるからね。
なにせ、お姫様だし。
無茶なことを言われない限りは別に聞いてあげてもいいかなって思っちゃう。
だって、可愛いから。
可愛いは正義って言うじゃない?
「ふふん。良い心がけじゃない。あんた、あたしの家来にしてあげてもいいわよ」
「はは。それは遠慮しておくよ」
シャーロットは僕が断ったことに頬を膨らませた。
「むー。あ、あとで後悔しても遅いんだからね!」
家来になれなかったのを後悔するってどういう状況だろう。
就職できなかった時とかかな?
あ、それは確かに後悔しそう。
だって、王族付きの家来だもんね。
給料高そう。
「はあ、セカイは本当にお人好しなんだから」
「え、そんなことないけどなあ」
「そんなことあるわよ」
「肌で感じた」
「は、肌っ⁉」
「そういう引っかかる表現はやめてね、ナディア」
シャーロットが本気にするから。
……ん?
あ、でも、あながち間違ってないかもしれない。
「それじゃあ、出発と行こうか」
「おー!」
そうして僕らは再び街道を歩き始める。
シャーロットの脚を脇に抱えながら荷物を持つのは、なんとなく普段使わない筋肉を使うからか辛いところがあるね。
そんな僕を見かねてか、アルメルがこっちに寄ってくる。
「セカイ、荷物持つわよ」
「ありがとう、アルメル。助かるよ」
「えへへ。いいのよ、気にしないで」
そう言って笑ってくれるアルメルに右手の荷物を渡す。
うん、すごく楽になった。
それを見て、今度は反対側にナディアが寄ってくる。
「セカイ、私も持つ」
「あ、ありがとう、ナディア。でも、重くない?」
ナディアは野営用の一式を担当してくれているから、そもそも荷物が重いはずだ。
「大丈夫」
「そっか。ナディアは頼りになるね」
「でしょ」
ナディアは嬉しそうに口元を緩め、荷物を持ってくれる。
おお、両手が空くとこんなに楽になるなんて。
みんなが優しくて、僕は幸せ者だね。
「むー」
けれど、そんな光景を見ていたシャーロットはどういうわけか不満そうに声を漏らした。
「あ、あたしも何か持つわ」
「いや、シャーロットが持っても僕が重いだけなんだけど……」
「いいから、持つって言ってるでしょ!」
「じゃあ、これを頼もうかな」
シャーロットにエルが何かを差し出す。
それを受け取り、シャーロットは首を傾げた。
「……なにこれ」
「それはフェルランで買ってきた焼き菓子なんだ。街を歩いている時にいい匂いがしてきたから、ついつい買ってしまったんだ」
「お菓子なの⁉」
振り返ってシャーロットの顔を見ると、満面の笑みを浮かべていた。
「た、食べていいかしら?」
「もちろん。気に入ってもらえるといいんだけど」
「わぁっ!」
歓喜に声を漏らし、シャーロットは無邪気に袋を開けていく。
そこから取り出したフィナンシェみたいなお菓子を一口頬張ると、シャーロットは破顔していく。
頬に手を当て、その美味しさを堪能している彼女の表情はなんというか、相応の少女らしさを見せていて、僕は思わず微笑んでいた。
「むっ、な、なによ」
「え? あ、いや、何でもないよ」
シャーロットは僕の視線に気づいて、睨んでくるので僕は前に向き直る。
ここでまた可愛くて微笑ましく思っていたなんて素直に答えたらややこしくなりそうだもんね。
「もう。しょーがないわね!」
「わわっ!」
いきなり頭に圧し掛かられて、僕はふらつく。
シャーロットは僕の頭を抱える様に抱き、上から覗き込んでくる。
「ど、どうしたの、シャーロット」
「ちょっと、口開けなさいよ」
「え、口? あーんんっ!」
いきなり口に何かを押し込まれる。
ん、バターとアーモンドの風味が口に広がって、こ、これはっ!
「美味しい!」
「た、食べたかったんでしょ。感謝しなさいよね!」
「うん、ありがとう、シャーロット」
そう素直に返すと、シャーロットはどこか驚いたように目を丸くした後、照れるように頬を少し紅潮させた。
「ふ、ふん」
素直じゃないけれど、無邪気で裏のないドラゴニュートのお姫様。
そんなシャーロットと共に、僕らは遠くに見えるアルベス山脈へと向かう。
ドラゴニュートという特殊な種族の調査が、これから始まろうとしていた。
エディルメモ
『属性、ツンデレ』
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