2.5-1:エルフとダークエルフの少女に甲斐甲斐しくお世話されたい件について
教授コメント
『何か始まったんですが』
さて、目を覚ましたらやっぱりアルヴェルさん家のベッドに居るわけだけど、なんだかんだまだ身体は動かないんだよね。
温泉で身体の壊死していた感覚器官は回復したんだけど、どうしたものか。
多分、筋肉を動かすための神経がつながっていないんだろうと思う。
だから、僕が頭で『動け、動いてよ』って言っても動かないんじゃないかなって思うってる。
まあ、医学に明るいわけじゃないから適当なんだけどね。
そんなわけで、完治していない僕は朝ご飯さえ一人では食べられない現状なのだった。
「ほら、セカイ。あーんして」
「あーん」
「セカイ、あーん」
「あーん」
「サラダ食べるわよね? ほら、口開けて」
「ま、まだ、そしゃくちゅ、むぐっ!」
「スクランブルエッグ、美味しいから」
「そうかもしれないけど、待ってほし、むふぅ!」
アルメルとナディアが左右から競い合いように朝食が運んでくれる。
両手に花と言うべき状況なのに、パンパンになった頬がそれを許してくれない。
「はい、セカイ。紅茶よ。温かいうちに呑まないとね!」
「ま、まっへ。まだ、口に、あっちぇえ!」
「朝は牛乳。はい」
「び、瓶をそんなに傾けると、あばばばば」
唇を火傷し、口の端から牛乳がこぼれ、胸元がべちゃべちゃになる。
シャツの張り付く感じがけっこう気持ち悪い。
「ほら、ナディア。貴方が無理に飲ませるから零れたじゃない」
「アルメルはセカイに火傷させてる」
「私に任せてくれてたらこうはならなかったわよ」
「私の方が、上手い」
僕を挟んで二人がにらみ合う。
これは、喜んでいいんだろうか。
二人が僕のことを想ってくれてるありがたい状況ということでいいんだよね?
なら、僕が仲裁すれば丸く収まるということだ。
なんたって、僕のために争っているわけだもんね。
その当事者である僕がいさめれば、二人とも素直に聞いてくれるはず。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
「セカイは黙ってて!」
「セカイ、うるさい」
「はい、すいません」
僕は動かせる首を思い切り下げて謝る。
あれ、おかしいな。
本当に二人とも僕のために争ってるんだよね?
「いいわ。なら、こうしましょう」
「なに」
「どっちがセカイの世話をするに相応しいか、勝負しましょう!」
アルメルがナディアを指さし、勝負を申し込む。
「望むところ」
それを受け、ナディアは自信有り気に胸を張り息巻く。
うーん、なだらか。
そんな時、“バアン!”と扉が勢いよく開き、アルヴェルさん家のメイドさんが姿を現した。
「話は聞かせてもらいました」
「び、びっくりした」
心臓に悪いよ。
メイドさんの登場にアルメルが振り返る。
「あ、貴方は!」
「申し遅れました。わたくし、アルヴェル様に仕えるメイド、セバスティアーナです。気軽にセバスちゃんと呼んでください」
「ちょっとニュアンス変わるよね、その呼び方」
どっちかと言うと執事さんの名前だよね。
「おだまりなさい、甲斐性無し」
「甲斐性無し⁉」
否定できないけど、酷くないですか⁉
曲がりなりにもドラゴンスレイヤーだよ⁉
「女の子に心配させる男に甲斐性がありますか?」
「ないですね、ごめんなさい」
朝から何回謝ってるんだろう、僕は。
えーと、あ、まだ二回か。
「セバスちゃんさん」
「はい、なんでしょう、セカイさん」
あ、この呼び方でもいいんだ。
「あの、今のところ話を聞いただけなんですけど、何しに来たんですか?」
「それを今から説明しようとしてたのに、セカイさんが茶々を入れたのでは?」
「あ、はい。ごめんなさい」
やっぱり謝ってばっかだね!
「どちらがこのヒモ野郎を世話するに相応しいかを勝負したいという話ですよね」
「どんどん呼称が酷くなる……」
「おだまりください」
「はい」
スッと細くなったセバスちゃんさんの目に睨まれる。
こ、こわっ!
なんか猛禽類のような鋭い視線が突き刺さって、萎縮しちゃったよ。
「しかし、勝敗を下すには審判が必要です。それをそこのペテン師に任せるのは愚策中の愚策」
「まあ、確かにセカイに任せたら決着はつかなさそうね」
「優柔不断」
「優しいって言って!」
というか、二人で協力してくれたらいいだけの話だよね⁉
「そこでプロフェッショナルであるわたくしが馳せ参じたのです」
「おー」
「この道三ヶ月、路銀稼ぎに金持ちに仕えてみたら給金が良すぎて居ついてしまったわたくしが、貴女たちに優劣を付けてあげましょう」
「お?」
あんまり信頼できないエピソードが明らかになってきたぞ?
「三ヶ月でプロフェッショナルは、ちょっと……」
「シャラップ」
「イエス、マム!」
逆らわない方がいいんだろうね。
アルメルもナディアもなんだか感心したような表情してるし。
「どうすれば、いい?」
「ここはメイド三番勝負で、雌雄を決してもらいましょう」
「め、メイド三番勝負⁉」
絶対ロクな勝負じゃないと思ってしまうのは僕が悪いんだろうか。
「そ、それはどういう勝負なんですか?」
アルメルはどこか興奮気味に聞く。
そんなアルメルの反応にセバスちゃんさんは満足げな表情をする。
「それは、メイドに必要とされる技術、精神、そして、愛嬌」
無表情のままセバスちゃんさんは腰に手を当て、片足を上げ、プリティーなポーズを取った。
「シュールだ」
「何か言いましたか、
「何でもないです」
プリティーなポーズのまま睨まれた。
怖い。
「セカイ、私頑張るからね!」
「私も、頑張る」
「あ、うん。頑張ってね」
こうして、アルメルとナディアによる、メイド三番勝負が始まろうとしていたのである。
エディルメモ
『メイド三番勝負、ファイ』
読んでくださりありがとうございました。
のんびりと閑話更新です。




