2-22:背水の陣には水が熱すぎる件について
教授コメント
『君一人では陣になりません』
ようやく火山に辿り着き、僕は岩肌を駆けあがる。
後ろから迫りくるのはドラゴンの猛攻。
あの熱線が来ると厳しいと思ってたけど、それは撃ってこなかった。
そんなにポンポン撃てるものじゃないんだろうね。
「だからと言って、火球も楽じゃないんだけどね!」
『右に二メートル回避』
「おっけー!」
ステップを踏んでエディルの指示通り回避する。
火球は僕の横を通りすぎ、地面にぶつかると山肌を巻き上げる。
その砂塵に紛れて走っていれば、ようやく火口付近へと辿り着く。
「よしよし。ようやくここまでこれたね」
『時間稼ぎは十分したのでは?』
「そうだね」
『期を見て逃げるのでは?』
「いやー、期が見つからなかったんだよ」
『元から逃げる気がなかったのでは?』
「ばれたかー」
もちろん、そんなつもりは毛頭なかったさ。
昨日の反省はある。
ドラゴン討伐なんて無謀だったんだと後悔もしてる。
でも、例え僕のせいだったとしても、ナディアを傷つけたこいつに一矢報いなくちゃ気が済まないんだ。
「申し訳ないけど、自己満に付き合ってもらうよ」
『否定。謝る必要はありません』
「そっか」
『私はマスターのサポートが本意ですから』
「あり難いね」
僕がここにドラゴンを誘い込んだのにはわけがある。
一つ目は足場。
火口付近の足場は崩れやすい。
僕くらいの重さならいいけど、ドラゴンが勢いよく踏み込んで来れば間違いなく崩れるだろうね。
さすがのドラゴンも溶岩は絶えれないだろうから、警戒して近寄って来ないんじゃないかっていう算段がある。
まあ、飛べるから構わず突進してくる可能性はあるけどね。
二つ目は溶岩。
温泉にマナが含まれているということから何となく察してたんだけど、この溶岩にも多分にマナが含まれているみたいだ。
それが分かるのはこのBlessed Breathについているマナフィルターの計測器の値が示しているからだ。
火口に近づくにつれて取り込んだマナによる魔法の補正が上がってるんだよね。
つまり、ここなら僕の魔法はさっきよりも高い威力で放つことができるってことだ。
まあ、それは向こうも同じなんだけどね。
逃げることを止めて待ち構える僕の姿に、追いついて来たドラゴンは警戒する。
10m程の距離を開けて、こっちを窺ってくるドラゴン。
ここまで来て、飛ぶという選択をしないのにはやっぱり理由があるはずだ。
「弱点露出を避けるため……かな」
『腹部には鱗がありません』
やっぱりそれを警戒しているのか?
いや、でも、それだけにしては意地になりすぎている気が……。
「まあ、どっちでも構わないか」
『マナフィルターフル稼働。魔力補正率、400%を維持』
「魔力は?」
『残値220』
「なら、6分耐えればいいわけだ」
向こうでは天を仰ぎ、大気に満たされた火山のマナを吸い込むドラゴンの姿。
喉元が紅に鈍く輝き始め、次の一手が最大火力であることを感じさせる。
『了解。音域、低。倍音成分、高。属性付与、水。アイスレガシー、起動』
「真っ向勝負はしない? 搦め手っていうのはね、真っ向勝負に持ち込むためにあるんだよっ!」
ドラゴンから閃光が放たれる。
血に染まったような赤黒い熱線が迫りくる。
“Ice Legacy”
大地を震わせる重低音と共に太古よりの氷塊が僕の呼び声に応える様に晶出していく。
氷の障壁がドラゴンの熱線を受け止める。
弾かれた熱量が周囲の地面を溶かし、熱された氷が蒸気となり立ち昇っていく。
なぜ、ここでアイスレガシーを選択したか。
土の方が相性いいんじゃないのって話だけど、それは物理攻撃に対してだけだ。
物理的な接触がある場合は沸点の低い水だと、すぐに干渉できなくなる。
だから、溶けはするけど、気化することはない土の方が相性はいい。
けど、遠距離の魔法攻撃に対しては土の干渉は効果が薄い。
火球を受け止めた時も、一発で壁の役割は潰されたからね。
だから、必要なのは常に補充し、尚且つ、常に熱を奪い続ける対抗魔法。
その最適解が、このアイスレガシーだというわけだ。
『融解度20%』
くっ、それでも向こうの方が出力は高いみたいだね!
『維持できれば6分23秒の耐久は保証』
そうか、なら大丈夫だね。
『否定。マスターの息が持ちません』
息は持たせる。
『方法の提示を求めます』
スキルを使う。
僕の脳が苦痛を感じないように、酸欠を判断しないようになる、スキルを。
『酸素欠乏は細胞が死滅する可能性があります』
構わない。
『危険です』
危険なもんか。
僕のステータス見たよね?
今は偽りかもしれないけど、あんな馬鹿みたいな力を持ってるんだよ?
あれが本当に僕の力なら僕の意地に応えてくれるはずだよ。
『……了解』
ありがとう。
体のあちこちが異常を訴える。
呼吸を求めて痙攣を始める。
視界が霞む。
口の中に血の味が広がる。
それでもは吐き出し続けるこの苦悶の声に祝福を。
僕の声に、僕の自己満に、ありったけの意地を込めて。
『Insensitive LvEX、起動』
鈍感に、意識を閉ざしていく。
エディルメモ
『脳波コントロールで思考が読めます』
読んでくださりありがとうございました!
次回更新は21時で、ドラゴンとの戦いに決着がつきます。
ラブコメのはずが、3話も戦闘に使ってしまった( ゜Д゜)




